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24.逮捕される変態

 どうも、皆のアイドルマスター・ヘルちゃんでーす☆

 本日はメイちゃんとサラちゃん、あとついでにデンデンを伴い悪魔の街へと繰り出しています。目的はこの街に居を構える悪魔の1人に魔獣登録の手続きをしてもらう為でーす。


『じゃあ調書取るんで質問に答えてくださいねー』

「……はい」


 狭い部屋。小さな机を挟んで私と鳥頭の悪魔が席に着いている。出入り口たる扉側は悪魔側に有り、その扉近くには私が逃げ出さないよう有角の悪魔が見張りに立っている。


『目撃者の証言によると、フォトンフィストさんは往来で急に通行人へ暴行を働いたとか?』

「……はい」

『理由は……同行者に対する不埒な視線……で合ってます?』

「……はい」

『相手は見てただけ? 実際に手を出したりとかは?』

「……はい。……無かったです」

『それなのにボコボコにしたと?』

「……あい」

『奴さん、全治一時間らしいですね。悪魔にとっちゃ大怪我ですよ』

「……うっす」

『……まあ向こうにも問題が無かったとは言わないけど、常習犯だし。でもやり過ぎだと思うよ?』

「……押忍」

『駄目ですよーフォトンフィストさん、こんなことして。お連れさんにも迷惑掛かるんだから』


 鳥頭悪魔は私に質問しながら手元の用紙へ筆記を続ける。鳥頭って言うと頭悪そうに聞こえる不思議! ……え? 私が今居るここは何処かって?

 ―――ジャジャーン! ここは何と~! 街の秩序を日々守護(まも)ってくださっている衛兵さん達が詰めている詰所……そこに有る『取調室』でございまーす☆


 ……うん……そうなの。……私ね……逮捕されちった。


「……ふっ。……まさかしょっ引かれることになるとは、な」


 私は懐から葉巻を取り出し咥える。……う~んビター。


『あ、ここ火気厳禁なんで煙草は止めてください』

「違いますー。これはチョコ菓子ですー。ビターチョコで大人の味なんですー」

『キッシャーッッ!!! 紛らわしいことしてんじゃねぇゾこのクソ犯罪者がぁあアアーッッ!!! ピギャーッッ!!!』


 鳥頭が本当の意味で牙を剥いて怒鳴り散らしてくる。やーん嘴なのに歯が有るの最高にキモーい。


『……はいじゃあ質問続けまーす。えーっと次に聞く事はー……』

「テンションの落差酷くない?」


 唐突に怒鳴り唐突にスンと落ち着く鳥頭。こやつヤベー奴では?

 そう思ってた私に有角の悪魔が蛇っぽい舌を伸ばしながら声を掛けてくる。長い舌ってなんかエッチ。……エッチくない?


『……彼』

「うい?」

『……彼、三秒ぐらいで感情がニュートラルになるから』

「日常生活に支障をきたし過ぎるっ」


 感情の沸点、壊れる。


『俺の質問に答えろぉおおおお!!! ピギッシャーッッ!!! ―――……はい。それでですねー、お連れさんとの御関係はイモータルアーミーさんがご友人。メイさんがご家族。魔獣がサラさんの使い魔候補で良かったですね?』

「はーい。間違い有りませーん」


 これって何時まで続くのかなぁ? ―――ふぇえーん!? 早く帰りたいよー!?

 メイちゃーん!! ヘルゥープッ!!


 ◆◆◆


「……ヘルベリス様は大丈夫なんでしょうか?」


 悪魔の方に『ぼうこう罪』という物でお縄に掛かってしまったヘルベリス様。私やギリードリフデン様やサラちゃんは関係者として衛兵さん達の詰所、その客室へ招かれお茶を振る舞ってもらっています。ちなみにヘルベリス様が何時も被っているとんがり帽子は私が預かり膝の上に乗せている。

 座り心地の良いソファにギリードリフデン様と私は並んで座り、私側の横の方の床でサラちゃんは伏せてゴロゴロしています。……敷物に抜け毛とか付いたりしないかな? 大丈夫?

