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聖夜の贈り物

作者: 汐路 凛

童話は初の試みなので、手探り状態で書き上げました。子供の視点になっているので当初すべて平仮名で書いたのですが、他サイトで読みにくいというご意見も頂いたので、改訂しました。

 サンタクロースはクリスマス・イヴの夜にやってくる。毎年クリスマスの朝には、枕のそばにプレゼントがおいてあるんだ。 

 今日はクリスマス・イヴ。

 ぼくは朝からサンタさんが来るのが待ち遠しくて、たっくんが遊びに来たときも、サンタさんにお手紙を書いていたんだ。


「れんくん、なにしてるの?」


 テレビにあきたたっくんが、ぼくのお手紙をのぞきこんで言った。


「サンタさんにおてがみかいてるの。きょうはクリスマス・イヴだから」


「サンタさんはパパなんだよ」


 ぼくがサンタさんのお話をすると、たっくんはいつもそう言う。

 でもね、ほんとうはたっくんも、サンタさんを信じたいんじゃないかって思うんだ。

 だってぼく、ようちえんでたっくんがサンタさんにお手紙を書いているのを見たことがあるもん。たっくんははずかしがりやさんだから、ぼくは見ていないふりをしたんだけど。


      †


 夜になって、おじいちゃんとおばあちゃんがたくさんプレゼントをもってやってきた。

 ママの作ったごちそうを食べて、大人はお酒を飲んで、みんなでクリスマス・パーティー。

 みんなが幸せそうな顔をしている。だからぼく、クリスマスって大好きなんだ。


「早く寝ないと、サンタさんが来てくれないわよ」


 ぼくに絵本を読んでくれながらママがいった。


 でもぼくは今年こそ、サンタさんが来るまでぜったいに起きてるんだ。

 だって聞きたいことがいっぱいあるんだもん。

 たとえば、

『うちにはえんとつがないのに、いつもどこからはいってくるの?』

 とか、

『トナカイはどうやってそらをとぶの?』

 とか、ほかにもたくさんあるんだけど、まだ一度もサンタさんに会えたことがないんだ。サンタさんが来るまで起きておこうって思うのに、いつも眠ってしまう。

 でも今日はがんばって起きてるぞ。



 ――シャン シャンシャン……。


 ほら、鈴の音が聴こえてきた。

 きっともう、すぐそこまで来てるんだ。


 どうしよう。

 なんだか急にドキドキしてきた。最初に会ったときはなんて言おう?

 まずは、やっぱり

『メリー・クリスマス』

 ってあいさつして、それから

「じこしょうかい」もしなきゃ。いつもプレゼントありがとうってお礼をして、それからいっしょにいろんなお話をするんだ。


 ――げんかんのほうで音がする。

 きっとサンタさんだ!

 ぼくはいそいでベッドからはねおきて、ドアのほうへはしった。


 ドスン。

 いったぁ〜い。いきおいあまってドアにぶつかった……と、思ったらだれかが立っている。


「なんだ、まだ起きてたのか?」


 なぁ〜んだ、パパか。サンタさんかと思ったのに……ちょっとガッカリ。


「早く寝なさい」


「はぁ〜い」


 あれ? パパがうしろにまわした手に、なにかもっている。


「パパ、それなに?」


「え? え〜と……あぁ、これは今日パパが会社の人にもらったんだよ」


 パパはなんだかママにしかられたときの

「いいわけ」みたいに、ぼそぼそと言った。


「ふぅ〜ん。ぼくにプレゼントかとおもった」


 たっくんが、

『サンタクロースはパパなんだよ』

 って言っていたのを思いだした。

  

「プレゼントはサンタさんが持って来るんだろ? ほら、早く寝ないとサンタさん来てくれないぞ」


 パパってば、ママとおなじこと言ってる。 


「はぁい。でもぼく、きょうはサンタさんがくるまで、ぜったいおきてるよ。もしサンタさんがきたとき、ぼくがねてたらパパおこしてね」


「わかったよ。寒いから早くベッドに入りなさい」


「はぁ〜い。おやすみなさい」


「おやすみ」


 ぼくがベッドに入ったのをたしかめると、パパは電気をけしてお部屋を出ていった。 



     †

 カーテンのすきまからお月さまが見える。

 よかった。少しでも明るいほうが、サンタさんのトナカイも走りやすいよね、きっと。


 いま何時だろう。

 時計の読み方はパパに教えてもらったんだけど……え〜と、短い針が 「9」よりちょっと上にきてて、長い針が

「5」のところにきてるから……9じ25ふん!

 いつもならもう眠ってる時間だ。サンタさんて、何時に来るんだろう。

 ちょっと眠くなってきちゃった。


 ――カチ カチ カチ……。


 時計の音を聞いてるとよけい眠くなるなぁ。でもがんばっておきてなきゃ……。



 ――カチ カチ カチ……。


 ……。



「もう寝たかな?」


「いくらなんでも寝てるわよ、もう12時だもの」


 パパとママの声が聞こえる。やっぱりサンタさんはパパなのかな?

