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11.魔女様はとても凄い方のようです

「……見苦しい物を見せてしまったな。本当に済まない(モガモガモガ)」


 頭部を包帯でぐるぐる巻きにしたギリードリフデン様が私にそう謝罪する。


「……私よりもギリードリフデン様の方が大変そうですが」

「だーいじょうぶ、だーいじょうぶ☆ 魔女なんて丈夫なだけが取り柄なんだし平気へっちゃらよ☆(モガモガモガ)」


 同じく包帯巻きのヘルベリス様が朗らかに言い切る。2人は治療と合せて交換していた服も元に戻していた。


「……ほほう? まだ殴られ足りないか?(モガフガフガ)」

「いや~ん助けてメイちゃ~ん、デンデンが虐めてくるよ~(モーガン)」


 ヘルベリス様。私に縋られても肉壁にもならないと思うのですが……。きっとパンチ一発で私なんかミンチですよ。……魔女ってそんなんでしたっけ?


「……あ、あのー……ガンマ様」

「む。どうした『枯朽』の」


 ギリードリフデン様は顔を引き攣らせながら皆さんにお茶を注いで回るセンテルス様へ顔を向ける。その際に包帯を外して傷一つ無くなった顔を晒しました。……もう治ったんですか?


「一つ気になっていたのですが……どうして私はここに呼ばれたのでしょうか?」


 現在の状況は、ヘルベリス様、ギリードリフデン様、センテルス様、私という4人でテーブルを囲んでいる状況です。

 この『創造の館(ワークショップ)』と呼ばれる建物の中庭に位置する場所で私達は穏やかにお茶をしています。


「ふむ、たまたまお茶を煎れられる者が居たから呼んだ。理由としてはそれだけだ。……迷惑だったか?」

「め、滅相もありません!! 私程度如何様にも使ってください!」


 ……センテルス様、ガチガチです。私にはわかります。センテルス様は一刻も早くこの場から立ち去りたいと思っています。きっと背中は嫌な汗でじっとりと濡れていることでしょう。


 ―――この場を開くことになった切掛はギリードリフデン様の提案からでした。


『ヘルは本来ならこの場に来ることはまだ禁じられていた。……だが解禁されるのもそう遠くはなかったからその辺りの調整は私がしておこう。感謝しておけ。本当に感謝しろよ? これで尻拭いをするのは何回目だと思っている。……して、今日は何の用で来た? 何? この子の服や食料を求めて? ……お前が育てるのか? ……正気か? ……メイはそれで良いのか? こいつ、かなりアレだぞ? ……大丈夫? 本当に? ……まあ当人同士で納得しているのならこれ以上私からはとやかく言わん。―――あ、コラ待て! お前は勝手に出歩くな! 他の魔女が怯えるだろうが! 良いか? もう1歩も勝手に館内を歩くなよ? 絶対だぞ? ……ふりじゃねえよ殺すぞ。……いいか! 買い物があるならイオタを使いに出すからお前は私の目が届く所に居ろ! わかったな!?』


 ―――というギリードリフデン様の説得?があってヘルベリス様と私はこうして共に監視を主としたお茶会に招かれることになったのです。

 ちなみにセンテルス様も居る理由は先の通りお茶を煎れられるからだったようです。

 センテルス様は冷や汗を流しながら遠い目になってぼそぼそと呟く。


「どうしてこんなことに……胃……胃が痛い……」


 ……かなり追い詰められている様子。それほど彼女にとってヘルベリス様とギリードリフデン様は緊張を強いられる相手のようです。

 魔女の界隈に疎い私にはよくわかりません。 


「……うむ、美味しい。……そう言えばまともに自己紹介もしていなかったな」


 お茶を一口飲んで顔を綻ばせたギリードリフデン様は私の方を見てそう言った。そういえばそうでした。私は居住まいを正して向き直ると、ギリードリフデン様はそれを待っていたかのように口を開く。


「改めて。私の名はギリードリフデン・ガンマ・イモータルアーミー。核となっている『魔心(マギカ)』は『不滅の軍勢』。そしてこの『螺旋世界グランギニョル』に於いて『序列第三位』の魔女である」


 ……また知らない言葉が沢山出た。


「……じょれつ? 魔女様には階級のようなものがあるんですか?」


 第三位ということはギリードリフデン様は上から3番目? その質問にギリードリフデン様は胸を張り、凜々しい佇まいで肯定する。


「そうだ。故に私の名には3を意味する『ガンマ』が刻まれている。この世界に於いて序列を刻まれるのは名誉なことでありこの世界では十位、つまり10人しか存在しない。……ちなみにそこの阿呆は『序列四位』だったりする」

