#五十二 捌胃婆(三)
提灯のかすかな灯りの中で戦う小波と捌胃婆。
コガネは貉だから夜目が利くし、捌胃婆も見えてる様子。人間の小波が一番視界が悪くて不利な状態。
「あーウゼえ。ちょこちょこ動いてねえでまっすぐ向かってこいよ」
「わざわざ撃たれに行く馬鹿がいるもんかい」
御伽創死を構えるが、なかなか狙いが定まらない。
「逓信省っていうと榎本(※三十八)のところかい。あいつは黒田様に救われたというのに、恩知らずなやつだね」
「前島の爺さんらは、薩長政府はいつか暴走すると思ってあらかじめ内側に抑止する仕組みを作ってたんだ。どうやらその読みは当たってたみたいだな」
互いに攻撃を仕かけては、言葉を交わすふたり。
コガネはその様子を見守りながら、自分に何ができるか自問する。
けどいくら考えても、邪魔にならないように立ち位置に気をつけるくらいしか思いつかない。
悩んでるところへ、捌胃婆がふいに口を飛ばしてきた。
「ひゃあ!」
慌てて攻撃はよけたものの、跳んだ拍子に提灯の火が消えてしまう。
「うわっ」
小波が声をあげる。ただでさえよく見えないのに、急に真っ暗になって何も見えなくなる。
「残念だったねえ」
「!」
コガネが全速力で火を入れ直して、小波を照らす。
「……」
捌胃婆の飛び出した口が、小波の右手に食いついてる。
腹を狙ってきたところを、とっさに御伽創死を持った右手を突き出して防いだ模様。
「アニキぃ!」
捌胃婆の口に力が入り、手首から垂れた血が地面に落ちる。このまま食いちぎりそうな勢いだ。
※三十八 榎本…榎本武揚。江戸生まれの幕臣。戊辰戦争では函館を占拠して薩長政府に抵抗するが、黒田清隆の説得で降伏。黒田の助命により許されると政府へ仕え、明磁十八年に初代逓信大臣に就任した。




