ラリア戦死
「クソッ」
若い男性が悪態をつく。彼の目の前には身の丈ほどもある丸い物体が転がっていた。外周が長剣のように鋭利な棘で覆われ、彼の攻撃を受け付けない。
「若君、危ない!」
棘に刺されそうになった彼の前に若い女性が飛び込んだ。彼女が横一文字に剣を鋭く振り抜くと、剣速で生み出される真空の刃が同時に放たれる。丸い物体を真っ二つに切り裂いて安堵したのも束の間、棘の束が彼女に襲いかかった。
「うああ!」
「ラリア!」
無数の棘に手足を貫かれ、激痛に遠ざかる意識の中で、彼女は愛しの君の無事を確認して微笑んだ。
上下に揺れる動きで、彼女は目覚める。誰かに背負われていた。ボンヤリしていた意識が戻ると同時に、手足から鈍い痛みが伝わって来る。
「くっ……」
「ラリア、気が付いたか」
痛みに耐え兼ねて彼女が漏らした声を聞いて、背負っている人物が振り返った。
「若君、何と畏れ多いことでしょう。私、歩きますので降ろして下さい」
「それは無理だ」
「え?」
ランティウスの表情が悲しみに沈む。改めて自らの身体を確認してラリアは愕然とした。手足の先、肘から先と膝から先が失われている。止血はされているが、この状態では生存も難しいだろう。
「わ、私の身体が……」
彼女の目尻からは涙が溢れて止まらない。ランティウスと同行三名は彼女に掛ける言葉が見つからなかった。黙々と歩いて一行は城に戻る転移方陣の手前に辿り着く。
「お前たちは先に戻っていろ」
ランティウスは同行する三名に指示を出した。
「若君、どうなさるおつもりですか?」
「ラリアは私がケジメをつける」
「畏まりました」
同行者が転移方陣で先に帰ったのを見届けると、彼女を背負ったままランティウスは遺跡の奥へ向かう。古びた扉を開けて、ある一室に入った。
「若君、申し訳ありません」
涙声の彼女を、ランティウスはその場にあった椅子へゆっくりと降ろす。真っ正面から彼はラリアを見詰めた。彼女の顔は涙でグシャグシャだ。
「若君、ラリアは思い残すことはございません。父に勇敢に戦ったとお伝え下さい」
「それだけか?」
悲しみに優しさを混ぜたような表情で見詰めて来る彼の顔が、歪んで見える。
「若君、抱き締めて下さい」
彼女の願いに、彼は優しく抱き締めた。抱き締め返せない彼女は大声で泣くばかりだ。
「もっと一緒にいたかった。私は……」
言葉は途中で途切れた。彼女の唇はランティウスの唇で塞がれている。
「お前を側室に迎えたかった」
唇を離して彼が見詰めて来る。
「そのお気持ちだけで、ラリアは満足です。ありがとうございます、若君」
止まらない涙は彼との別れを惜しむ気持ちと、彼の想いを受けた幸せの表れだった。ランティウスの両手が彼女の頭を包む。
「ラリア、許せ」
幸福感でボウッとしていた彼女の意識はそこで暗転した。
声の想定
・ラリア 早見沙織さん
・ランティウス 諏訪部順一さん
【時系列の解説】『氷の蔦は愛に狂う』〈火種〉の前半部分。




