#四十五 谷中墓地(一)
「文学に必要な人生経験ができて、しかも生活費まで稼げる。いいことだらけだろ」
得意げに言う小波に対して、首をかしげるコガネ。
「それって、どの仕事でも言えることなんじゃねえの? 配達員じゃなくても」
「……」
コガネに指摘されて、少し考えこむ小波。
「まあ、それはそれ、これはこれってことで」
「どれだよ」
コガネはツッコみつつも、どことなく嬉しそう。
「……へへ」
「どうした、急にニヤニヤして。屁でもすかしたか」
「ちげーよ! そうじゃなくて、アニキとちゃんと話すのって初めてだから、なんか嬉しくって」
「嬉しいことかね、そんなの」
小波にしてみたら、特別なことを話したつもりはない。だがコガネがあんまり嬉しそうなので、くすぐったそうに身をよじった。
「ほら、そろそろ行くぞ。支度しろ支度」
そそくさと立ち上がる小波を見て、コガネは名残惜しそうにしつつも、ますます笑みを強めた。
〒
空は相変わらず一面が曇って、星ひとつ見えない闇夜。
そんな中、提灯を手にした小波がコガネを連れて歩く。
「うう、寒いし暗いし気味が悪いし」
コガネの言う通り、見回りをするのは一面に広がる墓地。
肝試しの時期でもあるまいし、出歩いて楽しい環境ではない。
「だからって、誰かが捌胃婆に襲われるまで待ってるワケにもいかねえだろ」
「そりゃそうだけど……」
先方が出向いてくれない以上、自力で捌胃婆を見つけ出さないと配達ができない。
不毛な探索は、まだまだ続きそうな気配だ。




