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#七十四 帝国憲法(一)

 憲法発布の式典は滞りなく行われ、東京はどこもかしこもお祭り騒ぎ。


 小波は新聞縦覧所(※四十九)で、号外を広げる。同じものが道で配られてるのだからわざわざここに来る必要はないのだが、外が騒々しいのでゆっくり座って読めるのはありがたい。


「なあ、アニキ」


 小波の横で、コガネがアイスクリーム(※五十)を食べながら尋ねる。


「式典に伊藤博文が出てたってウワサを聞いたんだけど」


「そうらしいな。新聞にも書いてある」


「でも、あの人死んだよな?」


 吉田松陰によって頭を吹っ飛ばされた瞬間を、コガネは今も鮮明に覚えてる。


「いくつか考えられるが……、式典に出た博文は偽者だったか、あるいは鹿鳴館で死んだ博文が偽者だったか。それとも最初から、本物の博文なんていなかったのかもな」


「そんなあ」


 それでは何を信じたらいいのかわからない。


「ま、それを言ったら、憲法自体が偽物みたいなもんだからなあ」


「そうなのか? オイラはそういうのよくわかんないけど」


「前から憲法を制定しろって意見はあったし、民党(※五十一)が独自の草案を出したりしてたんだけど、そういう草案が国民に知られる前に政府が作った、国民の権利を制限したやつが今の憲法だ」


「ダメじゃん!」


 もっといい憲法ができる前に邪魔をされたんだから、喜んでる場合じゃない。


※四十九 新聞縦覧所…明磁期に各地で作られた、新聞を読ませる施設。飲食物を提供するところもあった。

※五十 アイスクリーム…国内での製造発売は、明磁二年に横浜で売られた「あいすくりん」が始まり。東京では明磁八年に麹町の村上開新堂が売り出し、他店にも普及した。

※五十一 民党…立憲改進党、立憲自由党など、明磁政府に批判的な政党の総称。

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