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#四十二 昔語り(一)

「――というワケで、おまえが寝てる間に次の配達が決まったって次第だ」


「それはいいんだけどよ……」


 小波の説明を聞いて、なぜか不満そうな顔をするコガネ。


「どうしてアニキがオイラの部屋に居るんだ?」


「だって外寒いじゃん」


 外套を脱いだ小波は、畳の上で寝転がって本を読みながら答える。


 暦では睦月いちがつ下旬の折。日が落ちれば寒くなるのも必定。


 加えて空は暗灰色に曇り、いつ雨やら雪やら降りだしてもおかしくない空模様。


「……」


 捌胃婆が出るのは深夜になってから。それまではただ待機するしかない。


 コガネがソワソワと落ち着かずに居る横で、小波は自室のようにくつろいだ様子。


 そこでコガネが切り出した。


「……なあ、アニキ」


「うん?」


 視線は本に向けたまま、小波が反応を返す。


「さっきから読んでるそれ、何の本だ?」


「医学書」


 即答した小波に、コガネが思わずツッコむ。


「またそんな冗談ばっかり言って! どうせアニキのことだ、ちっちゃい子供のカラダの仕組みがいっぱい載ってる本なんだろ?」


「おまえは俺のことを何だと思ってやがるんだ……」


 小波はうめきながら、読みかけのページを開いて見せる。


「……暗号?」


独逸ドイツ語だよ」


 どうやら嘘でも冗談でもなく、本当に医学書らしい。


「でも、なんでアニキが医学書を?」


「いや、元々俺は医者の家系(※三十一)だし、興味がないワケじゃないんだよ」


「へえ……って、聞きたいのはそんなことじゃなくって」


 思わぬ方向へ話がそれたが、本当に聞きたかったことへ話題を戻す。


「アニキはどうして、配達員になったんだ?」

※三十一 医者の家系…巌谷家は代々藩医で、小波も幼い頃は医学を学ぶためにドイツ語の教育を受けた。

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