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エレベーター

作者:

 ボタンを押すと静かに重々しい扉が開き、中へと記者を誘っていた。

多少気が引けるが他に乗る人間が現れる前に入り、扉を閉めてしまうのが吉だろうと思い、扉を跨いだ。中の空気は心なしか重々しかった。

 記者は静かに最上階を押した。別に最上階に用があるわけではない。ただ、長くエレベータに乗るのが目的だった。

 というのも数日前、記者の働く編集部に一本のタレコミが入った。今時タレコミなんて珍しいと思い、半信半疑で話を聞くと電話の主は警備会社の人間だという。彼が言うにはとある百貨店のエレベーター内で人が忽然と姿を消すのを防犯カメラ越しに何度も見たという。

 この手のいたずらや都市伝説はありふれているが今回の電話越しの熱意は異様なモノだった。

「警察には相談を?」

「いえ、それが上の人間に止められまして、口外するなと。なので苦肉の策で週刊誌を頼ったのです」

 確かにウチの雑誌は都市伝説や妙な噂を脚色して記事にはするがタレコミが来たのなんて何年ぶりだったか。

 記者の中の好奇心は久しぶりの餌を前に奇妙な小躍りをしていた。



 数日後、男の言った百貨店に記者は向かった。古い外観とは裏腹に店内は商品共々すみずみまで煌いていた。

 男の働いている警備会社に問い合わせて防犯カメラを見たいと連絡したが、週刊誌の記者だからか、上からの圧力からか相手にされなかった。あわよくばエレベーターを停めて中の構造まで見てみたかったのだがこの様子だと厳しいだろう。

 仕方ないので記者は噂のエレベーターに乗ることにした。ここに入れば事が起こらなくとも何かしら思う事があるかもしれない。



 そんないきさつを思い出していると足首からくるぶしにかけてチクリとした痛みが走った。痛み自体は大したことは無いのだが、唐突な痛みに驚いた。記者は咄嗟に足首を上げると痛みの元を確かめるべくズボンのすそを上げた。

 男は目を見開き、自分が何を見ているのか理解できなかった。

 足首に居たのは爪ほどの大きさの小人達だった。その数十人は居る小人は三角帽子に白黒で書かれた笑顔のお面を被り、持っているピッケルで男の足を指していた。記者は慌てて小人を手で払おうとした。しかし、手は空を切るばかりで小人には触れることも出来なかった、

 すると、見る見るうちに足は靴ごと溶けていった。痛みは無かった。恐ろしく思い、足を引っ込めようにも足の面積が伸びるばかりで自由は一切きかなかった。

 すると小人は徐々に徐々に体を登ってきた。

 恐怖から流れる涙は頬をつたい、腹にくいこんだ。もう記者の身体は液体よりも粘度が低くなっていった。それでも決して千切れることは無かった。

 気づかぬうちにエレベーターの床を満たした男はそのうち隙間からすぅーっと垂れていった。途切れることなく、千切れることなく、オイルのように滑らかに落ちていった。

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