決して、手を抜いたわけではないが、デート
思い付きで書いたから、くそ成分が高い可能性や、共感性羞恥心をくすぐる可能性も高いので、初手そう感じた人は、そっ閉じをお勧めいたします。
「おはよ」
「おはよう」
僕は高嶺さんに挨拶した。待ち合わせ場所に指定した駅前で。
彼女は白いワンピース姿でいかにも清楚、というような風貌であった。まあ、どんな服を着ていようが、彼女は可愛いし、可愛いので、結果的に可愛いという事実しか残らないのだが。
「待った?」
「待ってないわよ」
「嘘だー! だってもう5時間も待たせてるよ?」
「そんなに待ってません」
「まあ、そりゃそうだ」
「貴方が言い出したんでしょ……」
僕は今日デートに来ている。展開的にはかなり急だが、告白が金曜日で、ちょうど土曜日の今日は祝日で学校がないので、デートに行くことになった。
付き合った翌日にデート、いわば出会った翌日に結婚するのと同じレベルの勢いのそれ(違う)。早いか遅いかは常識によって、見方は変わってくるところはあるが。ちなみに僕としては早いと思っている。だが、一年間何もせずに我慢してきたので、恋人という関係性を持った今、フラストレーションは大爆発を起こしたのだ。
「んで、いつきた?」
僕は知っている。彼女が十分前に来たことを。何故なら僕は一時間前からスタンバイしていたからだ。デートの一時間前から待ち合わせ場所にスタンバイすることは、男としてのマナーだ。これから彼女とのデートが控えている男子諸君は、ぜひ参考にすると良い。まあ何があっても補償はしないけど。
「……」
「ねえねえいつきた――」
「もう! そんなのいいから! いきましょう!」
「ちょっと。そんなに引っ張られたら腕がもげるよー」
「そんな簡単にもげないわよ!」
「もげるよー」
「……」
「もげるもげるもげるもげるもげる」
「いいから! 黙って歩きなさい」
「はーい」
僕たちは今日渋谷に行くことにした。
これは僕が彼女の家に直接電話をしてそこで、デートの予定として決定したものだ。
最初お手伝いさんが電話に出て、少し驚いたが一般男子高校生よりはまだ強い精神力を持っているので、怯むことなく堂々と彼女を呼び出した。
「やっとついた。電車に乗ると、息が詰まって窒息死しそうになる」
「息が詰まるって、たかだか三十分も乗ってないじゃない……」
「まあね。でもそもそも、あんまり電車好きじゃないんだよね。疲れるし、遅いし、疲れるし」
「そう」
「君とじゃなきゃ……、乗る気はなかった」
格好つけた。
「……さ、いきましょ」
無視された。
「ところで、渋谷に来たはいいけど……、なにするの? 僕、彼女出来たことないから、デートにおいては初体験で、エスコートとか全くできないし。それに渋谷なんてかなり中学時代に模試を受験するために来たくらいだ」
僕はスマホで『渋谷 デート』と検索をかけながら、彼女に話した。
「私、タピオカ飲んでみたいの!」
僕の検索を全く無意味にするほどの笑顔を、まるでおもちゃを欲しがる子どものような目の輝きを、彼女が見せた。あと、少し頬が赤いのもポイントは高い。
「へー。タピオカ飲んだことないの?」
「私、普段は習い事とか、会食とか、用事があることが多いから外出しないし、万が一暇ができたとしても――」
「友達いないもんね」
「貴方もでしょ。学校の嫌われ者さん」
「あ、忘れてた。にしてもその言い草は酷くないか? でも、そんな僕と恋人になってくれた君は女神だね」
「ふふっ」
「なんか面白かった?」
「なんにも?」
「えーー」
「さ、立ち止まってないで早くいきましょ!」
彼女は、今度は僕の手を取って渋谷の街へと飛び出した。勢いはさながら、未知なる冒険に旅立つ勇者のよう。自信たっぷりの彼女の笑顔は眩しくて、一生守ってあげたいと思うほどだった。
「あの……、悪いんだけど。そっちはお店ある方じゃないよ」
勇者のような彼女を引き止めるのは、少し心苦しかった。あと共感性羞恥に、押しつぶされそうでたまらなかった。だって、あんな自信満々で、僕を引っ張ったのに方向全く違うんだもん。
「え……」
「こっちだよ」
僕は彼女の手を取り返し、逆方向の渋谷の街へと飛び出した。そう、それはまるでヒロインを救い出した勇者のように。
見ていただいて、ありがとうございます。