#四十七 五重塔(一)
真夜中の墓地を、こっそり歩く不審な人影。
小波たちは気付かれないように、提灯の火を消してこっそり後を追う。
傍から見れば、追うふたりのほうがずっと怪しいのだが、それはさておき。
「どこに行くんだろうね」
「まあ焦るな。こんな夜中に出歩くやつなんかまともなはずがねえ、きっと捌胃婆と関わってるに違いねえ」
そう言って、どんどん後をつけていく。人影は墓地の奥へ奥へと進んで行き、たどり着いたその先は。
「……建物?」
「五重塔(※三十三)だな」
今は真夜中なのでほとんど見えないが、昼間には立派な塔が見える場所である。
こんな場所にどんな用があるというのか。
「あっ、誰かいる」
コガネが指さす先には、別の人影が待機してる。
「やっぱりな、思った通りだ」
「何が?」
尋ねるコガネに、小波はニヤニヤ笑う。
「こんな夜中に人目を忍んで会うなんて、男と女の逢引きって相場が決まってる」
「えっ」
驚いたコガネが、また顔を赤くする。もっともこの暗さでは小波にも見えないが。
「ねえ、よそうよ。そういうの覗き見するのよくないよ」
「いいっていいって。声の聞こえるところまで行こうぜ」
そう言って、勝手にずんずん進んで行く小波。
コガネも自分だけ帰るワケにいかないし、そもそもひとりで帰れる自信もないから、ついて行かざるをえない。
「……」
息をひそめて、塔へと近づくふたり。おまえら捌胃婆はどうするつもりだ。
※三十三 五重塔…天王寺に建てられた塔。三十四メートルの高さがあり、谷中の名所として知られたが、後に火災で焼失した。




