#二十 銀座煉瓦通(三)
「どこだ?」
「あっち!」
人間より聴覚の鋭いコガネが示す方へ、駆け出す小波。
その先では道に倒れた女性に、刃物を持った小柄な人影がまさに襲いかかろうとするところ。
「何してんだテメエ!」
小波が声を張り上げると、人影はすぐさま女性から離れて駆け出す。
「怪我はないですか」
尋ねる小波に、震えながらもうなずく女性。
スカートの裾を裂かれたものの、外傷はないようだ。
「こんな時間に出歩いたら危ないです」
「近くの勧工場(※十七)に勤めているのですが、今日は仕事で遅くなってしまって」
「アニキ、あそこだ」
コガネが示す先には、先程逃げた人影が距離を取りながらこちらの様子を窺うのが見える。
「ここは俺たちが何とかします。早く逃げて」
「は、はいっ」
立ち上がって、脱兎のごとく逃げ出す女性。それを追おうとする人影の前に、小波とコガネが立ちはだかる。
「なぜ邪魔をする」
人影が唸り声をあげる。どうやらこいつが、小波の言う切裂惹狗らしい。
「こっちはおまえに用がある。郵便が来てるんだよ」
カバンから出した封書を開ける。
「逓信省特命郵便配達員、巌谷小波。横にいるちっこいのは、協力してくれる民間の方だ」
「どうも、民間の方です」
急に言われて、ぎこちなく頭を下げるコガネ。
切裂惹狗はふたりを交互に見比べて、刃物を構える。
「男や子供を殺してもつまらぬが、邪魔をされた恨みもある。代わりに裂いてやろう」
「へっ、させねえよそんなこと」
言いながら小波は討伐状をカバンに戻し、代わりに御伽創死を抜く。
「明磁政府の命により、おまえを討伐する」
※十七 勧工場…ひとつの建物に複数の商店が集まって商品を陳列、販売した施設。明磁十一年、現在の丸の内に作られたのが始まり。ぶっちゃけデパートみたいなもの。




