夢よ再び
『反省』
ラリアは再び謎の液体の中に浮いていた。
『若君が激しいから、思わず応えてしまったのがいけなかったわね』
彼女の再生された四肢は作り物の宿命か、衝撃を受けると脆くも崩れてしまう。ランティウスは彼女の義肢を強化する方法について研究すると言って、ここ暫くは姿を見せていない。
『エリス様、束縛が強そうだから、若君は息苦しくなりそうね』
逃げ場でもいい、自らの元に愛しの君が訪れてくれさえすれば、彼女は満足だった。
そうして待つことしかできない彼女の許に、ランティウスがやって来た。だが様子がおかしい。ところどころ衣服が破れ、ボロボロだ。
『何があったの?』
「心配か? 後でゆっくりと話すから、今は手足の再生に集中してくれ」
水の中では声が出せないのに、彼は彼女の思いを把握しているかのようだった。
「丈夫な手足になってくれよ」
ランティウスの願いが通じたのか、ラリアの義肢は今までにないほど、頑丈に仕上がっていた。ただ爪が鋭い。
「今度の義手はどうだ?」
「とても丈夫そうですが、爪がちょっと……」
彼女に手を見せられて、ランティウスは興味深そうに見詰める。
「ゆっくり説明しよう」
彼は白い布を彼女に纏わせ、軽々と抱え上げた。柔らかな風が彼女の髪の毛を乾かせる。
「おケガをなさっているのではありませんか?」
「お前を失いかけたのを反省して、治癒魔法を習得した。あの時、治癒魔法があれば城で共に暮らせていたかもしれないが」
「過ぎたことです。ラリアは若君と共にいられて幸せです」
寝室で彼女は寝台の上に寝かされる。ランティウスは寝台脇に椅子を持って来て、そこに腰掛けた。
「今回は材料に、竜の卵を用いた」
「竜の卵?」
何気なく放たれた言葉に、ラリアは理解が及ばず、暫くして驚く。
「そ、それでは竜の巣穴に行ったのですか?」
「ああ、それで手酷くやられてな」
ラリアは上体を起こすと、笑っている彼の両頬を挟み込んだ。
「笑い事ではありません。私を一人にするおつもりですか?」
「悪かった」
ランティウスは素直に謝る。幼い頃から剣術の訓練を共に受けて来た、姉のような存在なのだ。
「全く、相変わらず無茶な人」
「あの時も、私の無茶で、お前をこのようにしたのだったな」
哀しげな瞳で見詰められて、ラリアは胸の奥が締め付けられた。
「若君、そうお思いなら、無茶はお止め下さい」
挟み込んだ頬を上下に動かす。義肢を壊してはならないのでランティウスはされるがままだ。
「お仕置きです」
ラリアは頬を摘まんで横に伸ばす。もう一度、彼の頬を両手で包み込むと、そっと顔を近づけた。
「一人で抱え込むのは、およし下さい。私も微力ながら手伝います」
「分かった」
寄り添う二人の影が一つになる。
翌朝、ラリアはランティウスと同じ寝床で目覚めた。今回の義肢は壊れることなく彼女の意思で動く。隣で眠る愛しの君の寝顔を見詰めた。
「このような日が来るなんて、夢のよう。このまま、あなたと過ごせたらいいのに」
それが叶わない願いと彼女は知っていた。長と密通した女性は死罪が地下族の掟だ。唯一の例外は事が露見した時に長が側室と宣言すれば助かるが、現在のソフィアが側室を認めないと公言しているのでは望み薄だ。
「私が死んだとされているから、追っ手は来ないのかしら?」
少しだけ希望的観測を期待する。ジッと寝顔を見詰めていると、不意に視線が絡み合った。
「起こしてしまいましたか?」
彼女が微笑みながら問い掛けると、彼も優しく微笑み返して来る。
「手足は大丈夫か?」
「はい、今のところは」
「体調も良さそうだな」
気遣いが嬉しい。
「何か食べるか?」
彼の問い掛けにラリアは困ったような表情をする。
「空腹感がないのですが」
「そうか、まだ溶液の効果が続いているのかもしれないな」
あの謎の液体には栄養補給の効果があった。
「形だけでも食卓を囲んでくれ」
彼はそう告げて寝台から起き上がる。
「その前に、服が必要だな」
裸で過ごさせる訳にもいかない。ランティウスは呪文を唱えて服を作る。
「このぐらいの大きさのはずだが」
「はい、丁度良い大きさです」
下着から順に着せられて、彼女は訝しむ。
「いつの間に私の身体を測定しましたか?」
「……昨夜」
ボソッと答えた彼の言葉に、ラリアは耳まで真っ赤に染め上げた。
「……否定できないのが悔しい」




