#三十一 新橋駅(二)
石を積み重ねたプラットフォームに置かれたベンチに座り、言葉を交わす小波とコガネ。
手には素焼きの茶器。横浜まで出向く乗客が車内で飲めるように茶を入れた、使い捨ての急須と茶碗だ。
「けど、西洋じゃなかったらどこから入ってきたんだ? 清国(※二十三)か?」
「外から来たとは限らねえ。もともとこの国にいたやつらが、御一新をきっかけに出てきた可能性だってある」
「可能性ねえ」
コガネはつぶやいて、茶碗に残った茶を飲み干した。
「それを言い出したら、可能性なんていくらでもあるだろ? 新しく生まれてきたかもしれないし、いきなり空から降ってきたかもしれない」
「その通りだ。逓信省の偉いさんたちが調べてるけど、いまだにわかってねえらしい」
「へえ、そうなんだ」
だったら自分にわかるはずもない。コガネは納得した。
「そろそろだな」
小波の声に、顔を上げるコガネ。空は夕焼けに染まり、しだいに夜の闇へ包まれつつある。
陸蒸気は音と煙がすごいので、夜は走らない。
なので日が落ちてしまえば、すぐに辺りから人はいなくなる。
「……」
ガランとしたプラットフォームで、宙宙列車とやらを待ち構えるふたり。
さっきまでにぎやかだった分、静まりかえると物寂しさが際立つ。
やがてどこかから、何か聞こえてきた。
汽笛のような、悲鳴のような、あるいはもっと邪悪な何かの声。
「……来るぞ」
小波がカバンに手を入れる。取り出した封書は討伐状。
声が近づく。拳を握るコガネ。
そして現れたのは。
「ぼおおおおお」
「!?」
※二十三 清国…中国の王朝。明の滅亡後に中国全土を統一したが、アヘン戦争をはじめ欧米列強の進出を受け、その支配は揺らぎつつある。




