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#六十七 枢密院(二)
銃声と共に扉の鍵が吹っ飛んで、蹴り開けながら小波が部屋へ入ってくる。
「御伽創死――万能開錠だ」
突然の侵入者に、部屋の主――伊藤博文は机から顔を上げる。
「おまえが巌谷小波か」
「……そうだ」
部屋の中はランプがひとつあるだけで薄暗い。鹿鳴館そのものが落ちぶれた今、その暗さは欧化政策の失敗を象徴するようにも見える。
「山田はおまえがケガをしていると言っていたが」
伊藤が見据える小波の右手に包帯はない。
「非常時に痛いとか言ってる場合じゃねえだろ」
そう言って御伽創死を構えるが、手つきがやや危なっかしい。伊藤は動じた様子もなく尋ねた。
「それで、何の用があって来た。理由もなく政府の建物に侵入した訳ではないだろう」
「アンタがやろうとしてることを止めに来た」
「ほう」
面白いことでも聞いたように、伊藤の声が弾む。
「私がどんな思いで明治異神を起こそうとしているか、おまえは知らないだろう」
「知るもんかそんなの」
小波の答えに、苦笑する伊藤。
「ならば教えてやろう。明治異神がなぜ必要なのかを」
御伽創死の銃口を向けられても、伊藤はまるで動揺を見せない。よほど鈍感なのか、それとも勝算があるのか。
「……」
小波は銃口を伊藤に向けたまま、言葉の続きを待った。




