第一話[Encounter]
「なぁんか、思ったよりパッとしないわね」
周囲を睥睨しながら、声を潜めるでもなく傲然とぼやくのは当然ミズホだ。
その後ろをついて歩きつつ、全く以て平然と、どうでもよさそうにユーリが応える。
「閉店待ったなし、って噂だしな。新しい機械入れる余裕もないんだろ」
そしてそのユーリの影に隠れるようにして、おっかなびっくりとナオ。
「時津さん。流石にまずいんじゃ……?」
ナオ達三人が現在居るのは近場のゲームセンターであった。ちなみに絶賛下校中であり、三人とも当然制服姿だ。通っている中学校から徒歩圏内に存在するゲームセンター『スターサルコー』はナオ達が生まれる前から経営しているというちょっとした老舗である。たまに頑張って最新の筐体を導入したりもするが、基本的には旬の過ぎた一昔前のゲームで遊ぶ場所、といった風情だ。
「まー最近は筐体ゲーも流行らないっぽいし、これでも頑張ってるほうなのかしら」
「ガラの悪い連中がたむろするでもないみたいだし、これはこれでいんじゃね」
「先生にばれたら、絶対怒られるよ……?」
下校途中で制服のままゲーセンなんて、それこそユーリの言う『ガラの悪い連中』の行いそのものにしか思えないナオであったが、他の二人は何処吹く風だ。ミズホは十中八九、教師に怒られることなど微塵も恐れていないに違いない。ユーリはたぶん開き直っている。来てしまった以上はとりあえず楽しんでおこう、みたいなきっぱりとした割り切りはナオにはちょっと真似できそうにない。
ちなみに周囲の客層は専ら暇な社会人や老人、大学生だ。
一刻も早く立ち去りたい、といったナオの様子に、先頭を歩くミズホがくるりと振り返って笑った。
「バレたらそんときは、あたしに無理矢理つれてこられたって言っときなさい!」
「え。ダメだよ。時津さんがわるものになっちゃう」
「あたしは気にしないけど」
「私が気にするの!」
「そもそもどっちも事実だけどな」
うっさし、と言ってミズホがユーリの脚をげしっと蹴りつけると、ユーリは飄々と肩を竦めた。ことの発端はいつも通りの下校途中に、いつも通りの景色に飽きて痺れを切らしたミズホが「寄り道しましょ!」などと言い出したことだ。ナオもユーリも、ミズホが一度言い出したら聞かないことはよく知っていたので、しょうがないから付き合ってやるか、くらいの気持ちでいたらこれである。
「さて、ナオが泣いちゃう前に帰りましょっか」
「ん。もういいのか?」
さほど広くもない店内をぐるりと見て回り、実にあっけらかんとミズホが言う。ナオがコクコクと頷く横で、ユーリは少し意外そうだった。
「ゲーセンに来てゲームしないで帰るのか?」
「だってやりたいものがないんだもん。てか、そんなにお金持ってないし」
「えぇ……じゃあなんで来たんだよ」
「暇つぶしよ。それ以外にある?」
出入り口付近のクレーンゲームのコーナーに通り掛かった際、ミズホは足を止めて「そうねぇ……」と意味ありげに呟いた。
「せっかく来たのに、っていうユーリの主張もわからなくはないわ!」
いや別に、と言いかけたユーリは当然のように無視された。
「というわけで、ユーリがクレーンでなんかゲットして、ナオにプレゼントしてくれるらしいわよ」
「え? そうなの?」
「さあユーリ! 無理矢理つれてこられちゃったかわいそうなナオを慰めると思って!」
瞳を白黒させるナオを余所に、ユーリは『元凶が言うなよ』とでも言いたげに苦笑するものの、結局は「しゃーない」と呟いてクレーンゲームのコーナーへと歩いて行く。その後ろにミズホが当然のように続き、ナオも慌てて追いかける。
「言っとくけど、得意でもなんでもないからな。上手くとれなくても怒るなよ」
「それはそれでおもろいから良し」
「おもろいか?」
「ぶっちゃけユーリが悔しがる顔とか、見たいわ」
「それは私もちょっと見てみたいかも」
「……期待に添えるよう善処するよ」
そう言ってユーリが無造作に硬貨を投入したのはオーソドックスなUFOキャッチャーだ。景品は掌に収まるくらいの大きさのぬいぐるみのキーホルダーのようだ。かわいらしさを前面に押し出した、デフォルメされた動物のデザインだった。
「お。お。うまいじゃない……そのまま、そのまま」
「ああ!おしいっ」
一回目にしてクレーンは景品を捉え、危うい挙動で持ち上げて見せた。だが、クレーンが横に動き出した途端にぽろりと景品を取り落としてしまう。そのまま2回目、3回目と挑戦するものの、同じようにおしいところで失敗してしまう。
「ふむ……」
一喜一憂するナオ達とは対照的に、ユーリは憎らしいくらいに冷静で、次の硬貨を投入する。ほとんど迷う様子もなく彼が操作したクレーンは、一回目に狙った辺りに再び下降して、なんと2つの景品を同時につかみ取ってみせた。取出口に落ちてきた景品を手に取ると、ユーリは大して得意そうでもなくそれをナオ達に見せた。くりくりした瞳が愛らしい、デフォルメされたネコのぬいぐるみだ。妖精みたいな小さな翅がある。2つの景品は色違いの同じもので、片方がピンク、他方がライトブルーの毛並みをしていた。そしてライトブルーのそれをぶっきらぼうにナオへと渡す。
「ほら。ナオ。やる」
「え。そんな、悪いよ。ユーリが取ったんだし、」
「俺がこんなの持っててもしょうがないだろ」
苦笑気味に言って、半ば強引にナオにぬいぐるみを握らせたユーリは、もう一つのピンクのソレをごく自然にミズホへと差し出した。結局ユーリがほとんど苦戦もしなかった事実をつまらなさそうに見遣っていたミズホは、眼前に突きつけられた『妖精ネコ』にきょとんと瞳を丸くした。
「へ? あたしにもくれるの?」
「なんのために2つ取ったと思ってるんだよ」
「あたし、こういうの持ったことないんだけど……」
確かにミズホは飾り気のない少女だった。同年代が好むようなキャラグッズとか、キーホルダーとか、アクセサリーとか、その類いのものを持っている姿を見たことがない。かといって、その類いのものにまったく興味がないのかというと、必ずしもそうではないことはナオにもわかっていた。ナオでもわかるのだから、きっとユーリには当然お見通しだったのだろう。
「でも、好きだろ? こういうの」
「私とおそろいだね。時津さん!」
少しだけ笑ったユーリの顔と、満面の笑みを浮かべたナオに押されるようにミズホは『妖精ネコ』のぬいぐるみを受け取る。大量生産のぬいぐるみに小さなキーリングが付けられただけの安っぽいキーホルダーを掌に収め、ミズホはまるで奇妙なものでも見るかのようにしていた。
「え、えっと……」
それからミズホは挙動不審にちょっとだけ視線を彷徨わせると、
「…………ありがと」
そう、小さな声で呟いて、くすぐったそうにはにかんだ。
◇◇◇
稀人志篇 第一話 [Encounter]
◇◇◇
「――起きて。ナオ。起きて!」
呼ぶ声に、意識が覚醒する。
「う、ん……?」
最初に瞳に映ったのは、押し潰すような漆黒だった。
空だ。
星明りの一つとして見当たらない、宵闇を凝縮したような一面の夜空だった。
「…………あれ。私、」
茫洋と夜空を見上げるナオは、ようやく、自分が仰向けに倒れていることに気付く。背に受けるのは硬い地面の感触。無造作に投げ出された四肢には、むき出しの素肌にざらつく砂の不快感。寝心地は最悪、寝覚めの気分は最低の部類に入るだろう。
そんなナオの視界に不意になにかが入り込んだ。
空を見上げるナオの顔を覗き込むように、ひょっこりと。
