#二十八 尾崎紅葉(一)
男はコガネの頭に手を伸ばして――三角巾を外した。
「わあっ!?」
獣耳をあらわにされて、驚きの声をあげるコガネ。
その耳へ男が息を吹きかける。
「ひゃあああ!」
「ははは、本当に貉なんだ」
床にへたりこむコガネを見て、なぜか笑いだす男。涙目で見つめるコガネに気付くと、笑うのはやめずに手を振った。
「あー、悪ぃ悪ぃ。おまえがコガネだな、シズ子さんから聞いてる」
全然謝ってるように聞こえない。
「な、何なんだよアンタ?」
コガネに問われて、男は懐に手を入れる。
取り出したのは扇子。
「俺は尾崎紅葉。この分室の室長だ」
バッと開いた扇子には、「偉い人」と書いてある。自分で書いたのだろうか。
「え、偉いのか?」
「うん」
自分で言っちゃう紅葉。
「はわわわ、失礼しましたぁ」
相手が偉いとわかって、急にオロオロ慌てるコガネ。
小波たちの上司なら、自分にとっても上司になるのだから当然だ。
「あーいいよいいよ気にすんな。今のはどう考えたって、俺のほうが失礼だし」
「……それはそうなんだけど」
一方的に襲いかかってきたのは紅葉なのだし、そこは否定のしようがない。
「耳、弱いんだな」
「!」
顔を真っ赤にして耳を押さえるコガネを見て、さらに笑う紅葉。
「ははは、冗談冗談。俺は小波と違って、ガキに手を出す趣味はねえから」
「やっぱりアニキはそうなんだ……」
むしろそっちにショックを受けるコガネ。
「俺がどうしたって?」
入口から小波の声がする。




