#五十 捌胃婆(一)
※三十七 議会…自由民権運動の高まりを受け、政府は明磁十四年に勅諭を発して憲法の制定と議会の開設を約束した。
「どうやら邪魔が入ったようだねえ」
乱入してきた小波に動じた様子もなく、捌胃婆がつぶやく。
顔と口の位置が離れてるから、聞こえ方がやや不自然なのはご愛敬。
捌胃婆の注意が逸れた間に、胃袋を喰い破られかけた男は五重塔の陰へ這って逃れる。
その顔を、コガネが火を入れ直した提灯で照らす。
「うひぃ!」
「アンタはさっさと逃げたほうがいいよ」
コガネに言われるまでもなく、闇の中へと逃げ出す男。その背中に小波が声をかける。
「本気で世の中変えたけりゃ、暗殺なんてせこいことやめて選挙に出るとかしろよー。近々議会(※三十七)が開かれるらしいから」
「ひぃぃぃぃ」
男の姿は速攻で消えて、暗闇から悲鳴だけが聞こえる。小波の声が届いたかどうかはわからないが、二度と暗殺しようなどとは思わないだろう。
「アンタたち、どういうつもりだい」
捌胃婆は淡々と、だがうっすらと怒気を含んで告げる。その横から、コガネが口を挟んだ。
「オイラも知りたいよ。大臣を暗殺するやつを殺すなら、政府の味方なんだろ。なのにどうして政府から討伐状が出るんだよ」
「そんなの決まってるだろ」
小波は即答して、御伽創死の銃口を捌胃婆に向ける。
「政府も一枚岩じゃねえってことだよ」
「身もフタもねえな……」
コガネがツッコむが、小波の表情は真剣そのもの。
「政府の敵だろうが味方だろうが、俺らのやるべきことはひとつだ」
「討伐状に従うこと?」
「惜しいけどちょっと違う」
小波は目線を捌胃婆に向けたまま続ける。
「人でも怪でも、まっとうに生きてるやつらに害をなす連中をぶっつぶすってことだ」