「おはよ。ナオ」
「えっ……と、おはよう?」
「夜だけどね」
気さくに告げながら、それはナオの頭の上でぷかぷかと浮かんでいた。どうやら、体長20センチほどの子猫のように見える。なんだかとても見覚えのある造詣の、アニメ調にデフォルメされた2.5頭身くらいのネコが、妖精じみたちっちゃな翅をぱたぱたとはためかせている。毛並みの色彩は白に近い淡桃色で、ほのかに光を纏っているようだった。漆黒の宵闇をバックにして矢鱈と存在感を放っていた。
寝起きでぼんやりとした思考が幸いしてか、ナオは不思議と冷静だった。少なくともナオの知っているネコは翅が生えていないし、当然宙に浮かない。淡い光を纏っているネコには出会ったことがないし、そもそもネコは喋らない。
そして、そのネコの声には聞き覚えがあった。
「その声……時津さん?」
「その様子だと、直前までの経緯は覚えてるみたいね」
ナオの疑問には肯定も否定もせず、妖精ネコはナオの視界の外へと移動する。その姿を追うようにしてナオが漸く身体を起こすと、周囲の景色が視界に映る。
夜の屋外であることはわかっていたが、どうやらここは廃墟か、ともすれば遺跡かなにかのようだった。ナオが横たわっていた地面は、赤茶けた砂に半ば埋もれた石畳だ。規則性をもって立ち並ぶ無数の列柱と、それらを結ぶアーチ状の構造体。石造りの見事な彫刻が施されていたであろうそれらは、無残にひび割れ、砕け落ち、かつての栄華の面影を微かに残すのみだ。一定の間隔で配置された燭台には橙とも黄ともつかない不思議な色の炎が灯り、輝く妖精ネコ以外にはこの場で唯一の光源となっている。近くの景色は比較的把握できるものの、遠く離れる程に闇はその深さを増し、並ぶ列柱の向こうはとっぷりと闇に沈み、燭台の炎が鬼火のように浮かんでいるのが辛うじて把握できるだけだった。
おそらく、相当に広い。
そして、背筋が凍るほどに静かだった。
「ねえネコさん。ここって……」
発した声は闇の中に吸い込まれるように、反響もしない。ぱたぱたと浮かぶ妖精ネコは窺うようにナオの顔を見詰めていたが、とりあえずは冷静だと判断したのか、ふいと視線を外して周囲に視線を走らせる。
「待って」
まずは移動しましょう、と言われてナオは素直に従い、その場に立ち上がる。横たわっていたせいで砂まみれの制服を苦し紛れに払っておく。プリーツスカートの砂を払うために視線を落とすと、足下に何かが落ちていることに気付く。
掌に収まる程度の、純白の長方形。ミズホのスマートフォンだ。屈んで拾い上げ、やはり砂まみれのそれを軽くはたく。すると電源が入っているようで、ディスプレイに光が灯る。表示されていたのは妖精ネコの精緻なアニメーションと、アルファベットの羅列。
「MIKOTO……ミコト?」
表示された文字をナオが読み上げると、妖精ネコが「あたしの名前よ」と応えた。
「あたしは時津ミズホのパーソナリティを元に作成された人工精霊のミコト。そのスマホが本体で、ネコの姿は実体のある映像だとでも思って」
「精霊?」
「使い魔。式神。それかAIでも良いわよ。ヘイミコト、ってナオがいうと『ご用でしょうか?』って返事する感じのヤツ」
「つまり?」
「平たく言えばお助けキャラね」
成程、とわかったようなわからないような返事をして、ナオは先導して浮遊するミコトの光を追って歩き出した。ミズホ本人ではないらしいが、要するにミズホがナオのために用意してくれた存在なのだろう。正直、現状がまったくわからないのにナオが取り乱さずに居られるのは十割方ミコトの存在のおかげだった。
疑問は山ほどある。ここは何処なのか、何故自分は倒れていたのか、ミズホ本人とユーリはどこに居るのか。言い出せばきっとキリがないけど、まずはこの場所を離れようというミコトの提案には全面的に賛成だった。
明らかに、ここは、ヒトの居るべき場所じゃない。
◇◇◇
小一時間は歩いただろうか。思った通り、ここは相当に広い空間のようだ。暗がりのせいで距離感が全然わからないが、それなりの高低差もある。先導するミコトを追いかけて黙々と歩き、もういくつの階段を上がって、いくつの角を曲がり、また下ったのか、もうさっぱりわからない。ミコトを質問攻めにしたい気持ちは山々なのだが、それが得策ではないことくらいはナオにもわかる。ここはあまりにも静かで、それ故にナオ達の声は良く響いてしまう。だから、おそらくミコトは警戒しているのだ。
時折、周囲に感じる『なにか』の気配を。
「止まって」
不意にミコトが告げる。
ナオ達は路地ほどの幅の石造りの橋に差し掛かっていた。端から下を見下ろせば、10メートルほど下方にナオが最初に目覚めたような石畳の地面が見える。さっき下から見上げていた列柱のアーチの上を歩いているのだ。勿論、同じ場所に戻ってきたわけではなく、この場にはこういった立体交差が無数に存在しているのだろう。
そして、ナオ達のちょうど真下になにかが居た。
「……?」
橋の端で四つん這いになって下を覗き込むナオの、それに対する第一印象は『虫』だった。景色に溶け込むような赤茶色をした甲殻のように見える。ただし、その大きさが尋常ではない。全幅は優に数メートルはあるだろうか。乗用車などよりも余程大きい。巨大すぎる甲殻の下に潜り込むような脚らしきものが辛うじて見える。もしかすると全体像は虫と言うよりも亀に近いのかも知れない。
「なに、あれ……生き物?」
「そ。眠ってるだけ」
半信半疑の呟きはミコトにあっけらかんと肯定された。
「あれは魔物と呼ばれる存在よ」
「レギオン……」
「端的に言えばもののけ。バケモノの類いね」
行くわよ、と促されてナオは立ち上がり、先程まで以上に足音を殺して歩き始める。ミコトはこのレギオンとやらを見せるために一時停止したのだろう。
「今見たのはクラスBの魔物。甲殻獣系大型種『シュベ―ルエアーデ』ね。昼行性だから夜の間は基本的に寝てるわ。好戦的で気性の荒い魔物だけど、索敵能力がお粗末だからやり過ごすのは難しくない」
「もし、見つかったら……?」
「死ぬわ。間違いなく」
「ひぇ」
「というか、今のナオならどんな魔物に見つかっても死ぬと思う」
振り向きもせずにミコトが告げる静かな言葉に、ナオはもしかしてと思い当たる。
「ミコトが急に曲がったり、たまに止まったりするのって、」
「魔物に出会わないルートを選んでるからよ」
「……さっきのみたいのがそこら中に居たりするの?」
「居るわ。基本的には寝てるけどね。ここらの魔物よりはあたしのほうが索敵能力が高いから、起きてるヤツが居ても事前に回避するのは難しくない」
「それで、どこを目指してるの?」
「出口よ」
実のところ、現状が把握できていないのはミコトも同じらしい。無論、魔物について流暢に説明して見せたように、ミコトにはこの場についての知識はあるし、現在位置と出口の関係性もわかっている。
「ナオがここで目覚めたのは偶然だから、あたしも場当たり的に最善策を模索しているに過ぎないわけ」
「そういう意味では、とりあえずは運が良かったってことかな?」
少なくとも、この状況は僥倖に違いない。時間がたまたま夜で、しかも周囲の魔物がたまたま夜行性ではなかった。そのどちらかが欠けていればナオは既に死んでいたかも知れないのだ。
「ナオがここで目覚めたのは偶然だけど、無作為ではないのよ」
「えっと……?」
「因果律を演算して、最もマシな偶然を選んだのよ。オリジナルがね」
オリジナル、とはつまり時津ミズホ本人のことだろう。
