表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/28

23.悪魔こわい

 ギリードリフデン様が廊下を進み、ある扉の前まで来るとそれを押し開けて中へと入っていく。私達もそれに続いて中へ入る。


 ―――『夕暮れ』―――『黒』―――『広い』―――『外』―――『街?』―――


 部屋の中……違う、外?

 扉を潜った先、そこで私の視界に映ったのは屋内だと考えられない場所。


 街が広がっていた。


 血を塗ったような夕暮れに染まり薄暗い曇天が鱗のように張り付く空の下。黒を基調とした素材で建てられた家々が並ぶ。その玄関脇には立て看板が掛けられている。文字は読めないが書かれている物に似た物は有れど同一の物は見える範囲で存在しない。

 夕空と黒い街。

 その道を行き交う―――


「―――動物? ……じゃない。あれは?」


 動物。輪郭で一瞬人かと思わせるその身には他の生き物の要素……頭が犬だったり羊だったり、尻尾が生えていたりその尻尾が蛇だったり、動物そのままの姿で直立して歩いていたり……多種多様で統一性の無い生き物達が大勢居る。少数ではあるが人と変わらない姿をした者も居る


「ヘル。迷子になるなよ」

「もー、わかってるってばー。デンデンってホント心配性ー」


 躊躇うことなく街中を進むギリードリフデン様。

 そしてヘルベリス様は……私の手を取ると、握ったまま歩き出す。


「ヘルベリス様?」

「はぐれちゃうと、ちょーっと面倒なの。だからここからはお手々繋いで行きましょー☆」

「……わかりました」


 私は素直に頷く。

 ……この街はどうしてか背筋がぞわぞわする。館の廊下で目にしてきた呪物よりもここは私を不安にさせる。

 ヘルベリス様の手を強く握り締める。そこから感じる温もりが凍えるような不安を溶かしていく。


『ワフ』

「……サラちゃん。……ありがとう」


 ヘルベリス様の反対側、つまり私の隣りへと寄り添ってきたサラちゃん。その大きな体と毛皮の温もりが私の不安を更に消してくれた。


「じゃあ目的のお家へレッツゴーだよ!」


 ヘルベリス様は意気揚々と私を導くように引っ張る。


「あの、ヘルベリス様」

「はいはいヘルちゃんでーす! どしたのどしたの?」

「……ここはいったい?」


 さっきまでの館内と雰囲気があまりに違いすぎる。少なくともさっきまでの館内は危険は在れど、明るく華やかで美しかった。そことは打って変わりここは……暗く重々しい。


「ここ? ここはねー……―――『悪魔の街』……かにゃ?」

「あ、悪魔?」


 悪魔って、あの悪魔? 人を惑わし外道に堕とす、地獄に棲むと言われているあの?


「うん。創造の館(ワークショップ)に有る扉の一部は別の場所に繋がってるの。何処かの都市の廃屋だったり、打ち捨てられた教会だったり、秘境だったり……悪魔の街だったりね」

「……大丈夫なんですか?」


 悪魔は危険だと聞いてます。


「ん? 割と気の良い悪魔もいっぱい居るよ。まあ表に出てくる悪魔って基本的に誰かを呪いたい時や怪しい術を時に使いたい時に喚んだりするからそういう怖ーい印象付いちゃうよね」

「……優しい悪魔も居るんですか?」


 悪い存在だから悪魔と呼ばれているのでは?


「まあ悪魔なんて呼称されてるけど、つまるところ精霊とかの一種族みたいな物だよ。ただこういう陰気臭い場所に好んで棲む精霊がちょーっと他人様に迷惑を掛けがちなのが多いだけ、みたいな?」

