#十九 銀座煉瓦通(二)
「今回の配達先は、この銀座に出没しやがる切裂惹狗だ」
討伐状の封筒とは別に渡された資料を読みながら、小波が説明する。
気付けばすっかり陽も落ちて、瓦斯燈(※十六)に灯りがともる。
「何だい、そのヘンテコな名前は」
「名前は上の連中が便宜上、適当につけただけだ。別に本人がそう名乗ってるわけじゃねえ」
「ふうん」
そういうものなのか、とうなずくコガネ。確かに前回も小波が幼粘鬼と呼んでただけで、向こうからは名乗った覚えがない。
「で、そいつはどんな悪いことをしたんだよ」
コガネに問われて、さらに資料の先を読む小波。
「えーと、刃物のようなもので若い女を次々と切り刻み、傷口に看板を突っこんで全身を広告塔にしてしまう」
「めちゃくちゃヤバいやつじゃねえか!」
とても正気の沙汰とは思えない。
「ヤバいやつだから討伐状が出されるんだろうが」
「そうかもしれないけど……」
不安そうなコガネの肩をぽんぽんと叩いて、小波が元気づける。
「なーに、俺たちなら心配はいらねえだろ。俺は男だし、おまえみたいなちびっ子は女になんか見えねえから」
「何だよ、それ」
コガネが口をとがらせる。
どうやら分室で男の子扱いされたのを、まだ根に持ってる模様。
「……そのちびっ子が好きなくせに」
そうつぶやいたコガネだが、その意味を自覚した瞬間に顔が真っ赤になった。
これじゃまるで、小波が自分のことを好きだと言ってるようなものではないか。
「わっ、今のなし! オイラ何も言ってないから!」
「忙しいやつだなあ」
小波が呆れた声を漏らした刹那。
銀座の街並みに悲鳴が響いた。
※十六 瓦斯燈…ガスを燃料にした街灯。日本で事業として設置されたのは明磁五年の横浜が最初で、銀座では二年後の明磁七年に始まった。




