25.皆殺しの悪魔、その一族。……血? 暴力? 苦手ですがなにか?
ヘルちゃんがツイッターで自撮りをupしました。
ふぅー……。ハッスルし過ぎて真の目的を忘れるとこだった。メイちゃんを床に下ろしてサラちゃんへ体を向ける。
すまんなサラちゃん。今日は君の為の用事だったのに。……これもメイちゃんが可愛いのがいけない。メイちゃんマジ魔性。
「さあ行くわよサラちゃん!」
『……ァホン』
我関せず。そう言っているような仕草でサラちゃんは私から目を逸らす。
「もー! サラちゃんってばメイちゃんにばっかり懐いて私には素っ気なーいっ! 構ってくれないと私から構いたおすぞーっ!」
『ワオッ!?』
前脚の脇に手を差し入れて持ち上げる。……デカすぎて持ち上げきれない。私が両腕を上げてもサラちゃんの後ろ脚は床に付いている。
「でっか。メイちゃんより成長が早いなんてサラちゃんのくせに生意気だぞー!」
しょうがない、脚付いたままでいいや。
どりゃーっ!と、さっきメイちゃんにやったみたいに持ち上げた状態でクルクル回る。
『オ? オ? ワォオッ!?』
「フゥーッハッハッハッハッハ! どうだ私のこのパワー!」
ほーれ! 回れ回れ回れー! テーブルもソファも何もかもぶっ飛ばす勢いで回れ―!
「―――室内で暴れるな」
「コークスクリューッ!?」
グッハ!? デンデンの捻りが利いたパンチが私の顎を打ち抜いた。
「うごごご……頭痛がする……は、吐き気もだ。……た、立てないっ」
「ヘルベリス様が産まれ立ての子鹿のようにっ」
ガクガクガクガク。体の震えが止まらん!
「……こ、この私がデンデンに殴られて気分が悪いだと? ……よしっ☆ 今日はもうお家に帰って寝よう! おやすみまた明日! デンデンもお疲れ!」
床にうつ伏せで寝転ぶ。……慌てない慌てない、ひとやすみひとやすみ。
「私にとってはお前が頭痛の種だ。……早く行くぞ」
「やーん引っ張らないでー。自分で歩けるー」
デンデンに服の裾を掴まれて引き摺られていく。あ、ちょ、そんな風に引っ張られると零れる。乳房が零れる。
「見て見てメイちゃん! ……おっぱいでモップ掛け!」
「汚れますよ?」
おっふ、冷静な指摘。そんなメイちゃんの穢れ無い瞳で見られながら私は立ち上がる。
「よっと。じゃあ行きましょうか。―――世話になったな衛兵達よ! 心配せずとも私はいずれここへ帰ってくる!」
アディオス。また遊びに来るぜ。
『もう2度と来ないでください。……来んなよクソボケェエエエエエエエエ!!!』
『……騒ぎは起こさないでね。……フリじゃないから。マジのやつだから』
「照れちゃってもー!」
―――衛兵さん達の温かい見送りに涙しながら私達は再び悪魔の街へと繰り出した。
――――――
―――秘境を越え、我々ヘルベリス探検隊は遂に目的の地へと辿り着いたっ! そこで待つ脅威の事実っ! 降り掛かる困難っ! 我々ヘルベリス探検隊の命運や如何にぃいいっ!?
