8.サバト~悪魔が笑う宴~
◆◆◆
魔女集会。
それは世界中に存在する魔女達が一堂に会し交流する場、または催し。
それは三千世界の例に漏れずこの『螺旋世界グランギニョル』でもその魔女集会は開かれている。
この世界での集会場となるのは『創造の館』。その大広間には世界中から出向いてきた魔女達が談笑に花を咲かせていた。
―――最近はどうです?―――質の良いベルリーパーの苗が手に入ったの―――今度エータ様が主催する講座に出席するのよ―――エプシロン様がまた新しい悪魔を生み出したと―――今日の魔女集会は―――ガンマ様がお弟子様のイオタ様と一緒に―――
パーティーのような賑わいを見せる場。クロスを掛けられたテーブルには品の良い器に盛られた色彩豊かな料理や酒が並べられ、無貌の管弦楽団による演奏がこの空間を格調高く飾り立てる。そこで語られる話題の数々が常人には知り得ない物で溢れ彼女達が普通の人間ではないと実感させる。
その煌びやかさ。まさに魔女達の社交界。憩いの場。
―――そこに『彼女』が踏み込んできた。
会場の扉がバンッ!と大きく響く音と共に開け放たれる。
会場内に居る全ての魔女の視線がそこへ集まる。
「――――――」
突如として現れたのは黄金の髪をなびかせる長身の女。その女は魔女達の視線を一身に受けながら表情を小揺るぎもさせない。静謐さを湛えた女は肩で風を切るように颯爽と歩き出すと壇上へ一直線に向かう。誰にもその歩みは止められない。誰もが急な事態に即応できないでいる。
女は壇上に上る。そして演台の前に立つとそこへ両手を着く。そこで女は初めて表情に変化を見せる。それは笑顔。美しい容貌が作り出すその笑顔は万人を魅了する魔性が宿っているが、この場に居る魔女達はその光景に冷や汗を流す。そんな彼女達の様子を知ってか知らずか女は口を開く。
「皆さんこんちには。本日は魔女集会に出席して頂きありがとうございます」
それは女の見目に即した気品ある優雅なもの。しかしそれを聞いた魔女達は顔を青くして震え出す。
「さて……それでは堅苦しい挨拶は抜きにして―――」
魔女達は知っている。目の前の存在がどのようなものか。『理不尽』『不条理の権化』『究極の空気読まない奴』『愉快犯』『愉悦部』『普通にヤバい奴』『光る変態』『こっち来んな』『恐ろしく速い奴』……呼び方は数あれどその見解は一致している。―――奴は危険であると。
ならば彼女達が次に採る行動は決まっていた。
「くたばるといいね」
―――逃げるんだよォ!
魔女達は我先にと逃げ出す。輝くような笑みを浮かべる『ヤバい奴』から。
◆◆◆
「逃げろー!!?」「な、なんでアイツがここにっ!?」「出禁にされてる筈じゃっ!?」「夢……私は夢を見ている……」「しっかりしなさい! これは現実よっ!?」
やだ~、私とまた会えたのがそんなに嬉しいからって照れなくてもいいのに~。この恥ずかしがり屋さん達め☆ 扉は既に施錠済みだよ? バールは閂代わりにも使えるこれ豆知識……あ、バールじゃない『こじ開け~る君』だ。
……まあまあ最後まで私の話しを聞きたまえ君達。ちょっと壇上に立ってテンション上がっちゃって「くたばれ」とか言っちゃったけど本音じゃないのよ? ほらほらそんな大勢で扉に押し掛けたところで出られないから。諦めよ? ね? ここに残ってお姉ちゃんと遊ぼ?
「今日は皆さんにちょっと、殺し合いをして……じゃなかった……『隠し芸大会』をしてもらいます!」
「――――――」
その一言に皆どうしてか絶望的な表情になる。……あれ~? なんで~? 隠し芸大会なんて盛り上がる鉄板ネタじゃ~ん。折角の魔女集会なんだし楽しもうよ。私なんて楽しみで腕にシルバー巻いてオシャレして来たんだよ☆ それに今日は何と言ってもメイちゃんというゲストもお越しになってるんだよ?
ヘーイ! 舞台袖のメイちゅわ~ん! 見てるー!?
「……阿鼻、叫喚……」
メイちゃんはこの集会場の見ながらポツリとそう溢す。……え? 何その感想……。
ま、まあイイや。取り敢えずメイちゃんにはこの魔女集会がどんな雰囲気なのか体験してもらうのが目的なんだし……ガンガン行っちゃおう!
「じゃあ先ずは―――貴女から」
「ひっ」
栄えある1番目の挑戦者だ!
真っ先に扉へと辿り着いた決断力と瞬発力の高さとその他諸々を評価しての人選だー!
「な、なんで? 私さっきまで扉の前に……どうして壇上に」
「まあまあ細かいことは気にせず、ね。ほらもう壇上に立っちゃってるんだし早速隠し芸やっちゃお? 場を温めよ?」
「む、むり」
ヘイヘイ、どうした魔女の一族よ? 緊張で魔力が乱れてるぜい。可愛いよ♡ さっさと肩の力抜いてやれよノロマ。
「エンットリィイイイナンバァアアア1ッッ!! 木枯らしの魔女センテルス・ウィザーちゃん!!」
「なんで私の名前知ってるの!?」
「魔女としての固有能力は『枯朽』! 趣味は能力を生かして『庭で栽培した茶葉から紅茶を作る』だそうですお洒落ですね☆」
「怖い怖い怖いっ!」
「そして更に! 私はこの子を一番に推した理由がありまぁす!」
「え?」
あれ? 適当に選んだと思った?
