#二十一 切裂惹狗(一)
夜の銀座。
瓦斯燈の明かりに照らされて、睨み合う小波と切裂惹狗。
コガネは小波の後ろで、邪魔にならないよう洋食屋の立て看板の陰に隠れる。
「抵抗は無駄だ。おとなしく切り刻まれるがいい」
そう告げる惹狗は、犬のような顔に人間の子供くらいの背丈。
身体の大きさに対して頭が大きすぎるせいか、人間よりもいびつに見える。
鎌鼬(※十八)みたいだ、とコガネは思う。だが鎌鼬よりも見た目が凶悪だし、まとった気の邪悪さが尋常ではない。
惹狗の持つ刃物は一見匕首(※十九)のように見えて、背の部分にはノコギリめいたギザギザがある。切られた時に痛そうだ。
「誰がおとなしく切られるかよ。ちょっとでもおかしな動きをしてみろ、その場で撃ち殺してやる」
小波は強気に言うけど、狙いをつける難しさはコガネも前回の幼粘鬼で散々見てる。短銃は連射ができないから、一発で仕留めないと小波が不利になる。
今は言葉をかけ合いながら、互いに駆け引きをしてるっていうのが実情だろう。
「……」
息を呑むコガネ。静寂の中、緊張だけが高まり続ける。そして。
「はぁッ!」
叫び声と共に、惹狗が横へ跳ぶ。小波が素早く銃口を向けるが、惹狗はさらに逆方向へ跳躍。
ジグザグに移動しながら、少しずつ距離を詰める。そしてある程度近づいたところで、ふいに手に持った匕首を小波へ投げつけた!
「!」
とっさに御伽創死を振るって銃身で弾く小波。
銃口を戻すよりも早く、惹狗は別の匕首を取り出して飛びかかる!
「アニキィィィィ!」
※十八 鎌鼬…鼬に似た妖怪。知らないうちに切り傷ができてるのはだいたいこいつのせい。
※十九 匕首…つばのない短刀。