「え?」


 私はギリードリフデン様が指差した先、ヘルベリス様の方へ目を向ける。


「なーに? 私がどうかしたー?」

「ちょっ……あのっ……やめてくださいっ」


 ……ヘルベリス様は地べたへ仰向けに寝転がりセンテルス様のスカートの中を覗いていた。


「やめんか阿呆。下の者を虐めるな」

「ぷぎゅ」


 そんなヘルベリス様の顔をギリードリフデン様は躊躇無く踏み付ける。

 ジタバタと足の裏で藻掻くヘルベリス様を無視するようにギリードリフデン様は話しを続ける。……なんだか行動が手慣れているように見えます。


「こいつの名はヘルベリス・デルタ・フォトンフィスト。魔心(マギカ)は『光拳』。序列は4を意味するデルタが刻まれている。……そして、こと直接的な戦闘に関しては序列一位『ヴォルフゲーテ・アルファ・ヘクサメロン』と序列二位『ウィンドリッヒ・ベータ・スーパーノヴァ』と正面からやり合える変態だ。……ほらどうだ? そこから私の恥部は拝めるか? ん? どうした、笑えよヘルベリス」

「ちょ、ぎぶぎぶ……」


 ぐりぐりと顔を踏み躙りながらギリードリフデン様はヘルベリス様のことを教えてくれる。


「この変態ときたらやることなすこと滅茶苦茶。掛けた迷惑は数知れず。魔女の世界のみならず人間の社会にさえ多大な影響を刻み込んだ。それらが積もりに積もり、遂にはヴォルフゲーテから直々に魔獣が跋扈する『帰らずの森』での幽閉を言い渡されていたのだが……」

「はっ! 見えたっ! 猫ちゃん刺繍の白パン―――

「ズボン越しで何故見えたっ!?」

「ベフゥッ!?」


 ズドンッ! とヘルベリス様の頭がギリードリフデン様に踏み抜かれて地面に埋まった。


「っ!」


 ギリードリフデン様がセンテルス様と私の方をキッと睨み付けてくる。私達は咄嗟に目を逸らして何も見聞きしていない体を装う。……猫さんの下着……気になる。


「ま、まあいい。私が何を着ていようが些細な問題だ」


 軍帽の鐔を引き下げ赤くなった顔を隠したギリードリフデン様はテーブルに着く。ヘルベリス様は頭を地面に埋めたまま何故か親指をグッと立ててる。……良かった元気そうです。


「……話が逸れたな。他に何を教えようか……メイよ。何か他に聞きたいことはあるか?」

「聞きたいこと……」


 ギリードリフデン様は微笑みながら私にそう言ってくれる。

 ……この方もきっと優しい人なんでしょう。私のようなみすぼらしい子供にこうも気を使ってくださっている。そんな方に礼儀も何も知らない私が出来るのは正直であることだけでしょう。


「……ありがとうございますギリードリフデン様。……ですが大丈夫です」

「ふむ、良いのか?」

「はい」


 私はぎこちなく慣れない笑みを浮かべると自分の気持ちを口にする。


「沢山有る知らないこと、……私はそれをヘルベリス様に教えてもらいたいです」


 そのための時間はこれから先、たくさんたくさんある。

 あの森の中にある家で。


「……そうか。ヘルは愛されているようだな」


 申し出を断られたというのにギリードリフデン様は何処か満足そうな様子でそう言った。


「なら後はヘルに任せるとしようか。なあヘル―――……あ?」


 ギリードリフデン様はヘルベリス様が埋まっている場所へ目を向ける。……あれ?


「……ヘルは、何処に、行った?」


 ―――そこに居るべき人が居なかった。ただ地面に頭が埋まっていた穴が開いているだけ。どうやらヘルベリス様は何処かへ出掛けられたようです。


「あっ……ぁああんの阿呆ぉおおおおう!!? 勝手に出歩くなと言っただろうがぁああああああっ!!?」


 ギリードリフデン様は叫びながら席から立つと目にも留まらぬ速さで何処かへと消えていった。


「…………」


 ……残されたセンテルス様と私はどうすればいいのでしょう。

 吹き抜けた風が煎れてくれた茶の香りを空へと運んでいった。

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