「てことは、今のこの状況が『一番マシ』なの……?」
「そーよ。ナオが寝てるうちに死んじゃう環境とか、どうあっても生き残れないような状況はとりあえず回避したわけ」
確かに、それを思えば現状はとりあえず五体満足で怪我もしていないので、マシな状況ではあるのかもしれない。
無論、このまま脱出できずに魔物の餌にならなければ、の話ではあるが。
「三崎くんは、近くには居ないんだよね?」
「たぶんね」
「たぶん?」
「ユーリの現在位置も同じように、オリジナルが最もマシな状況を選んだはずよ。でもそれはナオと同じ場所ではないし、近くに居る可能性を完全に否定はできないけど、現状では、この世界のどこかには居る、というしかないわね」
ナオがミコトの本体であるスマホを持っている以上、ユーリのほうにはお助けキャラは存在しないはずだ。
心配でしかたないが、この場合はむしろ、ナオのほうにミコトが居てくれたことを素直に喜ぶべきであろうか。
ミコトの存在を加味して現状が一番マシな状況であるというならば、ミコトが居なければたぶんもう死んでた気がする。
「出口って、遠いの?」
「距離で言えば決して遠くはない」
「でも、魔物を避けて進まなくちゃいけないから……」
「そ。最短距離を目指しては居るけど、朝までに出口にたどり着けるかは微妙なところね」
「魔物が起き始めたら、今みたいにはいかないってことだよね」
ナオの言葉にミコトは「そうね」と言葉少なに返す。
「ちなみに、ミコトの光って魔物から見えたりはしないの?」
「あたし今、サイレントモードだから。ナオ以外には見えないのよ」
「ふーん?」
マナーモードとか、機内モードとかあるのだろうか。
スマホが本体らしいから、なんとなくありそうな気がする。
不意に、ナオを先導していたミコトが立ち止まる。
ふわふわと宙に浮いているので、立ち止まるというのは変な表現かもしれないけど。
また進行方向に魔物が居たのか、と思うも、どうにもちょっと様子が違う感じだ。
「どしたの?」
「聞いて。ナオ。少し離れた場所にヒトが居るわ」
「え?ほんとに?」
これで助かった、と喜びかけたナオは、しかしミコトが難しい貌をしていることに気付く。
「おそらく、魔物を狩りに来た探索者だとは思うんだけど……」
「へー。そんなヒト達も居るんだね」
「でも、そいつらが善良な性質であるとは限らないわ。探索者って実力主義の世界だから、犯罪者スレスレの荒くれだって珍しくないし」
ナオが助けを求めたところで、応じてくれるとは限らないということか。
犯罪者まがいの荒くれが、こんな人目のない場所で若い女を見付けたら、どうなってしまうのかはあまり考えたくない。
「ここの魔物は昼行性だから、夜を狙って狩りに来るのは理に適ってる。だから、ヒトが居ること自体はなんらおかしくない」
「保護してもらえるかな?」
「してもらえる、と思う。……ただ、ナオは可愛いから、ちょっとその、不愉快な思いをすることになるかも」
だいぶオブラートに包んでくれているが、要は女としての危険があるかも、ということだろう。
ちなみに、ミコトにわかるのは離れた場所にヒトが居ることだけで、その性別とかまではわからないらしい。実力主義の世界である探索者は意外にも男社会というわけではないらしいが、はてさて。
とはいえど、ナオに選択肢は無いに等しい。
バケモノに食われるか、男に食われるか、どちらがマシかと言われれば当然後者だし、保護に対価を求められたら結局ナオが支払えるものなど身体しか無いのだ。
そもそも、普通に善いヒト達かもしれないし。
今のこの状況はミズホが一番マシな偶然を選んでくれた結果だとミコトも言っていたではないか。
「そしたら、親友を信じて、助けを求めてみようかな」
◇◇◇
ミコトの案内に従って少し歩くと、ナオにもすぐにヒトの気配を感じられた。
あまり明瞭には聞き取れないが、明らかなヒトの声と、走るような音が聞こえたのだ。
探索者ならば魔物と絶賛戦闘中かもしれないので、接触するのは少し様子を見てからのほうが良い、というミコトの助言に従って、ナオは燭台の明かりを避けて闇の中を進んでいた。
淡く輝くミコトが足元を照らしてくれるので移動に不自由はないが、ミコトの姿は現状ナオにしか見えないらしいので、この明かりもナオにしか見えていないのだろう。ちょっと不思議な感覚だ。
「あ……」
前方、ナオから50mくらいは離れているだろうか。
居並ぶ燭台の明かりの中に、人影が見えた。
数は2つ。
ナオの前方を横切るように、走っているらしい。聞こえていた足音は彼らのものだろう。
魔物との戦闘中という風にも見えないが、もしかして、逆に魔物に追われていたりするのだろうか。
そのくらい、なんというか、必死な様子に見えるのだ。
ともあれ、どうするか。
あの勢いでは、すぐにナオの視界の外に走り去ってしまう。
声を掛けるのであれば、追わねば。
逡巡していたナオの視線の先で、人影の片脚が吹き飛んだ。
「――――え?」
人影が走ってきた方向からなにかが飛来し、片方の脚を膝くらいから切断したのだ。
幸か不幸かナオの位置からは鮮明には見えないが、燭台に照らされ長く伸びた影が、派手に飛び散る血飛沫の存在を教えてくれる。
そして、絶叫。
脚を切断されたほうの人影は男性だったようで、ナオがこれまでの人生で一度も聞いたことがないような叫び声をあげて、走る勢いのままに崩れ落ちる。ともに走っていたもう一人は、崩れ落ちた男性を助け起こそうとするような動きを見せたが、すぐに腰の剣らしきものを抜いて周囲を警戒し始めた。
彼らの周囲で無数の影が、闇の中から現れる。
絶叫を聞きつけたのか、目を覚ました魔物が寄ってきたのだ。
ゴツゴツした狼のような四足の魔物が次から次へと湧いてきて、あっという間に倒れた男性と、剣を抜いた人物を取り囲んでしまう。
あとは、蹂躙劇だった。
剣を持っていたのは女性だったようで、魔物の群れに呑まれた彼女の断末魔が響き渡る。
ナオは無意識に後退っていた。
今、目の前で、ヒトが殺されようとしているのだ。
「最悪ね……あいつ等だわ」
吐き捨てるように言い、ミコトは蹂躙劇の後方を睨んでいる。
カチカチと歯の根が合わないナオがそちらを見ると、闇の中に更に複数の人影があるのが燭台の明かりでおぼろげに見えた。
断末魔と魔物の咀嚼音に紛れて確かに聞こえるのは、嗤い声だった。
信じられない。
あの凄惨な光景を見て、嗤っている奴らがいるのだ。
「ヒトを魔物に襲わせて、遊んでるんだわ」
「そ、そんな……」
嗤う人影はナオから見て取れる範囲だけでも十人近く居る。
走っていた二人は、アイツらから必死に逃げていたのだ。
「ナオ。気をしっかり持って」
「あ、ああ……」
「アイツら、こっちには気付いてない。今のうちに逃げるの、早く!」
先導のために飛び出したミコトを追って、咄嗟に踵を返そうとしたナオの判断は、残念ながら少し遅かった。
気付けば、ナオの上空に奇妙な影が浮かんでいた。
大きな眼球に蝙蝠の翼を融合したような、奇妙な形状の生き物だった。
その眼球が、ナオの姿を捉えている。
「使い魔……!」
ミコトの戦慄した声を聞くまでもなく悟る。
見つかってしまったのだ。
「走って!!」
もう、なりふり構っていられる状況じゃない。
ナオは脱兎の如く駆け出した。
足が縺れなかったのは奇跡かもしれない。
とにかく、先導するミコトの光を追って、がむしゃらに走る。
ヤバい。ヤバいヤバいヤバい――!