 ううん、ちがう、きっとふたりともぼくの

「ようす」を見に来ただけだ。


 キィーッ。

 ドアが開いた。

 起きてるってばれたら、怒られちゃうかな?



「メリークリスマス。蓮くん」


 あれ? パパの声じゃない。てゆうことは――。



 バサッ。お布団をはねのけて振り向くと、真っ赤なお洋服を着たおじいさんが立っていた。


「サンタさん!? ほんとにほんとにサンタさんなの!?」


 ぼくはベッドからジャンプしてサンタさんに抱きついた。


「ホーホーホー! 今年もいい子だった蓮くんにプレゼントを持ってきたんじゃよ」


 ぼくは最高にうれしかった。だって、やっとサンタさんに会えたんだもん!明日、ぜったいたっくんに言わなきゃ。

 そういえば、サンタさんはたっくんのおうちに行ったのかな。 


「はい、これが今年のプレゼントじゃ」


 サンタさんはぼくをベッドに座らせると、プレゼントをくれた。


「ありがとう!」


「ねぇ、サンタさん、たっくんのおうちにはもういったの?」


 ぼくはさっきから気なっていたことを聞いてみた。


『サンタさんは信じてる子のところに来るのよ』


 いつかママがそう言っていたのを思い出したからだ。


「たっくん? あぁ、拓人(たくと)くんのことかね?」


「うん。たっくんはいつも、サンタさんなんていないっていうんだけど、ほんとはたっくんも、サンタさんをしんじたいんだとおもうんだ。もしあしたのあさ、めがさめてサンタさんからのプレゼントがなかったら、ガッカリするとおもって……」


 サンタさんはぼくにウインクしてこう言った。


「それなら一緒に拓人くんの家にプレゼントを届けに行こう」


「いっしょに?」


「そうじゃよ。おっと、いかん。外は寒いからな」


 そう言ってサンタさんがまたウインクすると、ぼくのパジャマは、ふわふわの白いボタンがついた赤いお洋服に変わっていた。


「うわぁ! まほうもつかえるの?」


「ま、少しの間だけ、わしの助手というところじゃな」


 サンタさんはそう言うと窓の方へ指を向けて、パチン、と鳴らした。窓の向こうには、トナカイの引くそりが待っている。


「さて、行こうか」


「うん!」


 ぼくがサンタさんの

「じょしゅ」だって。今日は最高のクリスマスだ!


