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9.魔女様は非常識(上級)

「センテルスちゃんありがとうございました☆ あ、近々御結婚されるらしいので皆さんからも祝福の言葉を掛けてあげてください。―――ほらダァアアーイブッ!!」

「キャーーッ!!?」


 壇上から新妻(予定)の魔女ちゃんを聴衆へ向かって放り投げる。優しい優しい皆は彼女を受け止めると「おめでとー!」「お幸せに!」「抜け駆けとか死ねっ!」「妬ましいのう妬ましいのうっ」「とりあえず謝ろっか? 私達に」「爆発しろ」……等々と門出を祝う言葉と共にもみくちゃにしていく。

 なんか人の波に呑まれて姿を消したセンテルスちゃんの悲鳴が聞こえる気がするけど気のせい気のせい。


「じゃあ良い感じに盛り上がってきたので次の人に行きましょうか」

『――――――』


 その一言でセンテルスちゃんを祝福(リンチ)していた魔女達の動きが止まる。ギギギギ……とまるで壊れた玩具のような動作で再び私に視線が集中する。あ、ダメ、そんなに見られると私恥ずかしいっ。でも気持ち良い!


「お・つ・ぎ・は~……君に決めた☆」

「う、嘘っ!? 私!?」


 私は【光拳】によって離れた位置に立っていた引っ込み思案ちゃんを壇上へご招待した。

 温まった場の空気を冷まさない方法の一つ。それは勢いを弱めることなく、畳み掛けるように次から次へと戦力を投入していくこと。


「ミリハちゃんのちょっと良いとこ見ってみったい~!」

「ひ、ひぃいい……」


 あー! 楽しすぎて脳汁出るーっ! どんどん逝こうぜ!


 ―――そこまでだっ!!―――


 ミリハちゃんの隠し芸を披露させようとした瞬間っ! 閂を掛けていた扉が外から叩き壊されたっ!


「ぬっ! 何奴!?」


 良いところであったというのにっ! 邪魔をするのは誰だっ! 

 ―――いや待て。……知っている。我はこの声を知っておるぞ!


「そ、その声はまさかぁ!」


 逆光を背負い奴は姿を見せる。


「ひとつ! 暇に飽かして魔女が集いし場を乱し!」


 魔女の基本的な装いであるをとんがり帽子とローブではなく、それを元に改造した『軍服』を着こなす女。それが朗々と口上を上げながらこちらへ向かってくる!


「ふたつ! 不埒な享楽狂愚三昧!」


 鋭い眼光放つ翠の瞳が私を映す!


「みっつ! 見過ごすことなど出来ようか!」

「っ!」


 私は壇上を駆け、奴目掛けて飛び出す。


「よっつ! ―――知るがいい。貴様の罪を、その身をもって!」


 そして私は叫ぶ。奴の名を。


「ギリードリフデン・ガンマぁああああああ!!」

「……最後の『イモータルアーミー』の名が抜けているぞ―――ヘルベリス・デルタぁああああああ!!」


 殴り合うように互いの手と手で掴み合い、額をぶつけ合う。

 凄まじい衝撃が辺りに広がる。

 今ここに、『最上位魔女』同士の熾烈な戦いが幕を上げた!!


 ◆◆◆


「あわわわわ……」


 大変です。さっきまで全力ではっちゃけてたヘルベリス様が突如として現れた別の魔女、ギリードリフデンと呼んだ方と喧嘩を始めました。


 ドガン! ドガン! ドガン!


 は、速いっ、目で全然追えません! その場から消えたと思えば別の場所に姿を現わしてぶつかり合い、そして再び姿消して他の場所でぶつかり合う。


「きゃ!?」


 あちこちで2人がぶつかり合った衝撃が弾けてこの大広間を揺らす。それに巻き込まれて吹き飛ばされ壁や床に頭から突き刺さる他の魔女様方。私の直ぐ傍にも見覚えのある魔女様が頭から床に刺さってきた。……って、こんな風に床に肩まで刺さってて大丈夫なのでしょうか? い、生きてますよね?


 ヘルベリス様とギリードリフデン様のぶつかり合いは激しさを増していく。2人の速さに目が慣れてきたのかギリギリ姿を確認出来るように―――


「―――っ!? あ、あれ!?」


 何ですか今の!? 何か変でした!

 私は自分が感じた違和感を確かめる為に目を凝らしてその瞬間を待つ。


「あ!」


 見えた! ……見えた……けど……あれはいったい?