後方からは複数の足音と、怒鳴るような声。
周囲からはヒトのものではない気配。
もう、なにがなんだかわからない。
飛行する一つ目の使い魔とやらは耳障りな羽音を立ててナオ達を追跡してくる。
捕まれば、間違いなく死ぬ。
殺される。
先程目の当たりにした、血飛沫の陰影と断末魔が脳裏から離れない。
あまりの恐怖に涙を流しながら、懸命に走るしかない。
「ダメっ!ナオ避けて!!」
ミコトの悲鳴染みた警告とほぼ同時だった。
背後から鋭い風切り音とともになにかが飛んできて、ナオの右脹脛を深々と抉った。
ナオはバランスを崩して転倒し、石畳の上を10m近くも転がった。
一度も経験したことのない灼熱の激痛に、叫ばずには居られなかった。
「あああああああっ!!!?」
先程の男性の脚を切断した攻撃と同じものを食らったのだ。
ナオの脚こそ繋がっているが、もはや立つこともできない。
バクバクと早鐘を打つ心臓の鼓動に合わせて、ばっくりと裂けた傷口からだくだくと血液が溢れる。
動けなくなったナオの前に、ついに追手が立つ。
傷口を抑えて倒れ伏すナオを見下ろすのは、闇に溶け込む黒い衣装を纏った異国の男だった。つぶさに観察している余裕などないが、おそらくは白人系の、中年くらいの男だ。
目深に被ったフードの下から、ニヤニヤと下卑た表情でナオを眺めている。
上空では、一つ目の使い魔とミコトが小規模の取っ組み合いをしていた。
ミコトのステルスも万全ではないのか、あるいはナオを助けようとしてくれたのか、ミコトはデフォルメされた顔に必死の形相を浮かべているが、戦況は芳しくなさそうだった。
男は嗤いながら何事かを呟く。
当然というか日本語ではなくて、ナオにはなんと言ったのか聞き取れなかったが、でも意味は想像がつく。
手間を掛けさせやがって、みたいなことを言ったのだろう。
男はそのままナオのほうに手を伸ばしてきて――
「――まったくだ」
直後、ナオの後方から凄まじい速度で飛んできた『輝くなにか』にぶち当たって吹き飛んだ。
舞い散る緋色の光を浴びながら、ナオがなんとかそちらを見ると、暗がりから誰かが歩いてくるところだった。
屈強な体格の、若い男だった。
闇を解かしたような黒髪に、熾火の如き緋色の瞳。
その男が歩きながら片手を振ると、ナオの右脚に、傷口を覆うように緋色の光の帯が幾重にも巻き付く。
強い圧力で締め付けられナオは思わず呻き声を上げてしまうが、圧迫感と引き換えに痛みは幾分か和らいだようだった。
ナオの傍らまで歩いてきた黒髪の男と、倒れたままのナオを囲むように、複数の気配が。
吹き飛んだ男以外の追手と、魔物が集まってきているのだ。
黒髪の男は無表情に周囲を一瞥すると、視線だけでナオを見下ろす。
「……見ないほうが良い」
あまり愉快な光景じゃない、と低い声で呟き、その右手にぼう、と緋色の炎を燈す。
その魔法のような輝きに、ナオは思わず呆然と魅入り。
揺らめく炎に誘われるままに、眠るように意識を手放した。
◇◇◇
チチチ、と小鳥のさえずりが聞こえる。
閉じた瞼を通して淡く届く光が覚醒を促してくるが、この微睡みは手放しがたい。
「うー…ん」
ナオはシーツを手繰るように引き寄せ、身体を小さく丸めてひと心地つく。
うん。これでいい。
このまま眠れば、きっと気持ちがいいハズだ。
「すぅ……――」
…………。
「――じゃないでしょッ!?」
がばりと勢いよく跳ね起きる。
意識が落ちる前に目の当たりにした、忘れたくても忘れられない光景を反芻し、警戒心も顕わにとにかく周囲に視線を巡らした。
少なくとも、一つ目の使い魔も黒フードの男も居ないことを確認し、ようやく息を吐き出す。
「はて?」
どうやら危機は去ったようなのだが、一体なにがどうなったのだろうか。
改めて、落ち着いて視線を巡らすと、ペンションを思わせる木造の一室の中だった。
それほど広い部屋でなく、アンティーク調の最低限の家具で飾られた、なかなか小洒落た雰囲気だ。
出入口と思しき扉が一箇所、その対面の壁にはやはり窓が一箇所。
窓からは朝の白い陽ざしが差し込んでいるが、アーティスティックなモザイクガラスになっていて外の景色は伺えない。
その窓際のベッドの上が、ナオの目覚めた場所であった。
きょろきょろと、部屋の中を観察してみるが、なんだか生活感が無い感じだ。
椅子の上に無造作に置かれたくたびれたザック以外に、ヒトの息遣いを感じさせる要素がない。
ひょっとして、ホテルかなにかの一室だろうか。
そう考えると、わりとしっくりきた。
ということは、あのザックはこの部屋の滞在者の私物か。
よく見れば、部屋の隅の化粧台らしき場所にはルームキーのようなものが置かれているではないか。
「あれ?私って……」
怪我してたよね、と今更思い出して、ナオは身体にかかっていたシーツを除けて、ベッドのふちに腰掛けるようにして両足を下ろした。
寝ている間に着替えさせられていたようで、ナオの服装は腿丈のロングTシャツに変わっていた。いかにも部屋着でござい!と言わんばかりの地味なデザインで、そこはかとなく着古された感がある。その裾から覗く右脚には、ぴっちりと几帳面に包帯が巻かれていた。傷を負った時の尋常でない痛みを思い出して、恐る恐る包帯の上から触れてみると、拍子抜けするくらいに痛みが無い。
少し突っ張ったような感覚があるが、それだけ。
思い切ってその場に立ってみると、やっぱり普通に立てたし、歩ける。
歩くと流石に、鈍い痛みがあるので、走るのは無理そうだった。
「これ、誰が着せてくれたんだろ」
ナオは部屋着でも寝巻でもわりときっちり着込むタイプなので、こういうラフな格好は滅多にしない。
ちなみにTシャツの下にはなにも着ていない。
すっぽんぽんである。
首元というか、胸元が結構ゆるゆるで、ブラジャーも無いせいかすごく風通しが良く感じてしまう。たぶん、元からこうだったわけではなくて、誰かが着ているうちに布地が伸びてしまったのだろう。
自分の服はどこに行ってしまったのかと、もう一度周囲を探すと、ベッドサイドに見覚えのあるものが置かれていたことに気付く。
黒と白の、二つのスマートフォンだ。
黒いのはナオ自身のもの。白いのはミズホのものだ。
ミズホのスマホを手に取って電源らしきボタンを押してみると、あっさりとディスプレイが点灯した。
