異世界に呼び出されて即捨てられました
僕の名前はマビト・クウキ
とある高校に通う普通の目立たない高校生
どれだけ目立たないかというと授業中に手を上げても先生からは指されず、プリントを配られては飛ばされ、目の前で不良に出くわしてもスルーされてしまうほどだ。
さて、そんな僕がいつものように目立たないよう一日を過ごそうとしていたその時だった。
「何だこりゃ?」
朝のHRが始まる前、先生以外のクラスメイト全員が集まっていた時に突然教室の床に妙な文字のようなものが出現し、光り輝くと
シュパアァッ!!
光が消えた時、教室には誰一人として生徒の姿が消えていたのだった。
そして消えた三十一人の生徒達の行方はというと
「いてて┅、一体何が起きたんだ?」
クラスの誰かがそう言った瞬間
「ちょっと!?何これ!?」
皆は周囲の景色が教室ではなく何処かのお城の中であることに気付いた。
その直後
「おほん、よくぞ現れたな勇者達」
いかにも王様らしくコートと冠をつけた人物が大臣らしき偉そうな顔をした人物と甲冑を着た兵士達数名を引き連れて現れた。
「余は大国の国王である。そなた達は余が勇者として活動させるべく異世界から呼び出したものである」
大国の国王がそう言うと
「ブフッ!おっさん、大国の国王とか何おかしなこと言ってんの?どうせこれだって映画のセットか何かなんでしょ。それにしてはドッキリが過ぎるんじゃ┅」
クラスメイトの一人がそう言った瞬間
「うわぁっ!?」
今の発言をしたクラスメイトは兵士達に取り押さえられてしまった。
「勇者たれど国王様への侮辱は許せん!」
「これってマジなの!ひいぃーーっ!?」
取り押さえられるクラスメイトの一人であったがようやくこれが冗談ではなく現実だと理解したようだ。
「よいよい、さて君達を呼び出した理由じゃが、勇者となって魔王を退治してもらうためじゃ」
魔王?そのような存在が実在するのだろうか
「魔王の力は凄まじく並みのものでは相手にならずに倒されていく、じゃが古文書によると魔王を倒せるのは異世界より呼び出されし勇者となっておるのじゃ」
それで僕達が呼び出されたわけか
「なお君達に拒否権はない。魔王を倒さねば元いた世界には帰さぬからな」
これって脅迫じゃないか
「冗談じゃない!そんな恐ろしい奴相手に俺達が戦えるわけないじゃん!」
「勇者だなんて勝手に言わないでください!」
大半のクラスメイトは勇者としての扱いを拒否ろうとしていた。
無理もない。
死ぬ確率が大きいというのに異世界のために戦えるわけないのだから
するとそんな僕らに対して国王は
「まぁ安心しろ。君達には勇者としての訓練を受けてもらうし、こちらも授けよう」
といって国王は大きなワゴンを用意させると
ワゴンの中にはテニスボールサイズの青い玉が入っていた。
「これはスキル玉といってこれを使えば簡単にスキルを習得できる。人数分あるから君達に授けよう」
こんな玉で本当にスキルというのが習得できるのだろうか?
という疑問を感じるなか
「よ┅よしっ!」
クラスメイトの一人が勇気を出してスキル玉を手に取り、胸に当てた瞬間
玉は体の中に入っていった。
すると
「今のは『剣術』のスキル玉だ。試しに剣を振るってみなさい」
国王にそう言われ、彼が渡された剣を振るってみると
「おぉっ!?」
剣道部所属でもなく、剣を持つのが初めてだというのに彼は立派な剣技を披露した。
そんな彼をきっかけに
「俺にもくれ!」
「私にも!」
クラスメイト達は皆スキル玉を手に取っていった。
このまま順調にいけばよかったのだが
「これで全員にスキル玉を渡し終えたようだな、では君達には勇者としての訓練を受けて┅」
と、国王が続けて言おうとしたその時
「あのぅ国王様、まだ一人残っているようですが」
一人の兵士が僕の存在に気付くと
「へっ?」
国王は間の抜けた声を出した。
「何を言っている!余は勇者を三十人呼び出したはずだぞ!」
「えぇ、ですがそこにもう一人┅」
兵士が僕を指さすと
「なぁっ!?」
国王は僕の存在に驚いた。
これは後にわかったことだがどうやら勇者は呼び出せる数に決まりがあるらしく
国王は大国の名のままに三十人という最大人数を勝ち取った。
この人数というのは絶対であり、もし違反した場合は誰であろうと罰を受けなければならないという掟があった。
「困ったぞ!?この事が他の連中の耳に入れば我が国はもうお終いだ。せっかく大国の名で最大人数である三十人を勝ち取ったというのに違反するだなんて余はどうすればいいのだ!?」
国王が少しの間、頭を悩ませていると
「そうだ!いいことを思い付いたぞ」
国王は何かを思い付いた。
その何かとは┅
「その者を捕らえよ!」
僕を捕らえることだった。
「えっ!?ちょっと!?」
国王の命によって動き出した兵士達を前に僕はあっという間に取り押さえられてしまった。
そして国王は
「お前は最初からいなかった。そうすれば余の国が違反したという事実は無くなる」
すなわち
「こやつを処刑せよ!」
僕を処刑し、呼び出した勇者の人数を合わせることだった。
「そんな馬鹿な!?」
「馬鹿はお前だ。お前のような奴が勝手にやって来て余は迷惑してるのだからな」
勝手に呼び出したのはそっちじゃないか
「誰か┅助け┅」
僕はクラスメイト達に助けを求めようと声を出すが
「あんな奴いたっけ?」
「こっちは早く勇者としての訓練を受けたいんだから早く終わらせてくれよな」
「目立たない奴なら足手まといだろ」
クラスメイト達は誰一人として僕を助けてくれなかった。
「しかし、公に処刑を行えば勇者が増えたことがバレてしまう。そうだ!そいつの処分はモンスター達にやらせてしまおう。余はなんて頭がいいのじゃ」
何処が頭がいいだ!
