表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/76

#四 上野公園

 小波とコガネが店を出る頃には、すっかり日も落ちて辺りは夜闇の中。


「悪いな、全部おごらせちまって」


「気にするな、どうせ経費で落ちる」


 小波はそう言うが、コガネは「いやいやいや」と首を横に振る。


「店でも言ったけど、アニキはオイラにとっちゃ命の恩人だ。何しろこの三日ほど実入りがなくて、まともに食ってなかったからな」


「それであんなにしつこかったのか……」


 停車場に出入りする人が多いとはいえ、全員が革靴をはくわけではない。中には衣服は洋装でも足下だけ下駄、なんていう和洋折衷な輩も少なくない。


「もっと稼げる仕事がありゃいいんだけどよ、そう上手くもいかなくって」


「学校(※六)は行ってねえのか……って、聞くだけ野暮か」


 三日もまともに食事できなかったやつが、学校に通える境遇のはずがない。


「……」


「……」


 すっかり夜も更けて人通りの絶えた道を、無言で歩くふたり。


 公園の桜はまだつぼみも小さく、咲くのは先になりそうだ。


「ところでアニキ、いったいどこまで行くんだよ」


 コガネに問われて、辺りを見回す小波。


 場所は不忍池しのばずのいけのほとりで、水面みなもには枯れた蓮の茎がプカプカ浮かぶ。


「この辺でいいか」


 唐突に立ち止まった小波、そのままコガネに向き直る。


「ど、どうしたんだいアニキ?」


 動揺するコガネ。小波の顔が近付く。


「……」


「い、いや、ちょっと待てアニキ、聞いてるのかよオイ!?」


 過剰なくらいにうろたえだしたコガネの眼前、吐息も触れる至近距離で小波は口を開いた。


「化かさねえのか?」


「え?」

※六 学校…明磁五年の学制により全国に小学校が設立されたが、当時の就学率は五割程度といわれる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