#二十九 尾崎紅葉(二)
「ただいまー」
シズ子が買い出しから帰ってくる。
どうして手ぶらなのかとコガネが思った矢先。
「ぐ……」
荷物の塊が、シズ子の後ろから入ってきた。
いや、よく見たら小波だ。両腕と背中、首にまでびっしり紙袋や風呂敷包みが装着されて、真冬だというのに汗だく。
「少しは……持ってくださいよ……」
「何を言っているの。男の人の存在価値なんて、荷物を持つのと高いところのものを取るぐらいじゃない」
「それはさすがに言いすぎなんじゃ……」
同じ女性のコガネでも、ツッコむしかない。
「あら、室長」
ここでシズ子が紅葉の存在に気付いた。
「おう、もらってきたぜ」
懐から封書の束を取り出す。扇子といい、色々入ってる模様。
「逓信省が書いた討伐状だ」
「こんなに……」
官製の書類らしく、封筒の大きさも全部そろった束を見て、コガネが声を漏らした。
それを紅葉は机の上に広げて、ひとつずつ選り分ける。
「これは美妙。これとこれは俺がやる」
宛名だけを見て、シズ子と一緒にてきぱきと作業する紅葉。それを見て、本当に偉い人なんだとコガネもようやく納得した。
そして、荷物を片付け終えてぜーぜーと息をつく小波の方へ一通の封書を放る。
「それはおまえらがやれ」
「おまえ『ら』って……」
どうやら紅葉は、コガネが小波と組むことになったのもシズ子から聞いてるらしい。
「俺もおまえらが組んでどこまでできるか期待してるんだ。できないとは言わねえよな?」
ニヤニヤと笑みを浮かべる紅葉。どうやらお手並み拝見、といったところのようだ。
だが。
「もうちょっとだけ休ませて。あと二日くらい……」
「えーと、オイラはともかく、アニキがまだ無理みたいです」




