7.驚異! 『ガンマの遊兵』!
◆◆◆
「はいごめんくださ~い」
よ~し、何とか館まで入れたぞ☆
玄関扉に掛かってた鍵もこのバー……こじ開け~る君を使えば閉まっていないのと同じ! ビバ魔法! 素晴らしきかな魔法!
「…………」
おっふ、メイ殿のじっとりした視線が我が輩に向いているでござるよ。この『創造の館』が誇る絢爛なエントランスよりもメイちゃんは私の姿に釘付けのようですなっ。
……別に私は何も変なことはしていないよ? ええ、してないですとも。
「あっはっは~、楽しみだな~。皆元気にしてるかな~?」
「……皆とは……やはりヘルベリス様と同じ『魔女』の方ですか?」
流れが変わった! これで勝つる!
「うん、だいたいは魔女だよ。まあ連れて来てる従者とか使い魔とかはその限りじゃないけど。……あ、もしかして気にしてた? 魔女じゃない自分がここへ入っても大丈夫かなって」
メイちゃんはそれに頷くことで応えてくれる。
「ごめんね? 不安にさせちゃったみたいだね」
頭を撫でてよ~しよ~し。う~ん……今までの生活がアレだったから痛んでるけどこの髪、質は悪くないね。ちゃーんと手入れしたら輝くねコレは。ふっふっふ……身も心も磨いてやるぜぇ。幼気な女の子を好きなようにするなんて私はなんてあくどいんだろう。これぞ魔女の面目躍如。
「魔女って基本的に変人・変態の魔窟だけどそこまで恐がる必要は無いよ。魔女には魔女の決まりや約束事があるから不用意に破ったりしない限り物騒な目に遭わないよ」
「決まり……約束……破る」
「……あれ?」
おやおや? なんだかメイちゃんが遠い目になっちゃたぞ? 何か気になることでもあったのかな? 開けた扉の方を見ても何もないよ~?
む~、何か忘れてる気がする。……ま、いっか☆ 何かあったらあった時よ! 魔女は前進あるのみ! 後悔なんて後から付いてくる物、追い付かれなければ問題無し!
……そんなふうに考えていた時期が私にもありました。
―――チリーン……チリーン……―――
軽やかなベルの音がエントランスに響き渡る。
―――……oh……これは聞き慣れた音。
「……ヘルベリス様。この音はいったい?」
「あー……えっとね、メイちゃん……これはね……」
あらやだ、笑顔が引き攣っちゃう。
「侵入者を知らせる『警報』……です」
だって警報が鳴った原因、私なんだもん。
―――ドドドドドドドドド―――
「……足音? たくさんの」
ヤベーよヤベーよ……。『奴ら』が来た。
「大変よメイちゃん! 侵入者である私達を引っ捕らえるために警備隊がやって来るわ!」
「……私達……? ……ちなみに捕まるとどうなるのでしょう?」
あれ? メイちゃんなんで『え、私も捕まるの?』的な反応をしたのかな?
「世にも恐ろしい責め苦を味わうことになるわ。……臨時で警備隊の役割も担う『ガンマの遊兵』の手によって!」
ああっ! 奴らがもう直ぐそこまでっ!
「……なんでしょうか、聞き覚えのある声……鳴き声?」
―――ドドドドドドドドド―――
……ー……ゃ……にゃ……にぁー……にゃあ~……―――
『にゃ~にゃ~!』
くそっ! 出やがった! ガンマの遊兵がっ。
『下手人だ下手人だ~! 引っ捕らえろ皆~』『にゃ~!』『仕事だ仕事だ~!』『ニャーン』『お昼寝の邪魔をする輩は誰だ~』『ツナ缶』『無いよ、ツナ缶無いよ』
「か、かわいいっ」
メイちゃんも驚愕を見せるガンマの遊兵。
それは兵隊全てが『猫』で構成されたエリート部隊っ!
猫にあるまじき二足歩行。何故か軍帽と軍服の上は着てるのにズボンはおろか下着も付けない変態チックなファッション。服を着るのか着ないのかはっきりしやがれ。そんな奴らが各々がその猫の手でどうやって掴んでるんだと考えさせられる警棒や捕縛縄を掲げてバタバタと駆けてくる。
その数なんと50匹! まさに数の暴力! おのれガンマっ……卑劣な真似を!
