#九 御伽創死(一)
幼粘鬼へ向けて短銃(※十)を構える小波。
だが間断なく放たれる泡のせいで狙いが定まらない。
「くそっ、面倒くせえ」
右へ左へ跳躍して泡を回避しながら、隙を窺う。
周囲に落ちた泡は、ぐずぐずと腐臭を放ちながら地面を泥濘へと変える。
「アニキ、何とかならねえのかよ」
後ろからコガネが尋ねてくるが、そう簡単に何とかできるのなら小波も苦労はしない。
「危ねえから離れてろ。アイツはあの泡で人間を動けなくして、怯えた顔を見ながら血を吸って殺すんだ」
「だからって、アニキを放っておけるはずが――、わわっ!」
泥に足を取られたコガネがその場に尻もちを突く。すかさず幼粘鬼がそちらへ顔を向けた。
ごぼごぼぼごぼぉ!
それまでを上回る大量の泡が、吐き出される。小波はすかさずコガネの腕を取って強引に立たせると、半ば放り投げるように後ろへと振り飛ばした。
「がはあっ!」
コガネを救った小波だが、自分が逃げるまでは間に合わない。とっさに銃を構えたものの、発射には至らずそのままの姿勢で泡に包まれた。
「アニキィィィィ!!」
絶叫するコガネ。
小波の全身を包んだ泡は外気に冷やされて固まり、人型のオブジェと化す。
一方で助けられたコガネは、まだ自力で逃げられる状態ではなく、腰の抜けたままで小波を見やる。
「しゃぁーっらぷでいす。こーいつのぶらぁどをいっただぁいたら、つぎはゆーぅのばぁんでいす」
幼粘鬼が上から告げる。小波は固まったまま動かない。
一度姿を見せた月は雲に隠れ、辺りは再び闇に呑まれ行く。
※十 短銃…当時の郵便配達員は、郵便物を盗難から守るために銃を携行した。




