21.犬さんの健康診断
ギリードリフデン様、いったい何処から現れたのでしょう? しかし折角来て頂いたのです。挨拶しておかなくては。
「……お久しぶりです、ギリードリフデン様」
「うむ。メイもすっかり良くなったようだな」
「はい」
ギリードリフデン様は金像の腕を投げ捨ててから私の頭を撫でてくれる。
「おーいデンデン。今日は何用? 如何様? 私って今日も可愛い?」
「実は今日はメイに用が有って来たんだ」
「おっほー、流れるような無視。あざーっす!」
「用というのは……」
ギリードリフデン様はヘルベルス様が存在しないように自分の用を済ませようとしています。ヘルベリス様は周囲をチョロチョロしながら手を使って変顔を作りギリードリフデン様の興味を惹こうとしています。……何だか2人共とっても自由ですね。
「この家には今、魔獣が住み着いているな?」
「……はい。サラちゃん、おいで」
『ワン!』
犬さん……サラちゃんは尻尾を振りながら私の傍に駆け寄ってくる。
「ふむ」
『 ? 』
ギリードリフデン様は私の傍で腰を下ろしたサラちゃんをまじまじ観察する。
「……ヘル」
「はーい! ご指名入りましたヘルちゃんどぅえーす☆ 当店人気ナンバーワン魔女ちゃんどぅえーす☆ よろぴく♪」
「メイとサラの方が人気が出そうだが?」
「確かに」
ヘルベリス様は私の後ろに回り込むと腕を広げてサラちゃんごと抱き締める。
「じゃーん! 我が家の看板娘達でーっす! どうどう? 愛らしいでしょ?」
『……ブゥー……』
あ、サラちゃんのこの鼻を鳴らす音……面倒臭いなーって時にする癖です
「それでそれで? メイちゃんとサラちゃんがどうかした?」
「……忘れたのか?」
「ふみゅ? 何をー?」
ギリードリフデン様が懐から何かを取り出してヘルベリス様へ渡す。……あれは、何かを書いた紙でしょうか?
「え、何々? 恋文? 私ってばデンデンから恋文貰っちゃった? カーッ! モテる女は辛いねー!」
「いいからさっさと目を通せこのたわけ」
「レターッ!?」
ビンタを食らったヘルベリス様は口を3にして手渡された物を読み出す。
「えーっと……『飼育魔獣登録・健康診断・予防接種……等々のご案内』……なんだっけコレ?」
「やはり知らなかったか」
何でしょうか? 何やら大事なことらしいですが。
「魔女が魔獣を使役する時は役所に届け出が必要なのを忘れたか? 飼い主の義務であり常識だぞ?」
「……あ、あ~~……あったあった。確かにあったねそんなのも。私今まで使い魔とか居たことないからすっかり頭から抜けてたよー」
ヘルベリス様が私の頭の上に頬を乗せる。
「メイちゃーん。お掃除の途中で悪いんだけど、これからサラちゃんも連れて『創造の館』に行きましょう」
「あそこへ、ですか?」
「うん。サラちゃんは家で飼ってる魔獣だよって登録しておかないと面倒なトラブルが発生するかもしれないの。例えば他所から来た魔女に狩られたりとか」
「そ、そんなことがあるかもしれないんですか?」
「魔獣って基本的に討伐対象だしねー。素材とか目当てで狩られることも多いし」
……サラちゃん。狩られちゃうんですか?
それは駄目です。
「行きます。……その登録という物をしに」
「うん! 元気になったし今回は館内を色々見て回りましょうね!」
ヘルベリス様が私の首にネックレスを掛ける。それは以前に魔女様達の館から帰った後に頂いた『招待状』と呼ばれる物だった。
「コレが個人証明も兼ねてるから首から提げておいてね☆」
「わかりました」
私が招待状を身に付けるのを待っていたようでギリードリフデン様は一つ頷く。
「メイ自身は魔女ではないがヘルの被保護者……家族だからな。我々の一員と言って過言ではない。それを付けておけば無用な諍いに巻き込まれることはない」
その言葉を聞いたヘルベリス様が踊るようにクルッと回転しながら私の背後からギリードリフデン様の前へと出る。
「なーに言ってるのデンデン。この私が傍に居て諍いに巻き込まれる筈がないじゃなーい! なんたってこのヘルちゃん! 皆に好かれる人気者なんですもの☆」
……皆に……好かれる?