そこにはすやすやと寝息を立てる妖精ネコの精緻なアニメーションが表示されていて、『MIKOTO休眠中。起こさないでネ!』との文字が。
なんだかよくわからないことだらけだが、とりあえずミコトも無事みたいだ。
ついでに試してみた自分のスマホは相変わらず電池切れで、うんともすんとも言わなかった。
それから、スマホの横にはナオのヘアゴムと、生徒手帳。
着ていた制服のポケットに入っていたものがまとめて置いてあるみたいだった。
「…………」
結局、ここは誰の部屋で、何故ナオがここに寝ていたのかはさっぱりだ。
一番に思い当たるのは、昨夜ナオを助けてくれた黒髪の男性だ。
私物がくたびれたザック一つだけというのも、なんというか実にらしいではないか。
無論、ナオの勝手な先入観以外の何物でもないが。
ザックを開けて中身を見てみようかとも思ったが、それはそれで気が引ける。
というか、ここがあの男性の借りている部屋だったとしたら、当然ナオを着替えさせたのも彼になるわけで。
「あ~……」
いや、手当までしてもらって文句など言えた筋合いではないのは百も承知だけど。
差し当っては考えないことにしよう。
そう結論して、ナオは部屋の外に出てみることにした。
ミコトを起こすことも考えたが、よく眠ってるみたいだし、至近に危険もなさそうだし。
化粧台の上のルームキーを一応持って、ナオは扉へと向かう。
施錠されていた鍵を開け、古びた蝶番を鳴らしながら内開きの扉を引く。
「…………おお」
ちょっとだけ顔を覗かせて外の様子を見ると、室内と同じアンティークな木目調の廊下だった。
横を見れば一定間隔で同じ扉が並んでいて、どうやらナオの予想通り、宿泊施設の一角のように思える。
寝巻一枚(しかも下は裸)で廊下に出るのもどうかと思うが、着替える服が無いのだからしかたがない、と自己弁護しつつ、ナオは部屋から出て扉を施錠した。本音を言えばすぐにでも逃げ込めるように開けっ放しにしておきたいくらいなのだが、他人の私物も置いてある以上、鍵は掛けておくべきだろう、と変な責任感が顔を覗かせる。
と、鍵を閉めたナオが横を向くと、廊下の突き当りから誰かが曲がって出てきた。
驚いた猫のように、思わず動きが止まる。
現れたのは、初老くらいの男性だった。
仕立ては良いが質素な衣服を纏った、恰幅の良い、人の良さそうな雰囲気の男性だ。
白髪交じりの金髪と、たっぷりの口ひげを蓄えた、いかにもジェントルメンといった感じの白人である。
彼は寝巻のナオを見付けると少し驚いたように表情を動かしたが、すぐに温和な笑みを浮かべた。
「□□□□□□□□!」
そのまま片手を軽く上げて何事かを言ったが、あいにくとナオの知らない言葉だった。
少なくとも、英語ではない感じだったが。
ただ、雰囲気で挨拶をされたのだと理解できたので、ナオはとりあえず返答した。
「お、おはようございます」
ぺこり、と頭を下げると、男性もまたナオの言葉がわからなかったようだが、それでも嬉しそうに破顔した。
そして彼はそのまま歩みを進めると、ナオが出てきた扉から二つ手前の扉の鍵を開けて中に入って行った。
「……なんか、平和だ」
ひとりごちて、ナオは先程の男性が現れたほうへと歩いてみた。
廊下の突き当りは曲がり角になっていて、その先は下へと繋がる階段だった。
どうやら二階に居たようだ。
ぺたぺたと裸足で階下に降りると、そこはホテルのロビーを思わせる開けた空間だ。
というか、実際にロビーなのだろうけど。
外部へと通じる両開きの大きな玄関扉と、受付らしきカウンター。
ナオが降りてきた階段以外にもいくつか通路が存在するようだが、案内板の文字はすべて見たことのない言語で書かれていて、ナオには理解できなかった。
右手側には食堂――というかレストラン?らしき空間がある。
ロビーから続く扉は開放されていて、食堂内には宿泊客と見られるそれなりの人数が朝食の真っ最中で、穏やかな喧騒と、空腹を刺激する良い匂いが漂ってきていた。
たぶん、さっきのおじさんも朝食を済ませたところだったんだろうな、とナオは直感する。
なんとなくそちらを眺めていると、ぱたぱたと食堂内を歩き回っていた給仕と思しき少女と目が合った。
ナオよりも少し年下に見える、ブロンドの長髪が眩しい美少女だ。
食後の皿を下げる途中だったらしい少女は、押していたカートを適当に壁際に寄せると、一目散にナオのほうへと歩み寄ってきた。
ぼけっと突っ立っていたナオの傍まで来ると、少女はにぱっと眩い笑顔を見せて、ナオの手を握った。
「□□□□!□□□□□□?」
「えっと……?」
そのまま可愛らしい声でなにか言ってくれてるのだが、やっぱりわからない。
ナオの困惑を見て言葉が通じていないことを理解したようで、少女は数舜なにかを考えると、奇妙な動きをし始めた。
謎のダンスのような動きは、よく見れば少女の服と、ナオのロングTシャツを示しているようだった。
「あ。もしかして私の服のこと、かな?」
精一杯のボディーランゲージで奮闘する少女の意気に応えようと、ナオも自身の制服のプリーツスカートをイメージしてシャツの裾を引っ張ってみる。
すると途端に少女が顔を青くして、大慌てでナオの手を抑えた。
そういえば、下になにも着ていないんだった、と乙女にあるまじき迂闊さを呪うとともに、ひとつの予想を抱く。
たぶんこれ、この子の服なんだ。
んで、ナオが下着すら穿いていないことを知っているということは、たぶんこの子がナオを着替えさせた張本人で、そのことを頑張って伝えようとしてくれたのだろう。
それからもナオに伝えたいことがあるのか、少女の不思議な踊りが続く。
うん。全然わからん。
すごく頑張ってくれていることはわかるのだが。
こんな美少女が一生懸命にちょこまかと手をふりふりしている様を見ていると、なんだか癒しすら感じる。
少女は民族衣装っぽい感じの給仕服を纏っているのだが、わりと胸元が開いたデザインのおかげで、たわわに実ったそれが動作に合わせてリズミカルに踊っていて、実に紳士的な気分になってくる。
やっぱり、ブロンドの人は発育とか良いんだなぁ、と眺め眇めつ。シャツの胸元がゆるゆるなのは十中八九、本来の持ち主であるこの少女が巨乳だからだ。
ちょっと、いやだいぶ虚しい。
と、ナオが全然真面目に理解しようとしていないことに気付いたのか、少女はぷっくりと頬を膨らませて、ナオを睨みつけてきた。
そんな顔で睨まれても可愛いだけなので、むしろ癒されるのだが。
