16.新しい朝が来た。……ついこれる奴だけついてこいッ!
うへへへ、良い体してんじゃねえかタマネギちゃんよ~
や、やめてくださいっ。農家の方を呼びますよっ
助けを呼んだって来ないぜ~。タマネギちゃんは今ここで私に剥かれる運命なんだよぉおおう!
あーれー!
よいではないか、よいではないか! ―――っ!? ぬわぁああああ!? 汁っ! 汁が目にーっ!?
かかったなアホが! ……フ……り……硫化アリル入りの汁はい……痛か……ろう……グハッ……
タマネギさん!? タマネギさーん!! さーんさーんさーん……エコー。
――――――
「―――オニオンッッスゥウウープッッ!!」
私起床! ベッドから跳ね起きる! おはよう朝日、相変わらず眩しいね。私の方が輝いてるけど! 太陽より輝く私最高!
……うーん、しかし、我ながら良い夢を見た気がするけど内容が思い出せぬ。
「……おはようございます」
わお。
「おはようメイちゃん! 良い朝だね!」
なんとメイちゃん、早起きさんだね。既にベッドから出ているとは……中々やりおる! 早起き免許皆伝を言い渡してしんぜよう!
うんうん。顔色も昨日より良くなってる。この調子なら1週間ぐらいで健康体になれるね。
……あれれ~? 何か良い匂いがする~?
「くんくん、くんかくんか、はすはすはす……これってなんの匂いかな?」
「……その……早く目が覚めたので、勝手で申し訳ありませんが……朝食を作りました」
なんと。朝食を作ってくれたとな。
「食べたい! 私の分もある!?」
「は、はい。きちんと2人分」
「ヤッター!!」
記念すべき2回目の手作りご飯だー! だー!だー! だーだーだーだー……セルフエコー
「じゃあお顔洗ってから行くから! 待っててね!」
「はい、待ってます」
「行ってきまーす!」
こうしちゃいられねぇ、ダッシュだ! 井戸へ向かって玄関にぃッッ……シューット!! チョウエキサイティン!
扉は死んだ。
「……いってらっしゃいませ」
――――――
「うみゃうみゃうみゃ」
「……どうでしょう?」
「おいしー!」
自分で作るのとは天地の差だよ。際立つ私の駄目さ☆ 私キラめいてる☆
メイちゃんは早速昨日買った食材を駆使しておいすぃ料理を作ってくれた。
この玉葱のスープ、パンと相性が良くって無限に食べれる。
「おかわり!」
「……ありがとうございます」
「むむ? 何でお礼?」
私食ってるだけよ?
「いえ、ただ……嬉しくて。……言いたくなったんです」
そっか……そっか! じゃあ良いや!
「メイちゃんが楽しいならオールオッケー☆ そんな感じで言いたいこともやりたいことも遠慮しなくていいからね!」
バリボリバリボリ。ゴックン。
「……ヘルベリス様」
「うぃ?」
「鳥肉の骨は残してもいいんですよ?」
「なんと」
普通は食わんのかね。骨。ガジガジガジ。
――――――
「片付けをしてもいいですか」
ご飯の後片付けが終わるとメイちゃんがそう切り出してきた。
「かたづけ?」
何処を?
「その……家の中を」
「成る程。……足の踏み場もろくに無いものね~」
誰がこんなに散らかしたっ! ―――はい私です! 重ね重ね私がやりましたー!
そんな惨状を見かねたメイちゃんは部屋の掃除がしたいと……ふむふむ。
「でもダメー!」
ン拒否するぅ。
「……はれ?」
不思議そうな顔をしておるなメイちゃん。なら教えてしんぜよう!
「お掃除はお料理以上にとっても体力を使うので今のメイちゃんにはさせられません! なのでダメです!」
忘れていないかね? 君は昨日まで衰弱していたことを。
「……ではもっと元気になれば?」
「それなら良いよー」
頭を撫で撫で。ほーれ、よしよしよしよし。
「メイちゃんの今の主な仕事はしっかり養生することです。ほら一緒にゴロゴロしよう~♡」
「……ヘルベリス様は」
ん?
「ヘルベリス様は掃除をなさらないんですか?」
「…………」
……はっはっはっは!
「私も養生中です! 昨日は久し振りに沢山働いたからお休みが必要なのです! そ・れ・に♡ 普段はもっと整理整頓が行き届いてるんだよ☆」
「でもこの散らかりよう……1日2日のものでは……」
「お菓子! 貰ったお菓子食べない!? それが良い! うんそれは良い提案! さっすがヘルちゃん!」
メイちゃんが気付いてはいけない世界の真実に辿り着かないように話しを逸らす。
よしっ! これで世界は救われた!