『お前が侵入者か~?』
黒猫がメイちゃんへ警棒を突き付ける。
「……多分そうです。……皆さんは猫さん? それとも違う生き物なんですか?」
メイちゃんは膝を折るとその黒猫と視線を合わせて質問をする。
『僕達は誇り高き『ねこねこ族』! ガンマ様の手により生み出された新造魔獣が一つなのです!』
「……かわいい」
『な、なにをする!? あっ、あっ、そこ、そこはぁ……』
「ふわふわ」
『にゃ~ん』
な、なん……だと? メイちゃんの撫で撫でによってガンマの遊兵の1匹が早速陥落しただと!?
『な、何をする人間!』『隊長がやられた!?』『よさぬか人間! 撫でられ慣れていない隊長はそれに弱い!』『隊長は初心。はっきりわかんだね』
「……猫さんがいっぱい。抱っこしても良いですか?」
『抱っこは好かぬ!』
「残念です……。じゃあこの辺りを撫でるのは?」
『あっ、あっ、腰っ、腰は~……にゃ~ん』
『……僕は抱っこオーケーですよ?』
「……ありがとう」
『にゃ~ん』
次々とっ、次々と猫畜生が陥落していくっ! メイちゃんの手によって!
「ヘルベリス様」
「なーに? メイちゃん」
「どなたか連れて帰っては駄目ですか?」
毛足の長いねこねこ族の1匹を抱き上げたままメイちゃんは私にそう尋ねる。う~む、猫と少女って良いねっ。
「ガンマと相談しないとわからないな~。ごめんね?」
ガンマって結構頭硬いからな~。断られそう。ドケチめ。お茶に入れる砂糖を塩に取り替えてやるっ。
「いえ、大丈夫です。……我儘を言ってすみません」
「ぜーんぜん平気だよ! むしろメイちゃんにはどんどん我儘を言ってもらわないと! 何と言っても私達は家族ですから!」
もっと伸び伸びと生きることを覚えないとね! 私みたいに真面目一辺倒だと疲れちゃうよ☆
『にゃ~ん……はっ! 忘れてた! まったりしてる場合じゃない! やいこら侵入者! 大人しくお縄に付け!』
ちっ……遊兵の一部が正気に戻ったようだ。警棒や捕縛縄を振り回して威嚇してくる。
仕方が無い。奥の手を使うか。異次元帽子の中から……あらよっと。
「ほーら猫ちゃん達ー……これなーんだ?」
『っ! そ、それは!?』
手に持ったそれを高々と掲げる。ほ~れよく見えるだろう?
「『ツナ缶』だよー」
『おおーっ!?』『ツナ缶! ツナ缶だ!』『にゃっはー! 新鮮なツナ缶だー!』『缶詰って新鮮?』『ずっと新鮮』『おいおい最高かよ』『ふーん、やるじゃん』
「ほ~ら拾え~い!」
ブリキ缶で封入された鮪の油漬けを大量にバラ撒く。放り投げられた数十にも上るツナ缶へガンマの遊兵達は目の色を変え我先にと群がっていく。メイちゃんに抱っこされてたり撫でられていた猫も弾かれたように飛び出していく。
「……あぁ……猫さん」
メイちゃんそんな物悲しい声を……。これはガンマと交渉する必要があるわね。
「じゃあこのまま先へ行きましょうかメイちゃん」
「……いいんですか?」
メイちゃんは職務放棄してにゃんにゃんとツナ缶を貪り始めた猫畜生を見ながらそう聞いてくる。
「いいのいいの放って置いて。今日の目的は魔女集会の見学とお買い物なんだし」
1回捕まって猫拘束とか猫責めとか猫尋問とか猫説教とか食らうのも楽しいけど時間が掛かるからね~。
私はメイちゃんと手を繋いで歩き出す。
「また今度ゆっくり時間を取って遊びに来ましょうか」
「 ! ……はいっ」
うんうん。メイちゃんが楽しそうでなにより。
いやー、今日も平和だなー。
『にゃむにゃむにゃむ』『うみゃうみゃうみゃ』『にゃふふにゃふふ』
―――にゃんにゃんウルセえぞ猫畜生共! お腹撫でるぞモフモフするぞ吸引するぞコラーッ!
※野良猫や他所の家猫に餌を与えるのは止めましょう。