13.帰っていい? 無理? ……辛い……
ふえぇ……帰りたいよぉ……。
私なんにも関係無いよね? 完全に巻き込まれただけだよね?
あぅぅ……お腹痛い。ガンマ様とメイちゃんが何か言ってたような気がしたけど緊張と腹痛で何も頭に入ってこなかった。……聞いてなかったってバレたら後で怒られたりしないよね? ……うっ……余計にお腹が……。
「大丈夫ですか? センテルス様」
「……何とか……ぎりぎり……」
あー、メイちゃんは本当に普通で癒やされる。もし彼との間に子供が出来たらこんな子が良い。魔女とか頭おかしいのが多すぎるのよ。普通。普通最高。
くそっ! こんな緊張を強いられる場所に居てられるか! 私はオリオール君が居る家に帰らせてもらう!
「―――師匠。……お使いした」
「ご苦労様、チェロ。……助かったっ。本当にっ」
「……なんでそんなに実感がこもってる?」
「あー☆ ロールちゃん久し振りー! 元気してたー?」
「……デルタ……貴方は相変わらず」
…………。
駄目みたいですね。……うっふっふっふっふ……また序列持ちの御方が増えたぁぁあばばばばばばば……
「……ヘルベリス様。この方は?」
「彼女はねー、チェインロール・イオタ・ニュークリアちゃんだよー☆ 『序列第十位』の魔女で、魔心は『熱核』……無限に近い魔力を生成する魔力お化けだよ☆」
「……どうも」
デルタ様に紹介されたイオタ様はメイちゃんに挨拶をする。淡い桃色をした髪が揺れ、縦割れの瞳孔がメイちゃんを映す。
……イオタ様って何時見ても表情に乏しい。あれでジッと見詰められると怖いのよね。
挨拶が済むやいなやイオタ様は髪と同色の鱗に覆われた蛇の下半身をのたくらせて椅子に器用に巻き付き着席する。
「……魔女様というのは姿も色々なんですね」
メイちゃんの言ってることは確かにそうだけど、魔女ってそもそも人間ですらないしね。純粋な生き物なのかどうかも怪しい。だって両親とかいないし。
「……私の外見種族は妖女蛇。……でも魔女の大多数はやっぱり人型が主流」
「そういえば大広間に居た魔女様達は皆人の姿だった気がします」
「……多分それは『人化』を使ってる子も居る。……こんな感じで」
イオタ様はそう言うと立ち上がり、蛇の下半身を人間の脚へと一瞬で変化させた。そうしてローブの裾をふわりと翻らせながらイオタ様は椅子へ腰掛ける。
「わっ、凄い。……でも、あれだけ長かった尻尾は何処にいったんでしょう? 今の脚の大きさと合いませんよね?」
うん。メイちゃんって変なところに目を付けるね。そういうのって魔法でどうとでも出来るんだよ?
「……散歩に出掛けた」
おっふ、この方はサラッと嘘を言う。そんな嘘信じるわけが―――
「頭が無いと大変そうですね。あ、もしかして散歩に行った尻尾から蛇の頭が生えてくるのでしょうか?」
「ぶふっ」
メイちゃんの天然気味な発言にイオタ様が真顔のまま吹き出した。
「あれ? え?」
「……ごめん嘘。魔法を使えばある程度の大きさや重さは変化させれる。……だから正真正銘この脚がさっきの尻尾」
靴を履いた形の良い足、その爪先が鱗に覆われた尻尾の先に姿を変える。
「わぁ。服も魔法で繕えるんですね」
「……一応は。でも魔力の無駄遣いになるから普通の魔女なら衣服を別途用意する。……私には関係の無い話し」
メイちゃんの素直な反応に気をよくしたのか普段以上に饒舌なイオタ様。
楽しそうな2人の姿にデルタ様はテーブルに上体を預けジト目になる。
「ぶーぶー」
「……ヘルベリス様? どうしました?」
「だってー、メイちゃんが私をほったらかして他の子と仲良くしてるもーん。ぶーぶー」
「ご、ごめんなさい?」
メイちゃん困惑。当たり前である。だって当の本人がメイちゃんをほったらかしにして好き勝手やってたし。……自由過ぎる。悪い意味で。
「だめー。メイちゃんが良い子良い子してくれないと機嫌直らなーい」
うわぁ……。デルタ様……それは無いです。だって確かデルタ様380歳ぐらいですよね?
いやぁ、キツいっす。
「こ、こうですか?」
それでもやってあげるメイちゃんは本当に良い子。
「―――私! 復☆活!!」
優しく撫でられるやいなやデルタ様はハイテンションで跳び上がり、椅子の上に立つ。さっきまで撫でていたメイちゃんは呆気に取られたように見上げている。
「は~い! じゃあ最高に可愛くて綺麗な私が復活したところで戦利品の確認をしましょう! ……ロールちゃんお願いします!」
「……ヘルベリスは久し振りに会っても相変わらず。……『ダー・オーフ』……はい、これ」
デルタ様に促されてイオタ様は空間に闇の穴を開き、そこから買ってきたであろう荷物を取り出す。……なんでたった2音の詠唱で異空間魔法を使えるんですか? 私が使おうとしたら半日は詠唱が必要なんですけど……しかも大した量は仕舞えないしっ! そんな何気なくされると魔女全体のハードルが上がるんですけどっ!?
……うえ……魔力酔いしそう……イオタ様これ魔力のゴリ押しでやってる。今の1回の魔法で私10人分以上の魔力を使ってる。……頭がクラクラする……うっぷ。
「うひゃー堪んねえ! 食料だー!」
「なんだその下っ端染みた言葉」
「このお礼は気持ちで十分よね! ありがとう!」
「いや言葉と気持ち以外でもしっかり返せよ」
「じゃあ体で! 体で返す!」
「………………誰が貰うかそんなもの。金か物々交換しか認めん。ほら、さっさと出す物を出せ」
「お金なんて無いわ! だって150年ずっと森で引き籠もってたから!」
「胸を張って言うことかそれはっ!? 森の中で採取した物や狩った物があるだろう! それを出せっ!」
「や、やめてー!? 服を引っ張るのはやめてー!? その中をまさぐるのはやめてー!? ―――……それは私のスライムさんだ。このスケベ♡ ……あ、嘘嘘、ちょっ、たんまたんま、冗談っす、冗談っすから……アーーーーッ!!?」
……何か酔ってる間に慌ただしくなった気がする。
ヤバい、また話の流れに置いて行かれてる。不敬で首を刎ねられたりしないよね?
ふえぇ……お家に帰りたいよぉ……。