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第1話 ―箱庭の少女たち― A Vampdoll and a Bride

「っ、……ぁっ、あっ、あっ、」


 ――その夜。

 少女の甘やかな声が室内に響いていた。

 衣擦れの音が声を追うように上がるが、その音を少女の声と、二人分の吐息が掻き消す。

 赤レンガ造りの古びた洋館の一室は、昼は演習の射撃音などが響くが、月の光が兵舎をぼんやりと照らし出す夜には、トラフズクなどの野鳥や虫の鳴き声が響くばかりだった。

 

 送電が安定しないのと、いまだ電球の質が悪いのとでチラチラと(オレンジ)色にゆらめく室内灯の下、簡素な木造のベッドで、二人の少女が(いだ)き合っていた。

 寝間着である木綿(コットン)のワンピースはだけており、照り返しに映える白い肌は薄く汗をまとい、どこか淫靡でなまめかしかった。少女の頬が羞恥で染まる。


「っ、っ、っ……んんっ、」

 

 甘やかな声が漏れる。短く切り揃えた蜂蜜色の髪がシーツに広がる。少女は首筋を伝う感触に、思わずシーツを掴んだ。

 もう一方の少女は長い黒髪をシーツの海にたゆたわせながら、折り重なった少女のその火照った耳に舌をはわせた。やわらかなカーブを描く輪郭をなぞる。


「んんんっ!」

 

 舐められた少女が大きく身じろぎし、シーツがよれる。顎を上げ、首が反る。電灯に照らし出された首筋は甘やかな刺激に震えていた。

 

「いぶき、ちゃ、……っ、やっ、」

「っ、……蒼緒……っ」


 甘い声に誘われるように、黒髪の少女の頬に赤みが刺す。呼吸は熱を帯びていた。熱に浮かされるように舌先で撫で、掻き回すように円を描く。

 蜂蜜色の髪の少女が震えた。

 

「んんんっ、やっ、いぶきちゃ、あ、あっ、」

「蒼緒っ、」


 少女たちは互いに熱をはらんだ身体を持て余していた。

 黒髪の少女はたまらずその細い腰を抱いた。震える身体を(いだ)きながら、舐め上げる。

 

「っ、……ぁっ、あっ、あっ、」

 

 震える。

 その時、少女の瞳から涙がこぼれた。

 

「あ……っ、っ、っ、い、ぶき、ちゃ、……っ、おね、がいっ、……っ、」

「蒼緒……っ」


 甘くねだる声に大きく口を開き、

 そして、


 ――牙を立てた。

 

「んんんんっ!」


 少女が震える。

 少し牙を浮かすと、鮮血があふれた。甘い。たまらなく甘い。それを吸うようにして飲み込む。

 

「んんんっ、んっ、んん、っ、っ、っ、」

 

 ヒクヒクと身体が震えた。興奮は(・・・)血を(・・)美味くさせる(・・・・・・)。抱かれた少女が興奮しているのが、血の甘さからわかった。

 こらえられずにさらに吸い上げる。――と、

 

「んんんんんんん――――っ!」


 その時、甘やかな刺激に一際強く少女が震えた。吸うほどにふるふると悶える。黒髪の少女もまた震えていた。それは強い快感だった。悦びの証が少女の白い脚を濡らす。

「ん……」

 やがて震えが止まった。

 荒い息をつく。

 互いの震えが収まった頃、そっと牙を抜いた。少女の唇からのぞく長く太い牙には、赤い血が滴っていた。


 〈吸血餽〉――ヴァンプドール。


 それは美しき妖の名だった。見上げたビスクドールのような瞳は、熱を帯びていた。

 腰まである黒髪と、深い赤暗色の瞳。すらりと伸びた長い手足。


 ――それはそれは、美しい少女だった。

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