#十八 銀座煉瓦通(一)
夕刻の銀座。
煉瓦敷きの歩道(※十四)を、京橋から新橋方面へ向けてとぼとぼ歩く小波とコガネ。
ちなみに小波は、上野のときと同様に洋装に着替えてる。どうやら配達の際に着る制服らしい。
「えーとアニキ、オイラ難しい話はわかんねえんだけど、結局どうなったんだ? 経費で落ちたのか?」
「まだ決まってねえ。この配達でおまえが役に立つって証明できれば、それで初めて必要な経費だって認められることになる」
「ふうん」
コガネはつぶやいて、ふと首をかしげる。
「どうしたら、役に立つって証明できるんだ?」
「役に立ちゃあいいんだよおおおお」
「ひいいい!」
血の底から響くような小波の声に、震え上がるコガネ。が、すぐに尋ね返す。
「けど、何をしたらいいんだ? 前の奴のときも、オイラはただ騙されてただけだし」
「あー、おまえは余計なこと考えなくていいや。どうせ難しいことはわかんねえだろ」
「そりゃそうだけどさー」
口をとがらせるコガネ。すると小波は「ちょっと待ってろ」と言い残して、雑踏の中に姿を消す。
「ほれ」
すぐに戻ってきた小波が手渡したのは、紙包みに入ったあんパン(※十五)。
「あ、ありがと」
「飯をおごるって約束だったからな」
パンはまだ温かい。が、よく見るとひとつしかない。
「アニキの分は?」
「俺はいい。中身を知ってしまったからな……」
「中に何が入ってるんだよ!?」
「安心しろ、冗談だ」
「安心できねえよ!」
文句を言いつつも、空腹には勝てずパンを食べるコガネ。味わう機会の少ない甘味が口内を満たして、夢中になって完食した。
「食い終わったら仕事の時間だ」
「お、おう」
見上げれば夕日は沈みきり、空は宵闇に覆われつつある。
※十四 煉瓦敷きの歩道…銀座は明磁五年に起きた火災の後に再開発が行われた。街路が整備され、歩道には煉瓦が敷かれた。
※十五 あんパン…木村屋が銀座であんパンの発売を始めたのが明磁七年。すぐに銀座の名物となり、木村屋以外にも多くのパン屋で作られた。




