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#七 不忍池(三)

 コガネのツッコミを受けた小波は、気を取り直して幼粘鬼に告げる。


「俺は逓信省ていしんしょう(※九)特命郵便配達員、巌谷いわや小波! 明磁政府の命により、おまえを討伐する!」


 同時に封書を開けて、中から取り出した便箋を突きつける。背後のコガネからは見えないが、政府の命とやらが書かれたものらしい。


「ごちゃっごちゃ、うっるさぁーいのでいす」


 幼粘鬼は吐き捨てて、そのまま池の上へプカリと浮かび上がる。爪先からは池の水とも体液ともつかない粘液が、水面の枯れ茎へと垂れ落ちる。


「な、何なんだいアイツは」


 コガネが問う。


「おまえもこの辺に住んでるなら、噂くらいは聞いたことあるだろ。通行人が全身の血を抜かれて死ぬ事件が、最近立て続けに起きてる」


「その噂は知ってるけど、まさか本当だったなんて。しかもあんなちっちゃい子が」


 自身も怪のコガネでさえ信じないくらい、そんな事件は世間一般の常識からは大きく外れる。


「小さいのは見た目だけだ。騙されると痛い目に遭うぞ」


 直前までガン見してた男の台詞とは思えない。


「で、でも何人も死んでるんなら、もっと大きい騒ぎになってるんじゃねえのか?」


「上の方で箝口令が敷かれてる。噂じゃ血抜きされた死体は内密に処理して、肉は牛鍋屋に卸してるなんて話も――」


「うげえええっ!!」


 小波の話を聞いた途端、コガネはその場に突っ伏して激しくえずく。


「吐くなよ、せっかく食ったのに勿体ない」


「アニキが変なこと言うからだろうが!」


 振り返る小波に向かって、涙目で叫ぶコガネ。


「安心しろ、冗談だ」


「冗談になってねえよ!」


 真顔で言うから、本気だかふざけてるんだかわからない。

※九 逓信省…明磁十八年に創設された、郵便や電信、電話など通信全般を管轄する省庁。郵便記号として知られる「〒」は、逓信の「テ」を図案化したもの。

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