 そんなことを考えているとギリードリフデン様がさっき口にした心配事の返事をくれる。


「あの阿呆が後先考えず暴れるのが悪い。ここで少し頭を冷やせばいい。……何、そんなに時間は取らんさ。私達はここでゆっくり待たせてもらえばいい」


 ギリードリフデン様はそう言って品のある所作でお茶を飲む。その様子は落ち着きに満ち溢れ、なんの不安も無いように見えますし……実際にそうなのでしょう。

 心配しなくてもいい。そうおっしゃってくれましたが……ですが。


「……ヘルベリス様が捕まったの……私の所為ですよね?」


 そもそも私があの変た……目玉悪魔さんに目を付けられたのが発端でしたし。

 ギリードリフデン様は苦笑する。


「だとしてもだ。……こうして捕まるのもあの阿呆がそう望んだこと」

「え?」


 捕まるのが望み通り? どういうことでしょう?


「あいつが本気を出せば……出すまでもないが、その気になればあの程度の悪魔共から逃げることも返り討ちにしすることも容易だ。……というか何時もならそうしてる。やれ商品が粗悪だった、目当ての人物が留守、目付きが気に入らない、躓いて転んだ、今日の占いの結果が悪かった……その度に悪魔の街は死屍累々の有様だったな」

「…………」


 ヘルベリス様……本当に滅茶苦茶してたんですね。後半なんて悪魔さん無関係。

 ……でも、今回はそうしなかった。


「それをしなかったのは(ひとえ)に……メイの保護者らしい振る舞いをしたかった……なのだろうな」

「……それは」


 それはやはり……私の所為なのではないでしょうか?


「あいつはただ格好付けたかっただけだ。メイに不躾な視線を向けた悪魔を殴ったのも、悪いことをしたから素直に捕まったのも、全部。自分がそうしたいと思ったからにすぎん」


 ギリードリフデン様は私の頭を撫でてくれる。


「だから帰ってきたら労いの言葉の一つでも掛けてやると良い。それであいつはご機嫌になる」

「そんなことで良いのでしょうか?」

「それが良いのさ」


 労いの言葉……何が良いでしょう。


『―――失礼します』


 客室の扉がノックされ、おそらく衛兵だろう悪魔の声が部屋に響く。


『はいお連れの皆さんお待たせしましたー。フォトンフィストさんをお返ししますねー。……キッシャーッッ!!! さっさと帰りやがれこのウジ虫がぁああアアーっ!!』

「びぇええーん!! メイちゃーん!! 寂しかったー!!」


 ヘルベリス様が大泣きしながら鳥の頭をした悪魔さんに連れられて帰ってきた。

 ヘルベリス様は真っ直ぐ私のところまで来ると、私をギュッと抱き上げてクルクル回る。


「もぉおおおー! あの鳥頭ほんと疲れるー! アップダウンが激しすぎなんじゃー!」


 大変だったんですね。……労いの言葉……。


「その……お疲れ様でした。……よ、よしよーし? ご立派でしたよ? 流石はヘルベリス様です?」


 どう労ったら良いのかわからなかった私は日頃の感謝を込めてヘルベリス様の頭を撫でる。……これで良いのでしょうか? 全然わかりません。


「め、めいちゃん」


 ヘルベリス様は目を丸くして私の顔を見て……。


「ぬっほー!! メイちゃんに褒められたー!! 嬉すぃいいー!!」

「きゃっ」


 ヘルベリス様は私の胸に顔を埋めるようにして抱き直すと部屋の中を駆けずり回る。……あ、危ないですよ? 前を見ずに走り回ると。私はヘルベリス様の頭を抱えるようにして揺れを抑える。


「さすヘル☆さすヘル!」

「さすへるってなんですか?」


 ヘルベリス様の考えていることは本当によくわかりません。……ですがまあ……ヘルベリス様の機嫌が良いようなので私も嬉しいです。


「スー……ハー……スー……ハー……♡ ……メイちゃん! チュッチュしていい!? ペロペロしていい!?」

「だ、だめです。皆さん見てますし……」

「じゃあお家! お家に帰ってから! だったら良いでしょう?」


 そ、それなら……良いかな?


「……おい衛兵。あの変態は取り締まらなくていいのか?」

『殴られるからヤだ』

「おい。仕事しろよ」


 ヘルベリス様と衛兵さんがそんなことを言っている。

 ……変態? ここにあの目玉悪魔さんは居ませんよ?

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