#五十六 前島密
「おいジジイ、何しに来やがった」
分室に入ってきた前島に、いきなり小波が因縁をつける。
「はっはっは、巌谷君は減給な」
「ひどい!」
というか、因縁をつけた小波のほうがひどい。
「まあ冗談はさておき」
小波の因縁は慣れてるのか、サクッと流して本題に入る前島。
「私がここに来たのは他でもない。これを配達してもらいたい」
懐から取り出したのは、コガネもこれまでに何度か目にした討伐状。
「私や榎本殿のような、外部から乞われて政府に入った者は、政府の中心に居る薩長勢の動向をずっと見守ってきた。連中のしてきたことを思えば、きっと何か企んでいると思ったからね」
「で、その企みがようやく明らかになったと」
「ああ」
前島は机の上に、討伐状とは別に持参した地図を広げる。
「すべては戊辰戦争の頃から、周到に準備されていた」
指さす先には、江戸城(※三十九)改め宮城がある。
「ここから東北の方角には、寛永寺があった」
「寛永寺というと、徳川家の菩提寺(※四十)ですね」
美妙の言葉に、前島も「その通り」とうなずく。
「寛永寺は上野戦争でその大半が消失した。江戸城の鬼門に位置し、霊的な防衛を果たしてきたこの寺を破壊することで、薩長勢は東京に邪悪な勢力を呼び集めたのだ」
「それがこれまでに配達してきたヤツらってことか」
「うむ」
捌胃婆が黒田清隆に敵対する者を殺してたことは、コガネも当の捌胃婆から聞いた。自分たちの権力を維持するために、そうした勢力を利用するというのはあり得る話だ。
なんて思ったら、そんなに単純な話でもなかった模様。
「大政奉還から二十年近く、東京に蔓延した邪悪な力は、帝国憲法発布の場で一気に解放される。宮城に集められた多くの列席者を生贄にして、邪悪な神を降臨させる。それが薩長、いや長州勢の真の狙いだ」
「邪悪な神……」
「それがヤツらの企む真の革命、明磁異神だ」
※三十九 江戸城…徳川幕府の中心となった城。大政奉還の後に開城し、明磁二十一年に宮城と改称された。
※四十 菩提寺…一族の墓がある寺。




