#六 不忍池(二)
「ど、どうしたんだいアニキ? そんな怖い顔で池なんか睨んで」
「……」
コガネの問いには答えず、小波は無言で池を見つめる。
と、その手が肩から下がったカバンの中へ伸びた。
白の塗料で「郵便」と書かれたカバンから取り出したのは、一通の封書。
「不忍池在住の幼粘鬼! おまえ宛に郵便だ!」
返事はない。そもそも池の中に好んで住むような人なんているはずもない。
「アニキ、いったい何をしてるんで――」
「ケガしたくなかったら下がってろ」
コガネの問いを遮る小波。意味のわからないままコガネが後ろへ下がると、ふいに雲が晴れて月が姿を見せる。
月明かりに照らされて、茫々と広がる不忍池。水面の先に見えるのは、浮かび上がった弁天堂のシルエット。
それに合わせたわけではないだろうが、池から声が聞こえる。
「だぁーれでいすかぁ」
幼い子供を思わせる高い声は、水に溺れたようにゴボゴボとくぐもる。
そして水面に浮かんだ蓮の枯れ茎を噴き散らしながら、水の中から何かが姿を現した。
見た目は五、六歳ほどの童女に近い。だが一糸まとわぬその裸身は薄く透き通り、月の光に照らされてぬめぬめと油膜じみた光沢を放つ。
「……」
小波は無言で、自身が幼粘鬼と呼んだ童女の姿を凝視する。
というより、ガン見してる。
「……アニキ?」
コガネの声で我に返ったのか、小波は急にわたわたと慌て出す。
「い、いや別に、これは裸の女児に見入ってたワケじゃないからな? ムラムラもしてないし」
「そんなこと聞いてねえよ」
語るに落ちたとは、まさにこのことか。