思い出すのは大広間で巻き起こった阿鼻叫喚の絵。
「…………」
「およ? メイちゃんどうしたのー?」
「ヘルベリス様」
「はいはーい☆ 何々ー?」
「私はヘルベリス様のこと、大好きですから」
「ホントー!? 私もメイちゃんが大好きー! ヒュー! 愛してるぅー!」
ヘルベリス様はとても良い笑顔で私を抱き竦めるとその場でくるくる回る。
流れる視界の端でギリードリフデン様は苦笑していた。
「……メイの方がヘルより遙かに大人だな」
そんなことはありません。ヘルベリス様はとても立派な方です。
「メイちゃんチュッチュッ♡」
……ちょっと自由過ぎるところは有りますが。
――――――
そして招待状を使って私達は『創造の館』へと移動した。
「……中、ですね」
今回はちゃんと玄関へと飛べたようです。やはり前回はイレギュラーな事態だったようです。
「あれま。じゃあバー……『こじ開け~る君』の出番は無しか~」
「どうして残念そうなんですか?」
ちょっと物足りなそうな表情をしたヘルベリス様は握っていた鉄梃を帽子の中へ仕舞い込む。
「……お前が壊した門と玄関の修繕費は『禁断の血潮』の分からきっちりと落としてもらったぞ」
「おっふ……。無かったことになってないのね?」
「なるわけなかろう。……それと我が遊兵なのだが」
「う? ……あー、あの毛玉ちゃん達? それがどうかしたの?」
「定期検診で血中脂肪が平均値より高い個体が少なくない数発見された」
「…………」
「心当たりが有るだろう?」
「……な、なんのことかにゃ?」
「缶詰」
「…………」
「目を逸らすんじゃあない。こっち見ろ」
「ウェイウェイ。待たれい待たれい。落ち着くが良い」
「喧しい! 我が兵が生活習慣病に罹ったらどうするつもりだ!」
ギリードリフデン様がヘルベリス様の胸倉を掴んでガクガク揺さぶる。そして腰の革ケースから何かを引き出すとヘルベリス様の顎下に突き付ける。
「ちょっ!? 銃は向けないで!? 良いじゃない別に! 猫ちゃんって動脈硬化になりにくいんでしょ!? 魔獣とか余計にそうじゃない! ならちょっとぐらい脂っこいの食べさせたって良いじゃない!」
「阿呆が! 我が兵は知能を発達させているから生活習慣病に罹るリスクが高まっているんだ! それなのにあんな物を食わせおって! ……と言うか人間向けの食品を動物に与えるな糞戯け!」
銃と言う物を突き付けられたヘルベリス様は両手を上げて降参のポーズをする。どうもあれは危険な物のようです。
『ワオ~』
気が付けばサラちゃんが私の傍で辺りを見回している。
「……サラちゃんは初めてだったね、ここに来るの」
更に大きく育ってきたサラちゃん。今では頭の位置がヘルベリス様の背丈ほどもあります。そんな体躯で家の玄関を器用に出入りするのですから凄いです。
サラちゃんの首元を抱き付くようにして撫でる。撫でるととっても喜んでくれるので暇を見付けては撫でている気がします。モッフモッフ。
「……ふぅ……。とにかく、目的を果たすのが先決か」
「ゲホッゲホッ。う~、デンデンって本当に乱暴」
「誰の所為と……ちっ。これ以上関わると時間を浪費するだけだな。行くぞ」
銃を回転させて流れるような動作で革ケースへ叩き込んだギリードリフデン様は私達を先導する為に足早に進み出した。
……今のカッコいいです。クルクルクルー……シュパッ!って感じで。