 ――シャン シャンシャン……。


 冬の空に鈴の音を響かせて、そりが走りだした。


「うわぁ〜。ほんとにとんでるよ!!」 


 トナカイの引くそりはぐんぐん高くのぼって、ぼくのおうちも、おとなりのれなちゃんのおうちも、いつも遊んでる公園も、み〜んなどんどんちっちゃくなっていった。

 さっきまでベッドで見ていたお月さまも、もうちょっとでさわれそうなくらい近くに見える。


「寒くないかね?」


「うん。だいじょうぶ!」


 冬のつめたい空気がほっぺたを刺していたけど、寒くはなかった。それよりぼくはわくわくしてたんだ。


「ねぇ、サンタさん、ぼくのおてがみよんでくれた?」


「おぉ。ほれ、ここに。ココアもおいしかったのぅ」


 ぼくがサンタさんに書いたお手紙を、ママはポットに入れたあったかいココアといっしょに、テーブルの上に置いてくれてた。


『だってお客様だものね』


 そう言っていたずらっこみたいに笑ってたぼくのママって、最高だと思う。


「ほれ、拓人くんの家が見えて来たぞ」


 サンタさんが指さした先に、たっくんのおうちが見えた。 


「ほんとだ! でもどこからはいるの? たっくんのおうちはマンションだから、えんとつもないよ」


「どこからでも入れるさ。わしを待ってる子がいる家ならな」


 そう言ってサンタさんがまたウィンクする。体がふわっと浮いたと思ったら、ぼくらもうはたっくんのお部屋の中にいた。

 たっくんはベッドの中ですやすやと寝息をたてている。起こしてあげようかな。きっとサンタさんを見たら喜ぶと思うんだけど。


「メリー・クリスマス拓人くん」


「メリー・クリスマスたっくん」


 ぼくはサンタさんのまねをして言った。

 まくらのそばには、たっくんがようちえんで書いていたサンタさんへのお手紙が置いてあった。サンタさんはプレゼントを置くと、お手紙をそっとじぶんのポケットに入れた。


「よまないの?」


「だいたいの内容はわかっておるからな。後でまたゆっくり読むよ」


「サンタさんて、あいてのかんがえてることも、わかるの?」


「誰かに何かを伝えたい時、それが真摯な想いであれば、ちゃんと伝わるんじゃ」


「しんしって?」


「真剣に……そうじゃな、純粋に心から想うことじゃな」


「じゃあ、たっくんはなにをおねがいしたの?」


「そうじゃな……これを見てごらん」


 サンタさんはそう言うと、ベッドの反対側の壁を指さした。


 壁にはジョンが映っていた。まるで映画を見ているみたいだ。

 ジョンて言うのは、たっくんのおうちで飼っている犬なんだけど、いまは動物病院に

「にゅういん」している。

 郵便屋さんが来たときに、たっくんのママがドアを開けた瞬間、お外に飛び出して行ったんだって。

 そのあとみんなで探したんだけど、たっくんのパパが見つけたときには、ジョンは自分りもずっと大きな野良犬に、噛まれてしまっていた。

 ぼくはパパたちが、首を噛まれているから、もう助からないだろうって言っていたのを聞いてしまったんだ。

 たっくんには言えなかった。

 だってたっくんは、ジョンが帰って来るって信じているから。

 でもジョンはがんばっている。ほんとうなら助からないって言われていたのに、すこしずつ元気になってきてる。お医者さんもびっくりしていたってたっくんのママが言ってた。


 きっとたっくんの

「おいのり」が通じたんだ。


「そうじゃよ」


 ぼくが考えていると、サンタさんが言った。


「お祈りというのは、ただお願いするだけじゃない。心から信じることじゃ」


「しんじる?」


「そうじゃ。拓人くんはジョンが元気になって帰ってくると信じておる。ただジョンを助けて下さいとお願いしてるだけじゃない。たとえサンタクロースは信じていなくてもな」


 サンタさんはそう言って、にっこり笑った。


「れんくん?」


 たっくんが目を覚ました。サンタさんの姿を見ると、口を開けてびっくりしている。


「おぉ、こりゃいかん。起こしてしまったようじゃな。少し喋り過ぎたかの」


「たっくん、ジョンはきっともうすぐかえってくるよ」


 ぼくはサンタさんのまねをして、たっくんにウィンクした。


「さて、そろそろ次の家に行かなければ。夜はあっというまに明けてしまうからのぅ」


「おやすみ、たっくん。またあしたあそぼうね」


「ホーホーホー! メリー・クリスマス!」


 口を開けたままのたっくんにそう言って、ぼくらはたっくんのおうちをあとにした。



     †


「……れん、蓮くん」


 ママの声で目が覚めた。


「起きて、ごはん食べなさい。もう10時よ」


 もう朝なんだ。

 せっかくサンタさんにあえたのに……え? 朝!?


「サンタさんは!? ママ、サンタさんみた!?」


「今年もプレゼント、もらえてよかったわね。蓮、いい子だったもんね」


 ママはそう言って、ぼくのおでこにキスをした。

 枕のそばには、プレゼントが置いてある。

 昨日の夜のサンタさんは、ぼくの夢だったのかな。でもサンタさんにもらったプレゼントは確かにあるし……やっぱりサンタさんは来てくれたんだ。

 きっとそうだ。

 ううん、ぜったいにそうだ。


『サンタさんは信じてる子のところに来るのよ』


 ママもパパも、ようちえんの先生だって言ってたし。

 ぼくは信じてる。

 だからきっと、サンタさんは来てくれたんだ。

 あれ? プレゼントの下に、なにかはさまってる。なんだろう? ……お手紙だ。


「ねぇママ、これなんてかいてあるの?」


「え?」


 ママはふしぎそうな顔をして、そのお手紙を読んでくれた。


『蓮くんへ。

わしが信じる子のところへ行くというのはほんとうじゃよ。

信じる気持ちがあれば、なんでもできるからじゃ。

自分を信じること、大切な誰かを信じること、そして、見えない何かを信じること。

来年も、その気持ちをわすれずに、いい子で――メリー・クリスマス。

  サンタクロース』



「ぼく、昨日の夜サンタさんに会ったんだよ! やっぱり、夢じゃなかったんだね!!」


 ぼくはうれしくてママに抱きついた。


「そうね。蓮が信じていたからサンタさんは来てくれたのね」


 ママはにっこりわらうと、ぼくをぎゅう、ってしてくれた。

 やっぱりぼくのママは最高だ。


「れんくーん! あそぼー!」


「あ! たっくんだ!」


 ぼくが急いで走っていくと、たっくんはジョンをだっこしてげんかんに立っていた。


「ジョン、げんきになったんだね!」


 ぼくが言うと、たっくんはうれしそうに笑った。


「あのねれんくん、ぼく、きのうのよるのこと、おぼえてるよ。サンタさんて、やっぱりほんとにいたんだね」


 たっくんが、ぼくのお耳にお口を寄せて言った。


「うん! でもきのうのよるのことは、おとなにはないしょだよ」


 ぼくはたっくんにウィンクした。


 サンタさん、今年もプレゼントありがとう。

 ぼくはずっと信じてるから、来年もまた来てね。


 メリー・クリスマス。



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― 新着の感想 ―
[一言] こんばんは。評価依頼で参りました、ひとり雨です。 「聖夜の贈り物」、読ませていただきました。 クリスマスを題材とした短編ということで、サンタクロースを信じているレンくんがとても純粋に描かれて…
2008/12/17 19:42 退会済み
管理
[一言] 温かく微笑ましいストーリーでした。 こういう素直でホッと安心出来る物語は良いですね。内容的には、クリスマスの王道をいく作品で、捻りはなかったと思いますが、私はこういう心が安らぐ作品は好きです…
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