#六十四 山田美妙再び(二)
「……」
美妙にサーベルを向けられて、小波は動けない。
その美妙から借りた小波のサーベルは、先程の攻撃で小波の手から離れて床の上にある。
「あきらめなさい、君に勝てる要素はないのです」
「……」
微妙に言われても、小波の目は死んでない。その心を折るように、美妙は続ける。
「尾崎の援護を待っているのなら無駄ですよ。主力の異形は残らず彼に向かわせました。いくら彼でもそうすぐには来られません」
彼の言葉を裏づけるように、庭園から聞こえる魂色夜射の音は遠い。図星だったらしく、「ちっ」と舌打ちする小波。その傍らで、コガネは釈然としない様子。
「……美妙さん、どうしてそんなに無理してるんだ?」
「無理?」
当の美妙だけでなく、小波もピンときてない。
「だって、捌胃婆からオイラたちのこと助けてくれたし、ホントは優しい人なのに」
「それは、配達員だと偽るために……」
「だとしても、助けられなかったフリをしてオイラたちを始末できたはずだ」
「……」
コガネの言葉に困惑する美妙。その様子を見て、小波は何か察した模様。
「ははーん。さては美妙さん、本心から薩長政府のやり方に賛同してるワケじゃねえな?」
「アニキは黙ってて、話がややこしくなるから!」
「……ごめんなさい」
コガネに一喝されて、黙りこむ小波。沈黙の中で、美妙が口を開いた。
「巌谷の言う通りです。私も新政府のやり方に賛同したワケではない」
「だったらどうして……」
理解できない、とでも言うようにかぶりを振るコガネ。実際、美妙の内心は彼女にとって理解不能なのだろう。
だから、コガネは尋ねる。ただ一心に。