「……普人(ヒューマン)が自分以外の人種族を亜人(デミ)と……まるで人未満のような呼び方を用いているような物でしょうか」

「そうそう、そんな感じ☆」

「だが」


 私とヘルベリス様が話しているとギリードリフデン様が声を掛けてくる。


「悪魔は悪魔と呼ばれるだけの性質の悪さを兼ね備えている。……そう簡単に心を許すことはしないように」


 ギリードリフデン様はとても真剣な目で私を見てそう言った。


「わ、わかりました」


 ……確かに。私の背筋を震わせた悪寒、今はヘルベリス様とサラちゃんのお陰で感じなくなったそれは、きっと今も直ぐ傍に存在するのでしょう。

 時折擦れ違う異形の精霊……悪魔は私へ視線を投げ掛ける。その瞳は直視をはばかれるほどの『何か』が含まれているような気がしてなりま―――


「ちょっとそこのあなたっ! うちの可愛いメイちゃんになんて目を向けてんの!?」

『ファッ!? 突然何だ!?』


 ……ヘルベリス様が悪魔の1人の胸倉を掴み上げて食って掛かる。

 お顔が一つの眼球という生物として見たら不可思議な悪魔は突然の事態に慌てふためく。


「セクハラ! セクハラよ! この人うちのメイちゃんに嫌らしい目を向けてたわ!」

『ハアッ!? 誰もそんな目を向けちゃいねぇ!?』

「嘘よ! 目を見ればわかるっ! こいつは女の子を舐め回すように見ること悦びを覚える変態悪魔だわ!」

『人聞きが悪過ぎる!? 酷ぇ言い掛かりだ!』


 え、ええ? どうして急にこんなことに……。周囲の悪魔達も『なんだ? なんだ?』『喧嘩ー?』などと言いながら遠巻きに様子を伺い始めています。ギリードリフデン様は頭を手で押えながら首を振っています。


『この目に誓ってそんなことはしてない!』


 悪魔さんは自分の顔……綺麗に澄んだ眼球を指差して高らかに宣言する。……これだけはっきりと言えるのですから……もしかしたら本当に無実、ヘルベリス様の思い違いという可能性も有りますよね?


「あ、あの……ヘルベリス様。この悪魔さんもそう言ってますし」


 だからここは穏便に。


「メイちゃんにそんな目を向けるなら私のこのヌァイスッバデーを見なさいよ!」


 胸を張るヘルベリス様。それによって強調される同じ女性として憧れを覚える大きなお胸。……私も大人になったらあれぐらい成長出来ますかね?

 ……しかし、あ、あの……私の為とは言えそんな自分の身を切るような―――


『止めろこのクソBBA(ババァ)!? せっかく 『エモい垂涎幼女ktkr(キタコレ)! デュフフwww 脳内フォルダに保存確定でゴザルwww 拙者の城で思う存分この胸熱なけしからん肢体を脳内hshs(ハスハス)でチュッチュしてペロペロしてスココココでゴザル! オホーwww 今から楽しみでゴザルなー! 本当にありがとうございましたww』 な気分だったのによー!? 拙者の曇りなきまなこが濁ったらどうしてくれんだ!? ―――ぁ……』


 …………


「…………」

『…………』

「…………」


 ……え? 何……何?


「ふぅー……マヌケは見つかったようね」

『……ま、待ってくれ』

「さーて、どう料理してあげようかしら」

『そ、そうだ!』


 ひっ、こっち見た。


『俺は無実だ! 君もそう思うだろう!? はぁ、はぁ、……オウ、グッドスメェル』


 無理無理無理無理無理無理無理無理っ!


「……いやっ……きもちわるいっ!?」

『幼女のきもちわるい頂きましたーっ!! フォーーー!!』

「変態!! 変態!! 変態!!」

『我々の業界ではご褒美です! あざーっす!!』


 イヤーーー!?


「質問だ」


 するりと。繋がれていた手が離れ、ヘルベリス様は変態と相対する。


『はっ!? ……し、質問?』


 ヘルベリス様の右拳が光を放つ。……いえ……拳自体が光になってる?


「右と左……どっちでお前を殴るか……当ててみなさい」

『……み、右?』


 左拳が光になる。


『ひ、左?』


 両拳が光り輝く。


『り……りょうほーですかあああ~?』


 悪魔の街が照らされる。

 突如として現れた煌々と輝く太陽によって。


『もしかして滅多打ちですかーッ!?』

当てちゃってさあ大変(イエスオーマイゴッド)☆ ……くたばれ」


 光の雨が変態へ降り注ぐ。


「オラララララララララララララ!! ゥオリャアアアアア!!」


 ドドドドドドドドドドドドドッッ!! ドグシャァアアッッ!!


『ぶへぇえええええッッ!?』


 ―――ボコボコにされた変態は星になった。


「……小児性愛(ヘンタイ)死すべし、慈悲は無い」


 ヘルベリス様は何処からか取り出した面頬を被り腕を組んで、変態が星となった方を眺めていた。……そして私はこの出来事で変態(あくま)の怖ろしさを知ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