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#七十三 巌谷小波(二)

 小波が消印を押す間に、コガネは人の姿に戻って着替え直す。


「大丈夫か? 本当にケガとかしてないか?」


「だから平気だって。どれだけ心配症なんだよ」


 小波の外套を羽織ったコガネに、小波がしつこく尋ねる。聞かれるコガネはかなりウンザリした様子。


「だっておまえ、最初の作戦の時は大泣きしてたから」


「アレは作戦なんかじゃねえだろ! ただオイラをダマしただけじゃねえか!」


 幼粘鬼と戦った際、演技だったとはいえ殺されそうになったことを、コガネはずっと根に持ってる。


「いや、アレは幼粘鬼を油断させるために必要だったから」


「今回もそうだったんだろ?」


「……ああ。松陰が博文を乗っ取って復活するところまでは予想がついてた。アイツは完全に勝ったって確信しない限り、隙なんか見せねえだろうからな」


 コガネが小波に化けて、松陰を復活させる。その間に本物の小波は二階に上がって、床を突き破って上から攻撃するというのが今回の作戦。


「ただ、煉瓦を壊すのが思ったより大変だった」


「そこはちゃんと考えといてくれよ」


「……怖くなかったか?」


 まだ不安そうな小波に、コガネはうなずく。


「うん。幼粘鬼の時は会ったばっかりだったけど、今は違うから」


「そうだな、おまえともけっこう組んでるからな。さすがに慣れるか」


「慣れとかじゃなくて!」


 自分で思ったより大きい声が出たのか、言ったコガネが小波以上に驚いてる。


「……その、今はアニキのこと信用っつーか、信頼っつーか」


「ほぼ同じ意味だな」


 茶化してもキレるどころか、どんどん顔が赤くなるコガネ。


「とにかく、アニキのことは大切な人っつーか」


「コガネ……」


 さすがに何かを察した小波、急に真顔になって、コガネに顔を近づける。そして――


「――くっせえ!」


 急速に離れた。


 馬糞で作った偽の御伽創死をずっと持ってたんだから、そりゃ臭いに決まってる。


 けど、小波の態度にはさすがにコガネもキレた。


「ふっざけんな、アニキがやれっつったんだろうが!」


 そして庭園の有象無象を片付けた紅葉が部屋へ駆けつけると、逃げる小波を馬糞を持ったコガネが追い回すという謎な事態の真っ最中だった。

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