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新生活

 服を着終えた彼女は、ランティウスに支えられながら、寝台から立ち上がる。おぼつかない足取りでテーブルまで歩き、椅子に腰掛けた。

「これでは、日常生活を送るのが困難だな」

 あらゆる面で介助が必要な彼女を一人にはできない。

「情けないです」

 (うつむ)くラリア。

「義肢の耐久性は問題なさそうだから、後は力加減と慣れだな」

「若君を守る為に剣を振るうのがラリアの役目ですのに」

「ここにいる間は気負わなくていい」

 彼の手がラリアの頭を撫で、艶やかな黒髪を指先で()いてゆく。

「それより、生活に必要な品々を揃える必要があるな」

 彼の言葉にラリアは部屋の中を見回した。寝台とテーブル、椅子しかない殺風景な部屋だ。一通り見終えてから視線を目の前のランティウスに戻し、頬を真っ赤に染めた。

「……若君と生活を共にするということは」

 新婚生活になると想像する。

「二人で暮らすのに必要な物があれば遠慮なく言ってくれ」

「ま、まずは私の立場をお決め下さい」

「そうだな、改めてお前の立場を決めておかないと、気持ちの整理もできないな」

 ランティウスは腰を下ろし、彼女よりやや低い高さの目線になった。真っ直ぐに彼女を見詰めて来る。

「ラリアを、長の側室とする。私を支えて欲しい」

「はい、謹んでお受けします。力の及ぶ限り、あなた様を支えます」

 ラリアの茶色い瞳が潤み、涙が(こぼ)れた。両腕と両足を失い、足手纏いにしかならない状態でも、彼の気持ちが変わらないことに心が震える。

「食事の前に、やることを思いついた。少し待っていてくれ」

 ランティウスは彼女を抱え上げると、寝台の上に優しく寝かせた。去り際に軽く口付けしてゆく。

「こんな幸せで、いいのでしょうか?」

 一人になって彼女は自問自答する。仮に手足を失わず城に帰っていたとしたら、どのような人生が待っていただろうか。恐らくは側室に収まり、彼の身辺警護を任されていただろう。正妻がエリスではなくルーディリートであれば、寂しい思いを募らせていたかもしれない。

「そう考えると、若君を独占している今は贅沢」

 年上の引け目もあった。だから、彼と初めてを迎えた後には罪悪感に(さいな)まれたこともある。

「もう、あんな思い、しなくて済むのね」

 誰かに遠慮しながら、神経を尖らせながらの生活から解放されて、更に愛しの君を独占している現状に彼女は自然と嬉しさが込み上げて来た。

「後は、この手足が若君に迷惑を掛けなくなればいいのに」

 義手と呼ぶには不釣り合いなほど精巧にできており、爪が鋭い以外は記憶にある彼女自身の腕と遜色ない。掌と甲を交互に見ながら彼女はボンヤリと今後の生活を考えていた。

「待たせたな」

 ランティウスが戻って来る。その手に何かを(たずさ)えていた。

「手袋と靴を作った」

 ランティウスは彼女に白い手袋と黒い長靴を見せる。

「それは?」

「衝撃を緩和する手袋と靴だ。これで義肢も長持ちするはずだ」

「ありがとうございます」

 早速、彼女は手渡された手袋を装着した。続けて彼が揃えて置いた長靴を履く。差し出された彼の手を握り、今度は自らの力で彼女は立ち上がった。

「随分と身軽になった気がします」

 両足で軽く跳んだ。着地の衝撃もなく、義足も何ともない。両手を打ち合わせて拍手しても、こちらも何ともなかった。

「これなら日常生活も平穏に過ごせそうです」

 彼女の笑顔が眩しい。彼は更にもう一品を用意していた。

「ラリアにはこれも似合うだろう」

 ランティウスは髪飾りを彼女に見せる。椅子まで誘導して座らせた。卓上に小さな鏡を置いて、彼女の指示通りに髪の毛をまとめ上げる。仕上げに髪飾りを挿した。星型に黄色い宝石を散りばめたそれは、彼女の黒髪に()える。彼女の黒髪の中で、まるで夜空に輝く星のようだ。

「思っていた以上に綺麗だ」

「ありがとうございます」

 彼女は照れて頬を染める。

「私の大切なラリア。お前だけは絶対に離さない」

「はい、信じております」

 背後から優しく抱きつく彼の腕に、ラリアはそっと手を添えた。

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