「ごめんごめん」
両手を合わせて謝ると、言葉はわからなくてもニュアンスは伝わったようで、少女は『しょうがないなぁ』とでも言うように苦笑した。
だが、実際問題どうしたものか。
ここがナオのまったく知らない常識で動いている世界であることは、昨日の魔物の時点で、もっと言えばミコトの時点でなんとなく理解はしていたのだが、こうして実際に言葉が通じない現実を突きつけられると、これは思った以上に深刻な問題だ。
もっとも、いざとなればミコトを起こせば通訳なり翻訳なりしてくれるのだろうが。
少女もジェスチャーで意思疎通を図るのは無理があると察したようで、可愛らしく眉根を寄せて考え込んでしまう。
と、思ったらすぐに顔を上げて、ナオの背後を見遣った。
「□□□!」
少女はナオの背後に向かって呼び掛け、笑顔を輝かせた。
つられてナオが後ろに振り向くと、ちょうど、玄関の扉を抜け、朝日を背負って入ってきた人物が目に留まる。
「あ」
昨日、ナオの窮地を救ってくれた男性だと一目でわかった。
あの状況では特徴をつぶさに覚えている余裕などありはしなかったが、それでも、宵闇より深い黒髪と、熾火の如き緋色の瞳が強烈に印象に残っていた。
かなりの長身で、衣服を下から押し上げる鍛え上げられた体格の持ち主だ。
足取りは悠然としていて、巨躯と相まって貫禄すら感じさせる雰囲気だが、年齢自体はわりと若く見える。毛先が躍る感じの、ウルフヘアーの一種だろうか。しかし浮ついたところは一切なく、野性的で武骨な印象を受ける。
黒を基調にした頑丈そうな衣服と、年季の入っていそうな擦り切れた腰布、その上から装備したゴツいベルト。ベルトの金具には複数のポーチとか、短刀を収めたナイフシースとか、謎のお守りみたいなものとか、多機能な用品が付けられていて、いかにも探検家じみた装備のようだ。
足元にはこれまた頑丈そうなミリタリーブーツ。両手を覆う指抜きのグローブは、お洒落で身に着けるようなそれとは一線を画していて、明らかな実用品っぽい意匠だ。
彼は少女に呼ばれるがまま歩み寄ってきて、ナオから一歩離れた位置で立ち止まった。
相対してみると、やっぱりナオよりもだいぶ背が高い。
ユーリよりも高いだろう。
ナオを見下ろす顔は無表情で、緋色の瞳は猛禽のように鋭く威圧的だ。
率直に言って、かなりの強面だろう。
美形ではあるが、好みがわかれそうな感じ。
ただ、ナオは少しも怖いとは思わなかった。
窮地を助けてもらったことを覚えているからか、あるいは、その無表情っぷりがどことなくユーリを彷彿とさせるからかもしれない。
彼はナオの右脚を一瞥して口を開いた。
「傷は痛むか?」
「へ?え、あ、いえ、それほどは……」
「そうか」
少し発音がおかしい気もするが、明らかに日本語だった。
そういえば、昨日も彼は日本語を話していた気がする。
張りがあって、お腹に響く、良い声だ。程好く低めの若い声だ。
「昨夜のことは覚えているか?」
「えっと、はい。アナタに会うとこまで、ですけど」
訊かれたことに素直に応えると、彼はぶっきらぼうに「そのほうがいい」と呟いた。
昨日、わりと大ピンチだった気がするのだが、もしかしてあの後この人が一人で全部のしちゃったのだろうか。
「俺はアグナム・イーラ・フェイローン。探索者だ」
「佐々木ナオ、です。えっと、学生です」
見た目東洋人っぽいのに名前が滅茶苦茶横文字で若干面食らったが、考えてみれば瞳が緋色の時点でナオと同じ人種なわけがない。
名乗った彼――アグナムの傍らに、先程の少女がちょこちょこと回り込んで、期待の眼差しで彼を見上げた。
「この子はイルマ。ここのオーナーの娘だ」
ここ、とはこのホテル?のことだろう。
名前を紹介してもらった少女――イルマは、その可憐なかんばせを嬉しそうに輝かせ『はいっ!』とばかりに元気よく手を上げた。
同じようにアグナムはイルマのほうにもナオの紹介をしてくれたようだ。
この人バイリンガルだ!と意味もなく感動してしまうのは、ナオが今まさに英語の勉強に四苦八苦している受験生だからであろうか。
「一応言っておくが、昨夜キミを部屋に届けてから、今まで俺は外に出ていた」
「?」
「傷の治療自体は専門の者に任せたが、その後に着替えその他もろもろの世話を焼いたのはほぼ全てイルマなので、あとで礼を言っておくといい、という話だ」
たぶん、一応は年頃の少女であるナオの心境を慮ってくれたみたいだ。
俺は脱がせてないし見てもないから安心してくれ、ってことだろう。
というかこの人、ってことは寝てないのだろうか。
だって、彼の寝床は(たぶん)ナオが占領してしまっていたわけだし。
「あの――」
とナオが口を開いた瞬間のことだった。
きゅるるるるるる~……
切なげな、謎の音が響く。
イルマは苦笑し、アグナムは少しだけ眉を持ち上げ、そしてナオは顔面から火を噴いた。
早い話が、ナオのお腹が豪快に空腹を訴えただけなのだが。
「そうだな。色々と訊きたいことはあるだろうが……まずはメシにしようか」
「うぅ……恥ずかしい」
「部屋で食べることにしよう。その格好では、食堂には入り辛かろう」
「はいぃ……」
羞恥で縮こまるナオを務めて紳士的にスルーして、アグナムは懐からなにかを取り出す。
大振りな硬貨のようだ。ナオが慣れ親しんだ五百円玉よりも大きくて、上品な白い輝きの硬貨だった。
アグナムはそれを無造作に指で弾き、イルマが危なげなくキャッチした。まるで『まいどあり』とでも言うようにイルマが歯を見せて笑い、そのまま彼女はとてててっ、と食堂のほうへ駆けて行ってしまった。
その後ろ姿を見送っていたナオは、アグナムがさっさと階段を上って行ってしまったことに気付いて、慌てて追いかけた。
案の定、ナオが目覚めたあの部屋がアグナムの居室だったようだ。
部屋の鍵は(当然だが)アグナムも持っていたようで、ナオが戻ると彼は既に部屋の中に居て、置いてあったザックを漁っていた。
ナオはとりあえず邪魔しないように、ベッドに腰掛けていることにする。
ついでにベッドサイドのスマホを確認してみると、どうやらミコトはまだ寝てるっぽい。
ナオはなんとなく落ち着かず、そわそわと膝を擦り合わせる。
だって、男と二人きりの部屋で、しかもノーパンというこの状況は、ナオには少し未知過ぎる。
まあ、微塵も色っぽい話では無いのだが。
