#六十六 枢密院(一)
美妙が立ち去ってからしばらくの沈黙。やがてコガネが口を開く。
「ところでアニキ、さっき美妙さんが言ってた枢密院って何だ?」
「まあ簡単に言うと、帝国憲法を作るために作った、議会から独立した組織のことだな」
「ちっとも簡単じゃねえよ」
コガネが文句を言うから、もうちょっと詳しく説明する。
「伊藤博文(※四十五)って人が憲法を作ろうとしたんだけど、総理大臣とかけ持ちだと集中できないから、総理を辞めてそれだけやる仕事を新しく作ったんだよ」
「うーん、わかったようなわかんないような」
まだコガネは納得してないが、重要なのはそこじゃない。
「その枢密院がこの先にあるってことは、そこには……」
「伊藤博文がいるってことだよな」
うなずく小波に、突然オロオロとあわてだすコガネ。
「ど、どうするんだよアニキ!? 総理大臣ってエラいんだろ? そんなヤツとどうやって戦うんだよ?」
「落ち着けよ。総理だろうが僧侶だろうが相手は人間だ。紅葉さんが相手してる異形のほうがよっぽどおっかねえよ」
「そ、そうなのか?」
外からは魂色夜射の銃声が聞こえてくる。合流にはまだ時間がかかりそうだ。
「じゃあ乗りこもうぜ。早く解決しちまおう」
「まあ待て。向こうだって何の備えもしないで待ってるはずがねえ。こっちも準備が必要だ」
「何か作戦でもあるのか?」
「ある。だが今回ばかりは、不本意だがおまえも危険にさらすことになる。覚悟はいいな?」
「……ああ」
うなずくコガネ。そして小波が告げた作戦は――
※四十五 伊藤博文…長州藩出身の政治家。尊王攘夷運動に参加し、イギリス公使館の焼き討ちなどを行うが、そのイギリスに留学するとあっさり開国に路線変更。この時期すでに幕府は来航した外国の船に薪と水を与えて帰す薪水給与令を発し、鎖国政策を事実上撤廃していたが、伊藤はなぜか討幕に加わる。薩長政府では官僚として頭角を現し、大久保利通が暗殺されるなど幸運も重なって初代内閣総理大臣に任命された。