「安心しろ。ちょうど外れスキル玉というのがあってな、こいつをお前にくれてやる」
そう言う国王は僕にあるスキル玉を押し当てた。
「それは『魔物言語通訳』というモンスターの声がわかるという外れスキルじゃ、自分を食ってくれる魔物の声が聞けてよかったな」
何処がいいだ!
「やめっ┅」
僕は必死で抵抗するもすぐに縛られ猿轡をされて袋に入れられ
「やれ!」
袋に入れられたまま文字通り袋叩きに遭うのだった。
くそっ!突然異世界に連れてこられた挙げ句、何でこんな目に遭わなきゃならないんだ!
「さよならだ。ゴミめ」
憎い!僕をこんな目に遭わせた国王
見捨てたクラスメイト
こんな世界なんて無くなってしまえばいいんだ!
そう僕が袋の中で思っていながら数時間ぐらいが経過した頃
ドシンッ!!
「ここならいいだろう。あばよ!」
僕を落とす音と兵士の声が聞こえ
「んんーっ!」
僕が必死に袋の中から出てくると
そこはさっきまでいた城ではなく森の中であった。
こんなところでこんな状態で放置だなんて嘗めている
生きて帰ったら奴らに復讐してやる!
僕がそう思ったその時
茂みの中で何かが動くと
『ギャシャシャッ!!』
小柄な姿をした緑色をした怪物が三匹現れた。
あれはたぶんファンタジー等でよく出てくる『ゴブリン』であろう
『ゲギャギャッ!』
どうやらゴブリン達は僕を食べようと出てきたらしい
フッ、さっきまで皆に復讐してやろうかと思ったけどここで死んでしまうならもうどうでもいいや
僕は猿轡をほどくと
「さぁ、僕を食べてくれ」
僕は言葉が通じるかどうかわからないがゴブリン達に対して食べるよう言った。
これでもう楽ができる。
僕はそう思っていたのだが
『ゲギャ?ゲギャギャッ!?』
ゴブリン達が急に騒ぎ出した。
何が起きたのだろうかと耳を澄ますと
「おい、こいつ俺達の言葉を喋ったぞ!?」
ゴブリン達の会話が聞こえてきた。
どうやらこれが国王が僕に渡したスキル『魔物言語通訳』の効果らしい
国王は相手の言葉のみがわかるスキルだと思っていたようだがもしかして┅
「まさか、人間が俺達の言葉を話すわけないだろ」
「でも念のため」
一匹のゴブリンが恐る恐る僕の方に近づくと
「おい、お前、もう一回喋ってみろよ」
と、僕に言ってきたので
「なぁに?」
と、僕が言い返すと
「なっ!今の聞いたろ!俺達の言葉を喋ったぜ!」
「マジかよ!?」
「どうなってるんだ?」
僕は普通に言葉を発しているのだがゴブリン達には自分達の言葉に聞こえるらしい
だが今ので確信した。
『魔物言語通訳』は互いの言葉がわかるスキルであると
すると
「なぁ、こいつは食わずに連れて帰ろうぜ」
「どうしようってんだ?」
「どうせ親分に見つかれば食われるぞ」
「親分にはとりあえず誤魔化しとくさ」
ゴブリン達が何かを話し合うと
「そらよっ!」
一匹のゴブリンが僕をかついで何処かに連れていこうとしていた。
これから僕はどうなるのだろうか?