#五十五 山田美妙(二)
「――よし、と」
右手が使えない小波の代わりに、美妙が討伐状に消印を押す。
「巌谷は私が責任を持って送ります。貴方は下宿に戻ったほうがいいでしょう」
貧血でグッタリした小波を抱えた美妙に、コガネも「そうですね」とうなずく。
コガネだって小波の様態は気になるが、朝になって自分がいなかったらお婆さんが心配する。
「アニキを、よろしくお願いします」
コガネが頭を下げると、美妙は憮然とした顔で返す。
「巌谷は、いい相棒に恵まれたようです」
無表情ながら、コガネには微笑んだようにも見えた。
〒
不安な夜が明けて、コガネが分室へ行くと既に小波たちは全員揃った状態。
「アニキ!」
「おう、どうした」
小波はいつもの調子で応えるが、その右手は包帯でグルグル巻きにされて痛々しい。
「どうしたじゃねえよ! オイラすっげえ心配したんだから」
「あー触るな触るな。マジで痛えから」
「全治二ヶ月ですって」
まるで面白いことみたいにシズ子が報告する。
もちろん本気で面白いワケではなく、コガネの不安を和らげるつもりに他ならない。実際、コガネもそれを聞いて落ち着いた模様。
「捌胃婆の件はコガネが来るまでに、小波と美妙から聞いた」
落ち着いたコガネに、紅葉がこれまでに話した流れを説明する。
「おかげで連中の狙いがだいぶわかってきた」
「連中って、捌胃婆とか幼粘鬼とかのこと?」
「厳密には、そいつらを上で操ってるやつらだ」
小波が補足する。
「それって――」
「それは私から説明しよう」
コガネの背後から声。侵入者に向かって、小波が毒づく。
「来やがったな、出しゃばりジジイめ」
逓信次官、前島密がそこに居た。




