#五十四 山田美妙(一)
「早く部屋に戻って手当てしないと! 消印押すのは後でいいから!」
「そうだな」
ボケる余裕もないのか、コガネの言葉に従って立ち去ろうとする小波。そこに背後から声。
「待ちぃぃなぁぁぁ」
振り向けば、後頭部を吹っ飛ばされた捌胃婆が脳を垂らしながら追ってくる。
割れた顔からは口がダラリと垂れ下がり、どこから声が出たのかも謎。
「うわあ!」
思わず叫ぶコガネ。真夜中の墓地でこんなのが追ってきたらそりゃ怖い。
「がぁぁぁぁぁ」
「アニキ急いで! 足はケガしてないんだから走れるだろ?」
「貧血でフラフラすんだよ……」
捌胃婆の動きは意外に速く、このままだと追いつかれるのは時間の問題。
御伽創死はとても撃てる状態ではないし、詰んだかとコガネが思った矢先。
疾風。
何かが横から飛びかかって、洋剣で捌胃婆に斬りつけた。
「ぎゃぁぁぁ」
突然の攻撃に対処しきれず、そのまま両断される捌胃婆。やがてその断片は塵となり、墓地の中へと消えて行く。
「……誰?」
斬りつけた乱入者にコガネが提灯を向けると、洋剣を手に立つ男が照らし出される。
暗くてわかりにくいが、身に着けた衣服が小波のものと似て見えた。
「美妙さん……」
小波の声に、男は洋剣を鞘にしまいながらうなずく。
「貴方がコガネさんですね。尾崎から聞いています」
「じゃあ、あなたが……」
以前に紅葉から名前だけは聞いたことがあったが、実際に会うのはこれが初めてだ。
「私は山田美妙。そこの巌谷と同じ、郵便局分室の特命配達員です」