少し経つと、カラカラとカートを押す音が外の廊下から聞こえてきて、イルマが扉を開けて入ってきた。
彼女の傍には、朝食と思しき料理を満載したカートが。
まさか担いで階段を上ってきたわけではないはずなので、別口の昇降手段とかがあるのだろうか。
「ああ、これだ」
ザックの中身を端から取り出していたアグナムが、底の底のほうに入っていた目的のものをようやく発見した様子で声を上げた。
彼の手にはシルバーのチェーンと、そこに連なった二つのリングがあった。
彼はそのリングの片方をチェーンから外すと、無造作にナオへと差し出してきた。
「右手の人差し指にはめるといい」
なんの脈絡もなく指輪を渡されて、ナオは瞳を白黒させながら受け取る。
精緻なレリーフが施された幅広のリングだ。
筆記体みたいな文字が刻まれていて、気のせいか、ぼんやりと発光しているように見える。
どう考えてもナオの指よりもだいぶ大きいのだが、とりあえず言われたとおりに右手の人差し指に通してみると、キュッと指輪が独りでに縮んで、誂えたようにぴったりと収まった。
「お、おお?」
勝手に驚いているナオをよそに、アグナムは残ったリングを同じように自身の指にはめており、朝食を配膳しようとしていたイルマがその指輪を見て瞳を輝かせた。
「それってもしかして『感応』の指輪?わぁー初めて見た!」
「って、あれ?」
興奮した面持ちでアグナム(の右手)に詰め寄るイルマの言葉が、普通に理解できる。
さっきまで、全然わからなかったのに。
どう考えてもこの指輪のおかげなのだろうが、一体どういう原理だろう。
ナオが思わず上げた困惑の声に反応したのか、イルマが視線を向けてくる。
「イルマちゃん!わたし、言葉、わかる!」
何故か片言になりながら、起こったことをありのままに伝えてみるが、当のイルマはというと困った様子で眉尻を下げるだけだった。
「えっと、ごめんね。わたしにはアナタがなんて言ってるか、わかんないんだ」
「え?」
同じ言葉を話しているのに?
ますます混乱が深まり、瞳を瞬かせるナオは、答えを求めてアグナムへと視線を向けた。
「これは『感応』という効果を持つアミュレットだ」
「???」
「要は、魔法の指輪だ」
ナオが微塵も理解できていないことを察してくれたようで、彼は極限まで簡単に言いかえてくれた。
「基本的には二個で一対のアイテムで、装備した者は語彙を共有できる。まあ、本来の使い方ではないが……」
「えーと、えっと。つまり……」
ナオの頭の出来はお世辞にもよろしくはないだろうが、それでも理解する気がないわけではない。
与えられた情報をもとに一生懸命理解しようと咀嚼する。
「私がイルマちゃんの言葉を理解できるようになったのは、アグナムさんが理解できる言葉だから?」
「そうだ」
「聞いた言葉の意味が分かるだけで、喋れるようになったわけじゃないから、イルマちゃんには私の言葉は通じない?」
「それで正しい。言わば俺は翻訳機の役割だな」
言いつつ、アグナムは指輪を外すと、ひょいとイルマに渡す。
待ってましたとばかりにイルマは指輪を装備し、くりくりとした瞳でナオを見詰めてきた。
なにを期待されてるのか理解して、なにはともあれナオは口を開く。
「えっと、言葉、伝わるかな……?」
「!――うんっわかるわかる!おはよう!こんにちわ!初めまして!」
途端、イルマがナオの元まで駆け寄ってきて、その両手を取ると、滅茶苦茶嬉しそうにぶんぶんと振り回した。
もの凄いアグレッシブさに目を回すナオをひとしきり振り回して満足したのか、イルマはハッと表情を変えた。
「そんなことよりご飯だよね!ナオ腹ペコだもんね!」
「あぅ……あの、さっきの失態は忘れてくれると嬉しいんだけど」
「なんで?お腹がすいたらそりゃあ鳴くよ。恥ずかしがることじゃないよ!可愛い音だったし!わたしなんて普通に『ぐー!』っていうからね『ぐー!』って!」
「そういう問題じゃない気が……」
言葉が通じるようになっても早速意思疎通ができていないナオ達が面白いのか、アグナムがくつくつと低く笑った。
「イルマにその辺の理解を求めるだけ無駄だぞ。この子は野生児だからな」
「それは聞き捨てならないよアグ兄!これでも常連さんの間では『おしとやか』で通ってるんだからね!」
「そいつは初耳だな」
なんだか、ホテルのオーナーの娘と一利用者の間柄にしては随分と親しげに見えるが、とにかくイルマという少女が元気いっぱいで親しみやすい性格の人物なのはよくわかった。
ほらアグ兄、机の上片付けてよ!とぷりぷり怒るイルマと、「すまん」と答えてザックの中身を詰め直すアグナムの姿は仲の良い兄妹みたいだ。
「わたしもご飯まだだから、ここで食べても良いかな?」
「そのつもりで持ってきたんだろ?」
「いえっす!」
「二人で机を使うといい」
部屋に備え付けのテーブルは小さくて、とても三人分の朝食を並べられる大きさではない。
そもそも、同じく備え付けの椅子は二脚しかないのだ。ベッドは一つなので普通に一人部屋であろうことを考えると、むしろ椅子が二脚あることが不思議ですらある。
ナオとイルマにテーブル席を譲り、アグナムは「俺はここでいい」などと言いながら、ナオと入れ替わりでベッドに座る。カートを部屋の中まで引っ張ってきて、それを机代わりにするようだ。
てきぱきと慣れた動きでイルマが机の上に配膳してくれた食事は、ナオがイメージするいかにも『ホテルのブランチ』といった風のメニューだった。香ばしそうなロールパンに果実のジャムとバター、ベーコンエッグとボイルしたソーセージとサラダと、スープはコンソメだろうか。
一通り並べるや否や、イルマは席に座って、片手で印を切りながら小さくお祈りすると、笑顔で食べ始めた。
見れば、アグナムなどはとうに勝手に食べ始めている。
「いただきます」
ナオも手を合わせて、食べることにする。
正直、空腹が限界だったのだ。
ナオの分の食事は誰が料金を払っているのか、と疑問が過るが、おそらくは先程アグナムがイルマに渡した硬貨がそれなのだろう。
「食べながら聞いてくれればいいが」
そう言って、口火を切ったのはアグナムだ。
大柄な男性らしい健啖ぶりで、もう半分以上を食べ終えている。
「昨日、『迷宮』でキミを保護した際、ミコトから簡単に事情を聞いている」
「あ。ミコトとは話したんですね」
「ミコトの話では暫くここに滞在するとのことだが……」
「あっはい」
