#五十八 明磁異神(二)
「確かに鹿鳴館(※四十二)なら宮城にも近いが……」
前島の説明を聞いて、紅葉は扇子を顔の前でパチパチさせながら考えこむ。
「鹿鳴館ってまだあったんですか」
「さびれてはいるが、建物は今もある」
「で、そこにヤバいのが溜まってるってワケか……」
討伐状の束を見やる紅葉。どうやら相当な数の悪しきものが溜まってる模様。
「すでに周辺では襲われる人が増えていて、放っておくと被害は増える一方だ」
「だから叩くって理屈はわかった。で、いつ乗りこむんです」
紅葉が尋ねると、前島は即答した。
「先に延ばすほどこちらが不利になる。今夜にでも配達へ行ってもらいたい」
「それじゃ巌谷くんは……」
シズ子が心配するとおり、今の小波は御伽創死を撃てない。この状態だと戦力として期待するのは難しい。
「本来なら治療に専念させるべきだろうが、今は少しでも手駒が欲しい。非戦闘員のシズ子君以外は参加してもらいたい」
そう言って、前島はコガネの肩にポンと手を置いた。
「そこで、君の出番というわけだよ」
「えっ、オイラ!?」
「巌谷君の助手というのは君のことだろう。活躍は尾崎君から聞いているよ」
「え、あの、その、どうも」
褒められるのに慣れてないコガネが、わたわたと動揺する。そこに小波が割って入った。
「どさくさに紛れて、何コガネに触ってんだよこのエロジジイ。髪の毛むしるぞ」
「はっはっは。巌谷君はさらに減給な」
脅されても全く動じない前島。むしろわざと小波を怒らせて楽しんでるようにも見える。
「とまあ、彼は君のことを全面的に信頼しているようだから、君が彼の右手になってやるといい」
「は、はい……」
うろたえつつもコガネがうなずく後ろで、なぜか小波まで動揺する。
「俺の右手にっていうのは、つまり性的な意味でも……」
「「「「黙れ変態」」」」
意味がわかってないコガネを除いた、全員の声が小波に集中した。
※四十二 鹿鳴館…明磁十六年、欧米諸国との不平等条約を解消するためには風俗の欧化が必要と考えた外務卿の井上馨が提唱して建てられた社交場。国内外の外交官や政府高官を招いて連日舞踏会や園遊会が開かれたが、欧米文化の上辺だけを真似た姿勢はむしろ欧米の嘲笑を浴び、条約の解消には全く役立たなかった。その後井上は責任をとって外務卿を辞任し、明磁政府による失政の代表例として鹿鳴館が挙げられることも多い。