「ここがあの女のハウスね!」
目の前の家を見上げながら私はそう言う。……ふむ、悪魔の家にしては悪くないセンス。
「……女性の悪魔さんが住んでいるんですか?」
「そうだ。悪魔を指してこう言うのは可笑しいが、人の良い人物だ」
あれー? 皆私のことは無視? 折角服装も探検隊っぽい物に着替えたのにー? ……暑苦しい、脱ご。庭にポ-イ。
『……あの……人のお家にポイ捨ては止めてください』
やべ。家主に見られた。玄関の扉が薄く開かれ、そこから目当ての悪魔が覗いているのが確認出来る。
「……ぴゅー、ぴゅー」
『それで誤魔化してるつもりなんですか!? ……はぁー……もー……』
扉が完全に開かれ、何だか疲れた御様子の悪魔がその姿を現わす。
「……こんにちは」
『こんにちは人間さん。こんな場所まで来るなんて物好きね』
メイちゃんは悪魔を不思議そうに見る。
「……天使様?」
『ふふ。私は正真正銘悪魔よ。……ガオー、私ハ怖イ悪魔ダゾー。……なんちゃって』
白い翼を背中から生やす天使のような姿をした悪魔。ぱっちりでクリクリした梟のような瞳をメイちゃんに向けて悪魔はおどける。
「犬さんの耳」
『実はこれ狼の耳なんだよ。……まあどっちでも変わらないけどね』
容姿の特徴……狼耳・大きな目・天使。
「―――あざとい! この悪魔あざといわ! 存在があざとい! 媚び媚びよ!」
『ちょっ、風評被害!? 私の種族はこれがスタンダードなんですよっ』
私はメイちゃんの肩に手を置いて向かい合う。
「メイちゃん。あの子、可愛い顔してるからって騙されちゃダメよ。あの子の家族はノリで周囲を皆殺しにするような野蛮な悪魔代表みたいな血筋なの」
「み、皆殺し?」
メイちゃんが驚きの声を上げる。
「そうよ。……東に行っては皆殺し。西に行っては皆殺し。北へ南へ呼ばれて皆殺し。目が合ったから皆殺し。機嫌が良くても悪くても皆殺し。開口一番『殺す!(挨拶)』的な皆殺しジャンキー……それがあの子の一族よ!」
「そ、そうなんですか?」
悪魔は難しい表情を浮かべ、小さく頷く。
『その通りだから否定出来ない』
「……そんなに怖い感じはしませんが……」
うむ。やっぱりあんな人畜無害そうな外見でそんな性質が有ると言われても理解しがたいみたいね。
するとデンデンが悪魔を手で指し示してメイちゃんへ紹介する。
「彼女の名はアンテルミ・アンドラス。……『アンドラス』という召喚を行われれば周囲の者はおろか召喚主さえ滅ぼそうとする皆殺しの悪魔……その一族だ」
『……どうも』
「まあ、彼女はその中で異端児という立ち位置でな。殺しは元より暴力すら苦手という温和な気性の持ち主だ。今はその一族からひとり立ちして『使い魔契約』を職にして過ごしている」
『あはは……血とか痛いのとか本当に苦手で……』
皆殺しの悪魔アンドラス。その一族出身であるアンテルミ・アンドラス。つまりアンアン。
アンアンの紹介を聞いたメイちゃんはそれで納得出来たのかコクコクと可愛く頷いている。
「……成る程。……アンテルミ様は優しい人なんですね。傍に居ると落ち着く気がします」
『……面と向かってそう言われると照れちゃうね。でもありがとう』
な、なにぃいいー!? メイちゃんがもう懐いただとぉおおう!?
メイちゃんを抱き寄せてアンアンへ威嚇する。ガルルルル。
「ちょっと! うちのメイちゃんを誘惑するのはやめて! この悪魔! 人でなし!」
『……ええぇ……それ、悪魔には悪口になってない……』
「うるさい! 庭に聖水バラ撒くぞ!」
『それは本当にやめて!?』
取り出した聖水入りの小瓶をフリフリ。ふっふっふ、悪魔にはとても恐ろしい代物であろう。
「……聖水は悪魔さんにとってもそんなに危険なんですか?」
良い質問ですねメイちゃん。
「悪魔にとって聖水は う ん こ なの」
「……はい?」
「人間の価値観で言うとそうなの。臭い・汚い・気持ち悪いの3拍子揃った物体。ほぼ う ん こ 」
メイちゃんは私からアンアンへ目を向ける。
『……まあ玄関先に う ん こ 捨てられるみたいな感じになるのかな? 悪魔的に』
「……それは嫌ですね」
つまり嫌がらせに最適。
「っ!? にやぁああああああああ!?」
「ヘルベリス様!? どうしました!?」
ぎゃああああああああ!? 思い出したぁああああああああ!? ひやぁああああああああ!?
「エェープゥーシィーロォオオーンッッ!! あいつ絶対ぶっ飛ばーすっ!!」
「どうしたんですか? 何があったんですか?」
「あいつー! あいつー!」
ぐぉおおおおおおおお! 胃がムカムカしてきたー!!
「エプシロンあいつ! 私に う ん こ 飲ませたのよ!? 絶対に許さん!!」
聖水 = う ん こ 。
聖水飲んだ私 = う ん こ 飲んだ私。
「……ああ……あの時の」
「思い出して余計に傷が深くなるこの現象! なんて名前!? なんて名前なの!?」
あばばばばばば……。あいつ今度会ったら只じゃおかねえぞ?
エプシロン「……www 一枚目www 便意に耐えてる顔www」
ヘルちゃん「うるせぇ。うんこぶつけんぞ」
エプシロン「サル乙」
ヘルちゃん「……ちなみに二枚目はどう?」
エプシロン「何時ものアホ面」
ヘルちゃん「(#^ω^)」ビキビキ