そんなわけないじゃーん。厳正な審査の結果だよぉ?
「この子はなななななななんとーーー!!」
デデデデデデデデデ……ジャンッ!!(ドラムロール協力:無貌管弦楽団の皆さん)
「現在、サントルク王国騎士の1人と熱愛中、とのことです」
「ぴっ」
――――――。
大広間の空気が私の登場とは違う理由で凍り付く。皆の視線が私からセンテルスちゃんへと移る。
「では皆さん。センテルスちゃんのお相手……そのプロフィール……知りたくありません?」
『詳しく』
「あ、あんた達!?」
皆さん興味津々な御様子。いやー仕方ないなー。期待には応えないとねー?
「名を青銅の騎士オリオール・クルエル・ルヴァン。身長185㎝、体重72㎏。騎士という役職から察せられる通り鍛え抜かれた肉体が光るナイスガイ。貴族位持ちで教養高く槍術・剣術・弓術・馬術・戦略・算術・語学に通じる。休日は市民に扮して街を見て回り、その雰囲気を肌で感じ、住人達と交流しその笑顔を見ることで真の平和を知る騎士の鏡」
「だからなんで知ってるの!?」
私がお相手の情報を出す度にそれを聞く行き遅れ共……聴衆達の目が剣呑さを増していく。
「出会いはそう……センテルスちゃんが紅茶のレパートリーを増やすのとそれに合うお茶菓子を探して街に出向いた時でした」
『それでそれで?』
「催促止めろぉっ!?」
良いね、気分が乗ってきたよ! メイちゃんも続きが気になってる御様子。やっぱり女の子だね☆
「人の文化が作る物は好きだけど、人混みがちょっと苦手なセンテルスちゃんは街中を歩き続けて疲れました。魔力である程度は強化可能でも魔女は基本的に脆い存在。……センテルスは眩暈でフラリと倒れそうになった。ああ、このままでは寒風で散る花のように脆く儚い彼女の体が傷付く―――その時でした」
『―――(ワクワク)』
今や聴衆達は壇の近くに集まり三角座りで話しの続きを待っている。
「センテルスの体を受け止めたのは硬い石畳ではありません。その者は倒れゆくセンテルスの背を優しく、そして逞しく受け止めこう言いました……『お怪我はありませんか? 薔薇の君』―――それは茶葉を育てると共に香料となる果樹や草花も育てていたセンテルスが特にお気に入りである薔薇を髪飾りとして挿していたことに由来した呼び名。微笑みと共に自分を支え助ける者、オリオールにセンテルスは胸の奥に甘い疼きを覚えました」
『―――(ドキドキ)』
座りながらも身を乗り出して話しを聞く聴衆。
「そしてオリオールはセンテルスの手をその鍛えられ節くれ立った大きな手でまるで壊れ物でも扱うかの如く優しく取ると座れる場所へ誘います。その彼の行動に一切の下心無く、ただただ相手を案じる優しさだけがありました。きっとこれが若い女性でなくとも、老若男女問わず彼は倒れそうになる目の前の人物に手を差し伸べたことでしょう。彼は騎士らしい……『誰にでも』実直で優しい男なのです」
『―――あ……(察し)』
皆さん、お気付きになられたようですね。
「そう……センテルスにとってオリオールは胸を高鳴らせる特別な相手。しかしオリオールにとってはそうではない。実態は違えど目の前の女性は自身が守るべき市民の1人でしかなかったのです」
『―――oh……』
まあ待ちなさい。嘆くのはまだ早い。
「だからセンテルスは決心したのです」
『―――お?』
そうです。センテルスちゃんは強い子。やるべきことはわかってる。
「『この方の心を射止める』と」
『―――おお』
流れが変わった。
「そして始まるセンテルスの猛アタック。初恋を実らせる為に彼女は積極的に好意を相手に伝えます。『素敵だと思う』『立派ね』『私は好きよ。貴方のその真っ直ぐさ』『どんな女の子が好み? 知りたいの。……そう成りたいから』……例え朴念仁だろうと相手の気持ちに気付かざるを得ない言葉の数々。センテルスという薔薇の棘は着実にオリオールの胸へと刺さっていき……遂にっ」
『―――おおおおおお!』
来たる運命の時。
「『薔薇の君。いや、センテルス。……私の心は君に絡め取られたようだ』『何を言ってるのオリオール。……私は出会った時からずっと、よ』……2人は葉すら紅く色付かせるような熱い口付けを交わしたのだった」
『エンダァアアアアアアア!!』
「いやぁあああああああああああっ!!?」
聴衆達の歓声。それに続くように絶叫を上げたセンテルスちゃんは真っ赤になったお顔を隠すように頭を抱えて蹲った。
……最初の隠し芸とっても良かったよセンテルスちゃん!! そしてついでにファック!!




