少し金を使いすぎた
思い付きで書いたから、くそ成分が高い可能性や、共感性羞恥心をくすぐる可能性も高いので、初手そう感じた人は、そっ閉じをお勧めいたします。
タピオカ店は祝日だということもあり、混雑していた。流石最近の流行である。ん? もう時代遅れだって? 君たちは彼女の笑顔を見たくないというのかい? まあ君たちがなと言おうと、僕はタピオカは流行だと言い切る。
混雑中は、することもないので彼女のご機嫌取りをすることにした。
「――ねえ」
「なにかしら」
「普段はなにしてるの?」
もしかして、これは初対面の会話だろうか。することもないし、共通の話題がない。共通の友人もない。会話の糸口がつかめないので、妥当な話題で場の空気を繋ぐためにする会話だろうか。
「普段は何をしているか? ん――。普段は学校が終わるとお手伝いさんを待ってから、ピアノを習いに行くわ。近いうちにコンクールがあるから、練習頑張ってるの。いつも来てもらっている車はあのまま、ピアノのスクールに向かっているのよ」
「へ、へー。家に帰ったら?」
「家に帰ったら、基本的には勉強してるわね。――あ、でも、最近貴方とメールアドレスを交換してからは、貴方とメールしてることが多いわね」
「そ、そっか」
「「……」」
心なしか雰囲気が重い気がする。いやこれはきっと、心なしかではなくしっかり現実だろう。普段彼女と話しているときは、会話に詰まることなんて滅多にないのだが、今日はどうも話しにくい。
会話もないので、二人で黙って景色を眺めていると、さすがに気まずくなったが彼女が話しかけてきた。
「あのー」
「私からも質問あるんだけどいいかしら」
「いいよ」
さあ一体どんな質問が僕を待ち構えているのか。
「――貴方、いつも話してるあの女誰?」
待ち構えてみたら想像の斜め上を行く怖い質問だった。あの女誰。怖い言葉である。聞きようによっては、修羅場の一言。聞きようによっては、命を落としかねない線上の一言。
というわけで、命の安全を確保するために僕の身の上話をしよう。僕が普段の学校生活で頻繁に会話するのは、彼女の他に、田中太郎という友人と、野々沢瑠璃、通称るりるりの二人だ。
太郎は僕を上回るほどの、一般男子高校生戦闘(男子高校生としての強さを表す数値)力を持つ。瑠璃はそこそこかわいい女子高生。とても一般女子高生とは言いにくい存在である。そして現在彼女は、るりるりについて言及しているのだろう。
逆に太郎だったら怖い。
「随分仲良さそうだけど、一体どういう関係?」
修羅場かな? と思うほどに、彼女が凄い剣幕で見上げてくる。
「と、友達だよ?」
やばい。めっちゃ声震える。とにかく彼女の圧が凄い。
「ほんとに? 貴方とこうなる前は別に少し……、し、しっ……するだけだったけど! でも。ちゃんと貴方が告白してきて、……になったんだから、説明しなさいよ」
要するに……。嫉妬。
つまり好意から来るもの。独占欲からなるもの。つまり焦らず言えば、何言っても大丈夫。だって彼女は僕が好きなのだから。(自惚れるな)
「い、いや、僕は……、なんもやってないよ? うん、ほんとに」
「怪しいんだけど……」
「い、いや、本当に友達なんだって!」
「えー」
「あの、あいつは、ほ! ほんとにただ僕を助けてくれただけで…、なんともないよ」
僕がか細い声で弱々しく言うと、少しの間の後に彼女は呆れたような顔をして僕を許してくれた。
「そ。貴方がそういうならそうなんでしょ」
良かった。このまま何もも飲まずに喧嘩別れして、交際期間驚異の一日未満という大記録を樹立してしまうところだった。
僕が全く焦らないという超技巧派演技を魅せたおかげだな。そう、超技巧派演技ハリウッド俳優。
まあ、その後の話は面倒くさいので割愛させていただいて、そんなこんなしているうちに、順番が回ってきたということで。
「お客様! 注文は何になされますか?」
彼女は紅茶インタピオカを、僕は紅茶を頼んだ。
なんでタピオカ店に来たのに、タピオカを飲まなかったのか。理由は簡単である。タピオカは食感、見た目ともにあんまり好きじゃない。ちなみに、関係ない話だが、カエルの卵も、総合的な観点から好きではない。
僕たちはその後もゲームセンターでドラムの達人をやったり、プリクラを撮るか撮らないかで揉めたり、いや、何も揉んではないけど。あとは、服を見たり、彼女の写真を撮ったり、なんとなく過ごした。嬉しいことにその間、ずっと彼女はずっと笑顔だった。
僕は彼女との思い出に取った写真の中で、気に入ったやつをスマホの待ち受けにした。
遊び疲れて、気づけばもう、帰りの電車だった。
「今日も、もうおわりだね……」
僕は電車の窓越しに夕暮れを見て感慨深くなっていた。
「そう……ね」
見た感じ、彼女も感慨深くなっているようだった。
「私ね、こんなに楽しかったの。生まれて初めてだった」
「貴方と一緒に遊べて、隣に入れて良かったわ」
「貴方となら永くやっていけそうな気がするわ……」
なんか重くない? 永く、と長く、言い間違えてないかな。いや、僕も永くやっていけそうな気はするけどね。でも永遠の永って、僕そんなに長く生きられないよ。
「――う、うん」
「なに? 不満でもあるの?」
「い、いや? 全く」
「なら、よかったわ!」
彼女は今日一番の笑顔で僕に笑いかけた。
その笑顔があまりにも可愛いものだったから、僕は更に感慨深くなった。
「貴方は?」
「え、なにが?」
「楽しかった? 私といて」
「――む、無論楽しかったさ! 僕が君を誘ったんだから、どんなことがあっても楽しいに決まってるじゃないか」
「ほ、ほんとう?」
「ほんとだよ」
「……」
黙りこくる彼女の顔が夕暮れで紅く染まる。もしかしたら、照れているのかも知れない。
彼女が夕暮れの方を見ているから、彼女の表情がよくわからない。恥ずかしくなっているのか、感慨深いのか。それとも、ただ感慨深いのか。そして、感慨とはなんなのか。
僕は彼女の家の最寄り駅に着くまで、彼女の顔を感慨深く見続けていた。彼女はずっと感慨深く夕暮れに顔を染め続けていた。
その後も電車内は静かで、雰囲気的に話すことはなかった。だから、彼女は窓の外を流れる景色を眺め続けていた。
電車の走行音と、夕焼けに染まる彼女の横顔が焦げのように焼き付いて、こびりついて離れそうになかった。
「じゃあ……、今日はここで」
「ええ、さようから」
僕らは電車から降りると、挨拶を交わしさっぱりと別れた。
彼女は心残りなど全くなさそうに、迎えに来た自家用車に乗り込んだ。すると、車窓がゆっくりと下に下がっていく。
「また! ――学校……」
途中からよく聞こえなかったけど、内気な彼女が僕に叫んだ。
「ああ! また! 学校で!」
僕は彼女に負けないくらいの声で返事をした。彼女に負けないくらい顔を紅潮させてきたかも知れない。
僕の返事を聞いて満足そうにした彼女は、窓を元に戻し、僕に手を振った。
僕も手を振り返した。車が見えなくなるまで、とまではいかないが、とりあえず彼女の視力で僕の手の動きが見えなくなるであろう辺りまでは振り続けていた。
僕も帰るか。
僕の家はこの駅からあと一駅なので、歩くことにした。
「少し金を使い過ぎた……」
見ていただいて、ありがとうございます。