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#五十三 捌胃婆(四)

 捌胃婆に右手をまれ、逃げようにも身動きのとれない小波。


 頼りの御伽創死は、手首と一緒に捌胃婆の口の中。


 そんな状況なのに、提灯に照らされた小波の表情には余裕が見える。


 コガネは強がりかと思ったが、それを見透かしたように小波がつぶやいた。


「まあ見とけよ」


 そう言うと同時に、小波は空いた左手を捌胃婆の口に伸ばす。


「!」


 口と顔をつなぐ管状になった部分。ここを握られると逆に捌胃婆も逃げられない。


「アニキ……?」


 行動の意図がわからず、困惑するコガネ。小波は構わず、左手で捌胃婆をたぐり寄せる。


「……!」


 口をふさがれて声を出せない捌胃婆が、表情でイラ立ちを示しながら引き寄せられる。


 鼻で呼吸はできるから窒息はしないだろうが、それまで動き回った直後に口呼吸を封じられるのはかなり苦しそうだ。


 一歩、さらに一歩。小波に引き寄せられる捌胃婆。


 そして至近距離まで近づいたところで、小波は咬まれた右腕を口ごと捌胃婆の顔面に押しつける!


 どうっ!


 くぐもった銃声と共に、捌胃婆の後頭部が弾け飛ぶ。夜の墓地に血と脳が飛び散る。


「御伽創死――、くそ、何も出てこねえや」


「あーもうそんなのどうでもいいから!」


 ようやく牙から解放された小波に、コガネが駆け寄る。腹を喰い破るほどの力であれだけ長い間咬まれて、右手が無事なはずがない。


「うわあ何これ! 指が曲がっちゃいけない方向に曲がってるじゃない!」


「やっぱり片手で撃つと、反動がひどいな」


 口調はいつも通りだが右手は血まみれだし、額には脂汗が浮かぶのがコガネにもはっきり見えた。

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