#六十五 山田美妙再び(三)
「……」
コガネに直球で問われて、動揺する美妙。
しばらく間があって、ようやく口を開いた。
「……尾崎です」
「紅葉さん?」
うなずく美妙。
「彼は天才です。私も尾崎のようになりたかったが、追いつけなかった。だから、同じ側ではなく対立する側を選んだのです」
「それは、文学的なことで?」
「それもあります。だが、尾崎には生まれ持った才能がある。彼の下には彼を慕う人たちが自然に集まるのです」
「まあ、それはわかるけど」
小波は自分が紅葉に誘われて配達員になったので、その心境も理解できる。
「……」
その一方で、コガネは何かを考えこむ様子。
しばらく考えてから、おもむろに口を開いた。
「あの、オイラは文学とかそういうの全然わかんないんだけど」
そう前置きしてから続ける。
「オイラは大事な人が死んだらイヤだし、大事じゃない人もなるべく死んでほしくない。だから、誰かがたくさんの人を殺そうとしてるなら、止めなきゃいけないって思う」
「……」
今度は美妙が考えこむ番だ。
そしてコガネより長い沈黙の後、美妙はおもむろに手に持ったサーベルを鞘へ戻した。
「どうやら、立ち去るべきは私だったようです」
「……」
「尾崎と並び立つためには、こんなところにいるよりも先にするべきことがありました。まだまだ修行が足りないようです」
「美妙さん!」
背を向けて去ろうとする美妙に、コガネが叫ぶ。
「美妙さんならきっと紅葉さんみたいに、ううん、もっとスゴい人になれるから! だから絶対あきらめないで」
「……」
それを聞いて、美妙の顔にはっきりと笑みが浮かんだ。
「やはり巌谷は、相棒に恵まれたようです。どうですコガネさん、巌谷なんかよりも私と組んでみませんか?」
「ダメ!」
コガネが反応するより早く、小波が即答する。
「こいつは俺の、その……、相棒だから!」
「アニキ……」
こっ恥ずかしいやり取りを目の当たりにして、美妙は再び背を向ける。
「君たちの捜している親玉は、この廊下を進んだ突き当たりの部屋にいます。君たちなら、東京を救えるかもしれない」
去り際に、もう一言付け加える。
「だが気をつけなさい。その先は本当の地獄、枢密院です」