ぶっちゃけミコトからはなにも聞いていないが、ナオとしては彼女の判断に従っておくのが賢明だろう。
ミコトがそう告げたのであれば、そういうことで納得しておく。
あと、ミコトが彼になにをどう説明したのかわからないので、下手なことは言わないでおく。
「一応、俺は可能な限りキミ達の援助をするつもりだが」
「え?そうなんですか?」
「ミコトはキミと相談してから決めると言って回答を保留した。その辺は、ミコトが起きたら相談してみてくれ」
「わかりました」
「まあ、どう転ぶにしろ、キミ達がここに滞在している間は俺もイルマも力になる」
どうやら、ナオが暢気に寝ている間にミコトが色々と手を回してくれたみたいだ。
そういう事情があったのなら、やっぱり寝かせておいてあげて正解だったなとナオは思う。
きっと、夜遅くまでナオのために頑張ってくれたのだろう。
「と言っても俺は基本的には迷宮での魔物狩りを仕事にしているから、日中は殆ど居ないものと思ってくれ」
そのメイズ、というのが昨日ナオが目覚めたあの遺跡っぽい場所のことだろう。
探索者のことは昨日ミコトが少しだけ教えてくれたが、確か魔物を狩ることを生業にしているヒト達のことだったか。
「俺が居ないうちになにかあれば、イルマを頼るといい」
「なんでも言ってね!」
ビシッと笑顔でサムズアップするイルマ。
「そしたらアグ兄、このアミュレット借りといて良いかな?」
「もとよりそのつもりで渡した。ただ、取り扱いには注意しろよ」
「あ。注意が必要な類のものなんですねコレ」
便利な魔法の指輪には、副作用とかあったりするのだろうか、と人差し指に嵌ったそれをしげしげと眺めていると、イルマがあっけらかんと笑って首を振った。
「あはは、そうじゃなくてね。こーゆーのって結構貴重品だから、指に嵌めて見せびらかしたりしてると、悪いヒトが寄ってくるよって話。アグ兄が付けてる分にはちょっかい出してくるヒトはそうそう居ないだろうけど、わたし達は、ね」
「えっと、じゃあ、手袋で隠すとか?」
「いや。一度指に嵌めればそれ以降は所持して居れば効果が発動する」
「さっき指に嵌めたらサイズが変わったでしょ?あれで現在の使用者がナオに登録されたわけ」
試しに指輪を外してみると、それでも変わらずにイルマの言葉がちゃんと理解できる。
机の上に置いて、手を離してもまだ効果が続いているようだ。
所持している、というのがどの範囲までを示すのかわからないが、たぶん、このままナオが席を立ったら効果が途切れるのだろうな、とは思う。
ちなみに、一対の指輪同士の距離にも制約があるようで、ナオとイルマが離れ過ぎると効果を失ってしまう。
ただ、それに関しては日常生活をしているぶんには別に気にしなくても大丈夫なくらいの範囲はあるらしい。
「チェーンかなにかで首から提げて、服の中にしまっとくのが無難かなぁ」
「なるほど…………あ。服と言えば」
私の制服ってどこ行ったの?とイルマに問うと、彼女も思い出したようにポンと手を打った。
「ナオの服、血まみれ泥まみれで酷いことになってたから、クリーニングしてるよ」
「ああ……そっか、そうだよね」
「勝手に脱がせちゃって、ごめんね」
「そんな、謝るのは私のほうだよ。色々迷惑かけちゃったみたいだし。怪我の手当てもしてくれたみたいだし……」
「んーん。傷の治療はニコちゃんがやってくれたから、わたしは包帯巻いただけ」
「ニコちゃん?」
「うん。ニコールちゃんっていう魔法士の女の子。今度紹介するね」
全然痛くないと思ったら、なんと魔法で治療されたかららしい。
流石は魔法、なんでもありだ。
などと暢気に感心していられる立場ではなくて、もしかするとナオは既に結構な数のヒト達に迷惑をかけてしまっているのかもしれない。
ちょっとその辺の恩返しもかねて、ミコトが起きたら色々と今後の身の振り方を考えなくてはなるまい。
なにを置いてもまず気になるのは、ユーリの行方だ。
ミズホと邂逅して、光に呑まれる瞬間までは確かに一緒に居たはずの彼であるが、昨日迷宮の中で目覚めたときはナオだけだった。ミコトの話ではこの世界のどこかには居るとのことだが、無事で居ればいいのだが。
なにはともあれ、まずやるべきことは、ちゃんとわかっている。
「イルマちゃん。アグナムさん」
ナオは椅子から腰を上げ、姿勢を正し、深く頭を下げた。
「助けてくれて、本当にありがとうございました」
「わわわ、どったの急に」
このまま彼らの善意に甘えてなあなあで済ますわけにはいかないのだ。
言うべき時にちゃんと言っとかないと、あとで後悔するのは知っているのだから。
今のナオにできることなんて精々言葉で感謝を伝えることくらいだが、右も左もわからないから、小さくともできることからコツコツと、である。
唐突に礼を言われてあわあわと可愛らしく慌てるイルマに、対照的なアグナムは微かに笑って「気にするな」と呟いた。
良いヒト達だ。
彼らと出会えたことはナオにとってハッピーな出来事だが、ラッキーとは思わない。
ミコトが言うには、ナオがあの場所で目覚めたのは、ミズホがそうであれと仕組んだからだ。
故にミズホが、ナオの大切な親友が、彼らと巡り合わせてくれたのだ。
だから、
「これから、よろしくお願いします!」
いっぱいの誠意を籠めたナオの言葉に、イルマは嬉しげに「うん。よろしくね!」と答え、アグナムはぶっきらぼうに「おう」とだけ言ってくれた。
◇◇◇
稀人志篇 第一話 [Encounter] 了
◇◇◇
「――ところで、ナオ」
「ん?」
イルマに呼ばれて顔を上げると、何故か彼女は気まずそうに頬をかいていた。
「あの、言い難いんだけど」
「?」
「頭下げると、襟元から、丸見えで……」
「ッ!?」
ナオが過去最高の速度でガバッとアグナムのほうを見ると、彼は食後のコーヒーなどを飲みながら我関せずの様子だった。
鬼気迫るナオの視線に対して、微かに片方の眉を持ち上げただけだった。
「み、見ました……?」
「ん?いや」
見てようと、見てなかろうとたぶん同じ反応だったんだろうな、とナオでもわかる動じなさだった。
微塵も反応されないと、それはそれで女として悲しいものがある。
「あの、なんかごめんね」
「うぅ、またしても失態を……っ」
「そうだよね。ナオちっちゃいもんね。わたしの服なんか着たらそうなっちゃうよね。考えなしでごめんね」
「ぐっはぁ!!」
「トドメを刺してどうする」