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3.私の料理レパートリーは百八式まである(嘘

 お。そう言えば私まだ奴隷ちゃんの名前知らない。まさか本人を前に奴隷ちゃんと呼ぶわけにもいくまい。……てゆうか奴隷の首輪ポイしちゃったから結局の所この子はもう奴隷じゃないんだけどね!


「じゃあお名前! 貴女のお名前教えて!」

「……メイ。……メイです」


 長い前髪で目元を隠すように俯きながら奴隷ちゃんは私に名前を教えてくれる。


「メイ。良い名前だね! 可愛いよ! それじゃあ改めまして……メイちゃん! 今日からよろしくね!」


 これで遂に私も独り暮らしから脱却。めくるめく夢の同棲生活がスタートするのね。


「い、いや、あの、待ってくださいっ」

「? どうしたの?」

「ど、どうして急に一緒に生活するという話しに?」


 気になっちゃう? そこ気になっちゃう感じですか~?

 やばーい。説明が面倒ぞ。……あ、そうだ。難しく考える必要は無いや。


「気分!」

「き、気分っ?」

「そう気分よ! ―――この世に存在するどんな小難しい理屈よりも……『気分』こそが人間が行動する時に最も優先される答えよ! 感情ある生き物は皆その時の気分で生きてるの!」


 半分適当に言っておりまーす。


「き、急にそんなこと言われても―――」


 ぐぅ~


「…………」


 おやや? 何かな? このきゃわいい音は?

 へいへいメイちゃん。お顔が赤いよ~。気分が出ちゃってるよ~。


「ご飯にしましょうかメイちゃん。私用意してくるからメイちゃんはそこで寝ててね」

「……あ……でも……私……」


 台所へ向かおうとした私にメイちゃんが呼び掛ける。その際メイちゃんは自分の首に手を当てて「…………え?」と、やっと自身の首からあの可愛くない首輪が消えていることに気が付いた。


「メーイちゃんっ」

「っ! は、はい」

「アレね、邪魔だから外しちゃった♪ ……実は大事な物だったりした?」

「~っ!」


 メイちゃんは首をブンブンと横に振る。あはは、そんなに振ったら頭がどっか飛んでっちゃうよー。


「なら良かった。じゃあご飯持ってくるからね~。良い子で待ってるんだよ~」

「……ぁ……はい……」


 私は部屋を後にし、台所へと入る。


 うむむ。しまった、碌な食べ物が無い。

 それよりも人間さんって魔女と同じ食生活で大丈夫なのかしらん?


「メイちゃーん!」

「な、何でしょうっ?」


 台所から急に呼んだからメイちゃんが慌てたような声で返事をくれる。


「好きな食べ物とかある? 逆に嫌いなのとか食べられないのとか」

「わ、私なんて……残飯で結構です」


 え~。残飯なんて出せないよ~。……それよりも今の言葉でメイちゃんのこれまでの食生活が垣間見えて涙が出そうっ。

 よ~し! お姉ちゃん、美味しい物出してあげるからね~!


 ――――――


「どうぞ☆ ご飯だよ♡」

「…………」

「じゃあ私も……頂きまーす!」


 パクパクむしゃむしゃ。


「むぐむぐ……ゴクン……あれ? メイちゃん食べないの?」

「……あの……その……」


 メイちゃんはご飯が入った器を手に持ったままもじもじする。なんか言いたいことがあるけど言い辛そうな雰囲気。


「なになに? 何でも言ってよ。私とメイちゃんの仲じゃな~い」

「……ヘルベリス様」


 あれ? 様付け? さっきはさん付けだったような……


「私なんかに気を使って頂かなくても……良いんですよ?」

「ほえ?」


 メイちゃんは悲痛さを噛み殺したような顔で器のご飯を見る。


「私に合わせてヘルベリス様も一緒に『残飯』をお食べになる必要なんてないんですよ?」

「――――――」


 ……私はメイちゃんと同じように器を満たすご飯に視線を落とす。


 今日のレシピを紹介☆

 簡単クッキング!

 用意する材料こちら!。

 ・麦っぽい何か(葡萄みたいな鮮やかなパープル色)をお椀一杯

 ・抜いたら悲鳴を上げる根野菜(近くで悲鳴を聞いたゴブリンが死んだ)1本

 ・乾燥させた謎茸(毒味済み。突いたら赤い胞子を撒き散らす)2・3本

 ・香りは良いけど酸っぱい菜っ葉(花が咲くと凶暴になる品種。取り扱い注意)一束

 ・塩ひとつまみ(人面岩の涙塩)

 ―――これらを鍋に入れて一煮立ちさせるだけであら不思議! 

 なんか紫と緑のドロドロが出来上がり☆ 時折吹き出す赤い煙がとっても見た目映えする至極の一品♡


「…………」


 料理の所感。

 食感は舌に張り付くような粘りがあって噛み潰す度に汁が弾ける。味は苦味と酸味が前面に出てきたあとに妙な甘ったるさが若干の塩気と共に顔を出してくる。臭いに至っては何故か裏庭に捨てた獣脂が数日経って腐った時みたいな異臭を発してる。

 総評。

 食材の調和を度外視したこの一品は料理と呼ぶのもおこがましい出来。


「……ふっ……ふふっ」

「ヘルベリス……様?」


 残飯だわこれ。


「―――笑いたければ笑いなさい!? 私のこの壊滅的な料理スキルを!?」

「ええーっ!?」

「ふぇえええええええん!! エプシロンのアホー!! 何が『お前の料理を食うぐらいなら地面でも舐めた方がマシだな。マジ残飯以下。あんまり自分の胃袋を虐めてやるなよ。……あ、心配するだけ無駄か。毎日そんなんだもんなお前は。失敬失敬(笑)』よー!! 失礼すぎでしょうよー!!」

「何の話しですか!?」

「料理作るのが上手いからってドヤ顔する奴全員死ねっ!!」

「そこまで!?」


 ぬおおおおおお!! 怒りと憎しみと悲しみがぽんぽんから湧き出るー!! 

 まるで私の体が火吹き竜 胃は火焔袋になったよう!

 今ならこの世界を闇の炎で覆い尽くせるー!!


「へ、ヘルベリス様!」

「コー……ホー……コー……ホー……」

「……ちょっといいでしょうか」


 自分でも異様に感じる呼気を吐きながらゆら~っとメイちゃんの方へ顔を向ける。……心無しかメイちゃんとの距離が初対面時より離れた気がする……。なんか道ばたで変態に出くわしたみたいな感じ。


「……ふぅぅうう……。ご、ごめんね、ちょっと取り乱しちゃった。何かな? メイちゃん」

「…………」


 メイちゃんは少し逡巡する様子を見せたが直ぐに気を取り直したのか、顔を上げると真っ直ぐに私の方へ瞳を向ける。

 ……メイちゃんの黒目、黒星石みたいで綺麗だなー。


「私が……作りましょうか?」

「ん?」

「その。お料理……を」

「へ」


 お料理? 作ってくれる? 誰が?


「……メイちゃんが作ってくれるの? 私に?」

「……迷惑でなければ―――」

「お願いします!」


 ずいっと身を乗り出してメイちゃんに顔を寄せる。ちょっと食い気味過ぎた所為かまた仰け反るようにして距離を置かれる。微妙に傷付くわそれー。泣いちゃいそう。


 ―――何はともあれ、メイちゃんが私に料理を作ってくれることになった。……病み上がりだけど大丈夫かな?

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