「フー! お茶煎れてくるねー!」
私は台所を目指してダッシュで部屋を飛び出―――
「ぬわぁああああ!?」
転んだー!?
「ヘルベリス様ー!?」
「足首をくじきましたーッッ!?」
誰だ!? こんな所に邪魔臭い金塊を転がしてた奴は!?
「っ! うごごごごごごご!?」
ウギャー!? ぶつかった棚から落下物が大量にー!?
クソが!? 誰だ整理整頓もせずに適当に物を詰め込んだ奴は!?
…………。
ゴミ山に埋もれた私。
そんな私を見下ろすメイちゃん。
「……ヘルベリス様」
「ナンデゴザイマショウ」
「私がもっと元気になったら……真っ先に掃除をしましょう」
「サーイエッサー」
ぐうの音も出ないね☆
――――――
「はーいお薬の時間でーす」
「お薬ですか?」
瓦礫の山からワッショイワッショイ。
「ジャーン! 『元気にナ~ル“竜殺しW・T・MⅡ・S”』でーす!」
「2推しが凄い」
瓶の形も数字の2にする私のこだわり!
「これはなんと! その名の通り服用すれば貧弱な坊やでも立ち所に竜殺しさえ可能な屈強な戦士に早変わりさせる薬……の! 2×2×2×2倍の効果が期待出来る優れ物! 2の4乗! つまり効果は当社比16倍! あと縁起とか御利益とか諸々含めて更に倍! 合わせて32倍だー!!」
※倍率は完全に適当♡
「さあさあグイッといっちゃおう!」
「…………」
おやー? メイちゃん、すっげー渋い顔してる。お薬は嫌いかい?
「これ……本当に飲んでも大丈夫なんですか?」
「平気平気! 飲めば超元気になれるよ!」
「…………」
メイちゃんは黙ってラベルにある一文を指差す。
ほむ? これは……魔法文字? 言語を介する知能を持つ生き物がこの文字を視界に収めれば、脳内に直接その文章の意味を理解させる効果を持った物だねコレ。
「えーっと、何々ー?」
―――本製品を服用する場合は1000倍以上に希釈して使用してください。出来れば使わないでください。良いですか? 私、もうあんな騒動が起きて仲裁に駆り出されるのは嫌ですよ?
byウィンドリッヒ・ベータ・スーパーノヴァ
P.S.アルダメルバちゃんが『お前ブッ殺』って言ってましたよ―――
「…………」
「…………」
「……はっ! 思い出した!」
このウィン姉が書き記したらしい一文を見て、私の記憶が甦る。
「―――昔々……多分200年ぐらい前のこと。エプシロンのアホが私の大事に取っておいたお菓子を盗み食いした頃……奴は人間さん達と敵対していました」
あー、今でも鮮明に思い出せる。
「両陣営が睨み合い、緊迫した時間が流れていた時―――私はおやつの恨みを晴らす為この薬を無差別に振り撒いたのでした」
人間さんの戦士達とエプシロンが召喚した悪魔に薬品が吸収され……そして……。
「戦場に立っていた全員が1人の例外もなく狂戦士化。道具も持てないほど理性が蒸発した彼らは敵味方無しの殴り合いによるバトルロイヤルに突入。……パンチが山を砕き、咆吼が地を割り、走れば空を駆ける。そんな激しい戦いが三日三晩続いた後……全員の体力が尽き果てて気絶……両陣営共倒れ。壮絶な相打ちとなった」
いやー、あの時の光景は凄かった。
「……それで一時的にエプシロンの眷属の悪魔が全員戦闘不能になったの。で、その後に元を正せば自分が悪いのに何故かブチ切れたエプシロンが私のところに襲撃を掛けてね。そこから100日ぐらい喧嘩が続いた時にウィン姉が仲裁してくれてようやく終わったの。……ていうか『ブッ殺』ってあいつまだ私のこと怒ってるの? 陰険! 悪魔ってやっぱり陰険だわ! 湿気た本に湧く虫みたいな存在よ! 向こうが謝るまで私も絶対に許しあげないんだから!」
食べ物の恨みは恐ろしいんだぞー!
「……で、メイちゃん。このお薬なんだけど」
「遠慮します」
「ですよね☆」
他のお薬を探そっか♪