 その時、私は戦っている2人の声を耳にした。


「―――次は私の番ね! 食らえ!!」


 そうしてヘルベリス様が繰り出したのは……『うさぎのぬいぐるみ』だった。


 ???


 ……え? 何で?


「ぐわぁああああああっ!!?」


 ヘルベリス様がぬいぐるみを掲げるとギリードリフデン様がまるで爆発でも受けたかのように吹っ飛んだ。


「なんでっ!?」


 意味がわからない。


「くそ! やるな! なら次は私の番だ!」

「来るなら来なさい……返り討ちにしてやる!」

「ハァアアアアッ! 食らうがいい!!」


 そうしてギリードリフデン様が取り出したのは『くまのぬいぐるみ』。ちょっと潰れたような輪郭が特徴的な柔らかそうなぬいぐるみ。それを眼前に突き付けられたヘルベリス様は―――


「ぬぁああああああっ!!?」

「……ええぇ?」


 吹っ飛んでいくヘルベリス様を見て気の抜けたような困惑の声が出てしまった。。

 床に手を着き膝を震わせるヘルベリス様は不敵な笑みを浮かべ、口元の血を拭う。……さっきのどこに出血する要素が?


「……衰えてはいないようね、ガンマ」

「お前も出禁になっている間ただ遊んでいただけではないようだな、デルタ」


 激しい戦闘?によってボロボロの2人。しかしお互い手に持つぬいぐるみを手放そうとはしない。かなり強めの力で握られているのか、ぬいぐるみは少し可哀想な状態になっている。……首、握り絞められてる首が千切れそう……狩りの成果ですか?


「……いったい2人はなんの勝負をしているんでしょう」


 魔女の風習に疎い私にはさっぱりで―――


「「これ邪魔っ!!」」

「ええええええええ!?」


 2人は手に持ったぬいぐるみを床に叩き付けた。

 ……いや、なんで? 本当になんで? 

 ぬいぐるみの綿が弾けて宙を舞う中で2人は神妙な顔つきになる。


「この勝負……お互いにブレイクでドローのようね」

「……ちっ! 仕方が無い……ユニフォーム交換か」


 2人は上着を交換した。


「……さて、仕切り直しといきましょうかガンマ」

「次はオウンゴールを決めさせてやるぞデルタ」


 そしてその状態で戦いを再開しようとする。

 ……何一つ理解出来ない。私とはまるで生きている世界が違う。色んな意味で。


「もしかして……これが魔女の伝統……」

「いや違うからね? アレを魔女の一般と思わないでほしいんだけど」

「ひゃっ」


 お尻が喋ったっ。……あ、違った。この頭から床に刺さっている人は確か―――


「薔薇の君」

「……良い度胸ね人間」

「ご、ごめんなさい」


 さっきのヘルベリス様の隠し芸大会?の印象があまりに強くて……。


「センテルス様……ですか?」

「そうよ人間。私は『枯朽(こきゅう)』の『魔心(マギカ)』を宿して生まれ出でた魔女、センテルス・ウィザー。……それはそうと抜くの手伝ってくれない?」

「あ、はい」


 足を引っ張れば良いんでしょうか? だ、大丈夫ですよね? せ、せー……のっ!


「んーっ! んーっ!」

「ぎぎぎぎぎっ! ―――ぶはぁああーっ!? 抜けたーっ!!」


 ボコンッと床材の破片を撒き散らしながらセンテルス様のお顔は無事に抜けた。……あう……抜けた拍子にお尻打った……痛い。


「あー、酷い目に遭った……。ありがとう人間、助かったわ」

「い、いえ。私なんて何も……ですがお役に立てたようで良かったです」


 土埃を手で払いながら立ち上がったセンテルス様は尻餅を着いている私に手を差し出して立たせてくれる。……さっきまで床に埋まっていたのが嘘のように綺麗な顔立ちをしている。魔女というのは皆美人なんでしょうか?


「ていうか人間、あんたかなり痩せてるわね。大丈夫? お菓子食べる?」

「え、えっと……」


 優しい人なんでしょうか。センテルス様は腰を曲げ形の良い眉を寄せながら私の顔を覗き込み、心配するように声を掛けてくれる。


「……あれ? あんた」


 センテルス様は私の顔を見て目をぱちくりさせる。


「黒髪に黒目……もしかして……『魔惹(まび)き』の子? 珍しい」


 ……まびき?

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