#六十八 枢密院(三)
「幕府による支配は限界に達していた。このままでは清国(※四十六)と同じように、この国は列強に支配されることになる。国を守るためには、仏教とも神道とも違う新たな神によって支配してもらうよりないのだ」
伊藤博文は御伽創死を向けられても臆することなく、堂々と主張する。その目は血走って、どこか狂信者を思わせる。
「けど、国を守るために国民が犠牲になったら意味ないんじゃねえのか?」
「馬鹿か貴様は! 私は国の話をしているのだ、民など知るか!」
激昂のあまり、机から身を乗り出して叫ぶ伊藤。
「憲法発布の式典で、政府内にいる反対勢力は殺す。利用価値のなくなった黒田も殺す。無数の屍を贄にして降臨させた新たな神の力で我々は、北はカムチャッカや満洲、南は琉球、台湾まで支配を広げ、列強と並び立つ強大な国家としてアジアに君臨するのだ!」
「こいつイカレてやがる……」
思わずうめく小波。伊藤ら長州勢の目的は事前に前島から聞いたが、当事者の口から直接聞かされるとその異常性がより鮮明になる。
「ひとつ聞いてもいいか」
「何だ」
「アンタがさっきから言ってる、新たな神ってどんなヤツなんだよ」
仏教とも神道とも違う、かといってキリスト教ということでもないだろう。反対者や国民まで犠牲にして支配する神とはどんな存在なのか。
「ならば特別に教えてやろう。この国と世界を支配する新たな異神、それは吉田松陰先生に他ならない!」
「よしだ、しょういんだって……?」
※四十六 清国…強国であった清国はアヘン戦争に敗れ、欧米列強と相次いで不平等条約を結ぶことになり勢力の衰退につながった。




