#三十 新橋駅(一)
さすがに二日休みとはならず、小一時間ほど休んだところで配達に駆り出される小波たち。
「あー畜生、まだ荷物の持ちすぎで手足が痛えよ。紅葉さんたち、部下を働かせすぎだっつーの」
愚痴りながら歩くのは新橋(※二十一)の停車場。石造りの重厚な建物の中は乗り降りする多くの人たちでにぎわう。
「ここが次の配達先なのか?」
「ああ。宙宙列車とかいうやつらしい」
資料を見ながら小波が答える。
「なんでも、線路の上に寝かせた人を轢き殺すんだとか」
「それすげえイヤだな……」
とはいえ今は日が高いので、そんな物騒な輩が出てくる気配は全くない。
「なあ、この前話してたことの続きだけど」
「ん? 朝一番の小便が予想もしない方向へ飛んでく話のことか?」
「そんな話、一度もしたことねえよ!」
顔を真っ赤にして、速攻でツッコむコガネ。少なくとも、年頃の少女とする類の話ではない。
「そうじゃなくて、明磁になってからそういう変なのが出てきたって話だよ」
「あー」
小波は笠の内に手を入れて、ぼりぼりと頭をかく。コガネは構わず続けた。
「明磁からってことは、やっぱり西洋から入ってきたのかな。陸蒸気(※二十二)みたいに」
ちょうどそこへ汽車が入ってくる。小波たちもプラットフォームへ立った。
文明開化と称して、たくさんのものが西洋から入ってきた。その中に紛れて、人に害を及ぼす悪しきものが東京へ忍びこんでも不思議ではない。
「前にも言ったけど、詳しいことは俺も知らねえんだよ。俺も明磁生まれなんでな」
そう前置きしてから、小波は「ただ」と付け加えた。
「あんまり早くに結論を出すのは危険だぜ。世の中、何が起こるかわからねえからな」
※二十一 新橋…明磁五年に新橋―横浜間で、初めて鉄道が開通した。
※二十二 陸蒸気…蒸気機関車の俗称。蒸気船に対して、陸を走ることからこう呼ばれた。




